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「首脳失格」露呈した岸田首相と、より大きな問題―国際舞台であぶりだされた日本の弱点

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
G20サミットには参加した岸田首相ではあるが…(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 全く、何という体たらくだ。最早、岸田首相は首脳としての資格が無いと言っても過言ではない。今月6日から、中東エジプトで地球温暖化対策の国際会議COP27(国連気候変動枠組条約第27回締約国会議)が開催されており、今日18日が会期の最終日となる。中間選挙で忙殺されていたバイデン米大統領も含め、100ヵ国以上の国々の首脳がCOP27に参加する中で、ついに岸田首相は最終日まで参加することは無いようだ。国土の3分の1が大洪水で水没したパキスタンのように、近年、世界各地で異常気象による被害が深刻化している。地球温暖化の影響は将来のものではなく、今そこにある「気候危機」として、その猛威が人々を襲っているのだ。早急な対策を行わなければ、人類の存亡すらも左右しかねない危機であり、今や温暖化対策は国際社会の最重要課題の一つ。その温暖化をいかに止めるかの国際会議の場に、岸田首相がCOP27に参加しなかった事情というものが、何とも情けないのと同時に、日本のさらなる凋落を予見させるものでもあった。 

〇無策、責任放棄の岸田首相

 岸田首相がCOP27参加を見送った理由として新聞各紙が指摘するのが、旧統一教会問題など臨時国会への対応だ。ただ、国会スケジュールが過密になったのは、安倍元首相の国葬や、旧統一教会と自民党との関係などを追及されることを嫌い、野党側が求めた早期の臨時国会召集に応じず、ずるずると召集を遅らせた岸田首相及び自民党側の責任である。また、より本質的な問題は、「今回は特に日本として強く打ち出せるものがない」と、今月8日付の朝日新聞が官邸スタッフの話として伝えたように(関連情報)、そもそも岸田首相がCOP27参加へ及び腰だったことがあるのだろう。象徴的なのが、昨年、イギリスで開催されたCOP26での、岸田首相のアピールの不評ぶりだ。大量のCO2を排出する石炭火力発電を廃止することは、温暖化対策の中でも最優先の課題だが、岸田首相は、石炭にアンモニアや水素を混ぜてCO2排出量を減少させたり、排出されたCO2を回収して地下に埋設するCCS(二酸化炭素回収・貯留)を活用したりするなどの「ゼロエミ火力」をアピールした。だが、アンモニアや水素の混焼にしても、CCSにしても、技術として実用レベルには至っておらず、石炭火力発電を延命させ、より多くのCO2を排出させるだけだとして猛批判を浴び、環境NGOから「化石賞」(温暖化対策に後ろ向きである国に与えられる不名誉な賞)に選ばれた。岸田首相は自信満々で「ゼロエミ火力」をアピールしたものの、逆に日本の評価を落としただけという、何とも無様な結果になったのだ

〇「誤った対策はやめろ」と世界の環境NGO

 呆れることに、COP26で猛批判を浴びたにもかかわらず、岸田政権は日本のエネルギー政策を修正することもなく、「ゼロエミ火力」を推進し続けようとしている。しかも、環境団体「Oil Change International」「FoE U.S」の調べによれば、2018年から2020年の間で、日本は石油、ガス、石炭の開発事業に少なくとも年間約100億ドルの公的資金を供与しており、これは世界最大級だという。こうした日本の振る舞いが、破局的な温暖化の影響を回避するために、世界平均気温の上昇を1.5度に抑えようという、国際的な取り組みを破綻させかねないのである。そのため、「Friends of the Earth Japan」や「Oil Change International 」など7つの環境団体が呼びかけ、世界各国の48団体が賛同し、日本政府に対し「誤った対策」の推進をやめ COP27で化石燃料への資金供与停止を約束することを求める要請書が、今月1日、岸田政権宛で提出されたのだった。

〇日米の有権者の意識の差

 ただ、問題は、岸田首相一人だけに起因するものではない。岸田首相がCOP27の参加を見送ったのは、再び国際会議の場で批判されるのが嫌だったからということもあるのだろうが、COP27への不参加が、政権への打撃にならないと考えているからだろう。それは、有権者側の問題でもある。今年7月の参院選の直前、NHKが行った世論調査では、重視する政策として「エネルギー・環境」をあげたのは、たったの5%だった(関連情報)。西日本豪雨など、線状降水帯の発生による深刻な大雨被害が頻発するようになり、気象庁もこれらの災害と温暖化との関連に言及するようになった、ロシアによるウクライナ侵攻でエネルギー価格が高騰した等の「判断材料」があっても、日本の有権者の反応は鈍い。はっきり言えば、温暖化に対する危機感が低すぎるのだ。

 これに対し、先の米国での中間選挙の直前の世論調査(ギャラップ社)を見てみると、重視するテーマで「温暖化」は全体では26%。民主党支持者では49%が「温暖化」を重視し、「経済」(33%)を上回っている関連情報)。中間選挙後、バイデン大統領が短時間とは言えCOP27に駆けつけたのは、こうした世論もあるのだろう。

〇日本は自滅を選ぶ? 

 日本での、温暖化に対する意識の低さは、報道の質による部分もあるのかもしれない。特にネット系の媒体は酷く、この期に及んで温暖化懐疑論を取り上げたり、そこまでいかなくても、「ウクライナ危機にあえぐ欧州、脱炭素政策は失敗だった」等の、非常に偏った主張ありきの記事が目立つ。再生可能エネルギーや電気自動車の普及で日本の遅れが顕著になってきた中で、ルサンチマン的な主張がネット上に溢れているのだ。だが、突き放した言い方をすれば、日本が温暖化対策から目を背け、経済の脱炭素化を拒めば、世界の市場から締め出されるようになるだけだ。そうした兆候は、既に、日本の「お家芸」である自動車産業にも現れつつある。

 昨今、国際的には、温暖化を促進させるような事業への投資の引き上げ(ダイベストメント)の動きが活発になっているが、このままでは、日本への投資や日本とのビジネスを避ける動きも出てくるだろう。それでも、日本の人々や社会、政治が変わることを拒否するのであれば、それもまた選択なのであろうが、とても賢いものとは言えない。岸田首相の資質も大いに問われるべきだが、問題はもっと根深いものなのだ。

(了)

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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