出入国在留管理庁(入管)が難民その他帰国出来ない事情を抱える外国人の人々を、その収容施設に長期拘束(収容)していることについて、国内外からの批判が高まっている。国連からも「人権に関する国際条約に反する」と指摘された入管であるが、これまでの排外主義的な法制度や運用を見直すどころか、国連からの指摘をフェイクによって塗りつぶそうという暴挙を続けている。しかも、本来、権力を監視する立場にあるメディアも、入管の主張を鵜呑みにして、フェイクを拡散してしまっているのだ。

○「入管収容は国際人権規約に反する」

 先日、1300日超もの長期にわたり収容された難民認定申請者の、サファリ・ディマン・ヘイダーさん(イラン出身)とデニズさん(トルコ出身、安全のため名字は非公開)が、入管側の対応は、人権についての国際条約「自由権規約(市民的及び政治的権利に関する国際規約)」 に反するものだったとして、国に賠償を求める裁判を今月13日、提訴した。これは、昨年9月、国連人権理事会の恣意的拘禁作業部会(以下、国連WG)が、サファリさんとデニズさんの収容も含め、入管による長期収容や入管法自体が「自由権規約に反する恣意的拘禁」との意見書をまとめたことを受けてのものだ。

 詳しくは、上記の記事を参照してもらいたいが、なぜ国連WGは入管による収容を「自由権規約に反する」としたかというと、いくつか理由があるのだが、大きな論点としては、

入管が裁判所の審査なしに、その裁量で長期収容を行なっていること

がある。すなわち、現行の入管による収容は、"個人を逮捕・抑留する場合、それが合法的なものかを裁判所が遅滞なく審査し決定すること"を規定した自由権規約第9条4項に反すると国連WGは、その意見書で指摘したのだ。

自由権規約第9条4項:

逮捕又は抑留によって自由を奪われた者は、裁判所がその抑留が合法的であるかどうかを遅滞なく決定すること及びその抑留が合法的でない場合にはその釈放を命ずることができるように、裁判所において手続をとる権利を有する。

 これに対し、法務省/入管側は反発、「事実誤認」であるとして国連WGに「異議申し立てを行なった」と主張*。この法務省/入管側の主張を、大手メディアも鵜呑みにしてしまっている。今回のサファリさんとデニズさんの提訴をめぐる報道でも、朝日新聞やNHK、TBSなどが「国連WGに日本政府は反論している」と報じてしまったのだ。だが、法務省/入管側の主張こそ、「事実誤認」を招くフェイクなのである。

*法務省/入管は「収容への不服申し立て、退去強制の取り消し、仮放免を求めることで裁判を提訴でき、司法による救済はある」と主張しているが、収容や仮放免が入管の裁量で行なわれ、その都度、裁判所の判断が介在するわけではないため、自由権規約第9条4項に反する事実は変わらない。しかも、裁判は長期間に渡り、その間収容は続くため「遅滞なく決定する」とは言えない状況にある。

○国連のルールを無視する法務省/入管

 法務省/入管側の主張については、その問題点を、有志の弁護士達による「国連恣意的拘禁作業部会入管収容通報弁護士チーム」が指摘している(関連情報)。それによれば、日本政府の「異議申し立て」は国連WGによる意見書に関する制度を無視したもので、何の正当性もないというのだ。

 国連WGは、重大な人権侵害である恣意的拘禁が疑われる事案について、告発した当事者(今回の場合は、サファリさんとデニズさん)と、拘禁を行なっている側(同、日本政府)の双方から情報を得て事実確認をした上で意見書をまとめる。その意見書への「フォローアップ手続」(意見書がまとめた行なうべき対応を実行し報告すること)を、日本政府は求められていたものの、既に決定事項である意見書への「異議申し立て」は、制度上、存在しない。要は、「ルール違反」を日本政府はしているということだ。

 本来の「ルール」に則るならば、昨年9月に国連WGがまとめた意見書での、日本政府がやるべきとされたこととして、例えば以下のようなものがある。

  • 収容されていた難民男性2人に対して賠償金を支払うこと
  • 日本が自由権規約の下で負う義務との整合性を確保するため、出入国管理及び難民認定法(=入管法)を見直す

