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口から泡を吹き絶叫、「痛い、苦しい!」 公務員による「拷問」―組織的な「脱法行為」を行う入管庁

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
入管職員による暴行シーン 被害男性と大橋弁護士が公開したもの

 難民認定申請者(申請3回目以降)の強制送還を可能とすることから、国内外から「深刻な人権侵害につながる」「国際法に違反する」等、批判を浴びながらも、政府与党が先週に強行採決し、成立した改正(改悪)入管法。政府与党が成立を急いだ背景には、国会での審議で、法務省及び出入国在留管理庁(入管)のスキャンダルが次々に明らかになっていることがあるとも言われている。その一つが、入管職員による「拷問」と見なされるような行為と裁判を受ける権利の妨害などの、憲法違反の疑いがある行為を組織的に行っていること。これに関し、衝撃的な映像が公開された。

〇入管職員による拷問

 映像を公開したのは、アフリカ某国から日本に逃れてきた難民認定申請者の男性(40)と大橋毅弁護士。男性は2019年12月23日、強制送還のために成田空港に連行され、空港内の入管施設で、搭乗時刻まで待たされていた際に、入管職員らによる執拗な暴行を受けた。その後、飛行機の機内で男性が大声を上げ続けたため、機長の判断で、強制送還は中止。男性は自身が受けた暴力は不当として国賠訴訟を提訴した*。今回紹介する動画は、証拠として裁判所が入管に開示を求めたものだ。

*裁判では男性の主張を一部認めたものの、その内容は不十分で、控訴中とのこと。

 映像では、「私は難民」「帰れない」と訴えるピーターさんの腕を、入管職員らが背中側に捻じりあげ、痛みの余り絶叫する男性、さらに男性を床に押さえつけ、膝関節の上に入管職員が体重をかけ、男性が絶叫し続け、口から泡を吹いてぐったりしているシーンなどが記録されている。

 これらは、いわゆる「制圧」と呼ばれるもので、入管施設内の被収容者や男性のように送還されようとしている人が、少しでも「反抗的な態度」を示した際に、行われるものだ。だが、映像を見てもわかるように、男性は暴れていないのに、入管職員らは、執拗に男性に苦痛を与え続けている。実際、男性が提訴した裁判の第一審では、裁判所は、

「原告は、「帰らない」などと送還を拒絶する発言を繰り返しつつ、右に首を曲げ後ろを気にするそぶりをみせた。このこと自体は、原告及び原告に対応する入国警備官の受傷の具体的な危険性のある行為とはいえない」

と判断しているのだ(関連情報)。仮に、暴れることを防ぐとしても、例えば拘束衣を着せるなどして、不必要に苦痛を与え続けることは避けるべきだ。前出の大橋弁護士は、「これは、一審の裁判でも認められたように、入管の職員らは、送還を拒絶する発言をしたことで男性に暴力を行っているのです」と指摘する。「憲法36条は、拷問を絶対に禁止します。『帰国しない』という、送還を忌避する意思を失わせるために、重い苦痛を与えることは、拷問*であり、許されないのです」(同)。

*『世界大百科事典 第2版』では、拷問の定義は、「相手の肉体,あるいは精神に受容可能な範囲をこえる暴力,強制力を行使することにより,相手を屈服させ,その意志に反する行為を導き出すこと」とされている(関連情報)。

〇裁判を受ける権利のはく奪

 入管職員が男性に拷問を行ったこと自体が大問題であるが、そもそも、男性を強制送還しようとした経緯そのものが、入管の組織的な違憲行為なのだ。今回の入管法改正(改悪)以前は難民認定申請者を強制送還することが出来ない規定、すなわち「送還停止効」があり、来年の施行までは、なお有効である*。だが、入管は、男性の強制送還は、難民認定申請の「すき間」を狙って強行しようとした。大橋弁護士は「入管は、難民の認定をしない処分に対する異議申立の棄却決定の通知日と、強制送還の執行の日を、両部門が連絡を取り合って調整して、異議棄却決定を通知し、その場から送還執行を行おうとしたのです」と語る。「これも裁判で明らかになり、実際にその映像記録も観たのですが、男性に難民認定申請の不認定を伝える際に、入管職員は『この処分に不服である場合、6ヵ月以内に裁判を提訴することができる』と権利を読み上げています。ところが、そのすぐ後に入管職員らが強制送還を行おうとしたので、男性は『6ヵ月以内に裁判できるって言ったのに?』と激しく動揺したのです」(同)。

*施行後も、一回及び二回目の難民認定申請者の送還停止効は有効。

〇入管の組織的な違憲行為

 裁判を受ける権利を奪うことは憲法に反する。今回のアフリカ系男性のそれと似たようなケースとして、2014年末、難民不認定の取り消しを求める裁判を受けられないまま強制送還されたとして、スリランカ人男性2人が起こしていた訴訟で、東京高裁は2019年9月22日、入管側の行為を「憲法違反」とする判決を下している。

 つまり、今回のアフリカ系男性のケースも憲法違反の疑いが濃厚なのである。問題は、アフリカ系男性や上述のスリランカ人男性2人にとどまらず、こうした違憲行為が、入管全体として組織的に行われていることだと大橋弁護士は言う。「2017年3月1日には、入管局長名義の『指示』で、従来在留資格を有していたが複数回申請に及んだことで在留資格を失った人たちに対して、このような手法を行う体制を整備する通達が出されています」(同)。

 この通達、「難民認定制度の濫用・誤用的な再申請者の帰国促進に係る措置の試行について(指示)」を見ると、以下の様に具体的に書かれている。

出典 https://www.openthegateforall.org/2023/06/1_7.html
出典 https://www.openthegateforall.org/2023/06/1_7.html

 法務省は、「基本法制の維持及び整備」「法秩序の維持」などが、その主たる任務とされている(法務省設置法3条)。ところが、その法務省の主管する入管が、「拷問」としか思えないような行為や、裁判を受ける権利のはく奪などといった違憲の疑いが極めて濃厚である行為を、組織的に行っているのだ。もはや、入管そのものの存在が問われるべき事態と言えよう。改正(改悪)入管法案は採決されてしまったが、いや、採決されたからこそ、入管の「違憲」体質への、徹底追及が必要なのだ。

(了)

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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