 自由権規約第9条5項には、「違法に逮捕され又は抑留された者は、賠償を受ける権利を有する」とあるが、国連WGからの要請にもかかわらず、日本政府はサファリさんとデニズさんを収容し、命すらも危ういまでに精神的・身体的に2人を追い詰めたこと(関連記事)に対し、何の賠償もしなかったため、自由権規約に基づき2人は提訴したというわけだ。

 また、国連WGは、裁判所による審査なしの入管収容を、自由権規約に反する恣意的拘束であると判断し、入管法自体を是正することを求めていたのだが、昨年、政府与党が国会に提出したものの、批判を浴びて成立を断念した入管法改定案*は、通用における裁判所の審査を盛り込んでいないなど、国連WGからの要請を無視したものであった。

*その内容から、「改正ではなく改悪」であると内外から厳しく批判されていたため、本稿では「改正」案ではなく、「改定」案と表記する。

 これらの「ルール違反」は、日本の外交と矛盾する。なぜなら、日本は、2016年に国連人権理事会が採択した、恣意的拘禁に関する決議の共同提案国だからだ。この決議では、

  • 恣意的拘禁に関する作業部会(=国連WG)の作業の重要性を強調する
  • 関係国に対し、作業部会の見解を考慮し、必要な場合には、自由を恣意的に奪われた者の状況を改善するための適切な措置をとり、それを作業部会に報告することを要請する

と明記されている。つまり、自国が共同提案した決議に従わず、日本政府は「ルール違反」しているのである。

デニズさん 筆者撮影
デニズさん 筆者撮影

 皮肉なことだが、「ルール」という言葉を入管は好んで使う。難民その他帰国出来ない事情を抱える外国人の人々を、その収容施設に長期収容したり、強制送還したりする口実として「日本のルールに反する外国人は国外に退去させなくてはならない」*と主張しているのである。だが、既に本稿で解説したように、「ルール」を強調するにもかかわらず、法務省/入管は、人権尊重のための「ルール」は軽視し、踏みにじってもかまわないというような姿勢が目立つ。提訴の会見での「私達にルールを守れという入管は、なぜ国連のルールを守らないのか?」というデニズさんの指摘は、正しく入管問題の本質を突いたものだ。

*そもそも、難民認定率の異常な低さ(関連記事)や東京五輪のための外国人への締付け強化(関連記事)などから、本来は庇護したり、在留を認めたりすべき人々に「ルール違反」のレッテルを張っていること自体が問題である。

○法務省/入管のフェイクを拡散すべきではない

 国連WGの意見書は、その内容について「利用可能なあらゆる手段を用いて、可能な限り広く本意見を発信する」ことも日本政府に要請している。だが、実際に法務省/入管がやったのは真逆のことだ。深刻な人権侵害の被害者を救済するための、国連WGの制度について、歪んだ情報を日本のメディアに向けて発信しているのである。メディア側も、法務省/入管のフェイクを鵜呑みにして、それを拡散するのではなく、例えば、上述の「国連恣意的拘禁作業部会入管収容通報弁護士チーム」による指摘も紹介するべきであろう。

 サファリさんとデニズさんの提訴について報道各社が取り上げた、そのこと自体は好ましいと筆者も思う。かつてはマイナーなイシューとして、入管問題をメディアが取り上げる機会が少なかったことを考えれば、最近の報道ぶりは隔世の感がある。だからこそ、なのであるが、各メディアの記者やデスク諸氏には、法務省/入管のフェイクに加担しないよう、重々気をつけていただきたい。無論、報道機関として中立公正や客観性を期するべく、対立する意見それぞれに耳を傾ける必要はある。だが、あくまで重要なのは、事実だ。異なる主張のどちらが信頼性があるのかとの判断から逃げて、安易に両論併記をすることは、フェイクを垂れ流すことになりかねない。

 昨年の国会審議で政府与党が入管法改定案の成立を断念し、今日から始まる通常国会での再提出も見送る見込みであるのは、やはり、ウィシュマさん事件への追及など、報道の力が大きかったのだろう。今回は苦言を呈させてもらったが、日本における最悪の人権侵害の一つだと言える入管問題を変えうる力が、報道にはあると、筆者も感じている。各メディアの志のある記者諸氏のため、本稿が役立てば幸いだ。

(了)