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入管法、真の改正のためには?

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
父親の解放を求める難民の少女 東京入管前で筆者撮影

 一部報道によると、今年の国会で廃案となった入管法「改正」案を、懲りずに入管は来年の通常国会に提出するつもりであるらしい。昨年の「改正」案は、難民の送還禁止に例外を設けることや、国外退去へ拒否に刑事罰を加えること、仮放免の厳格化(監理人による監視、報告が条件)などが、難民を支援する団体や人権団体、野党から「改悪」案だと批判され、今年5月、政府与党は会期中の成立を断念、事実上廃案に追い込まれた。来年の通常国会での入管法「改正」案がどのようなものになるかは、まだ詳細は明らかになっていないが、いずれにせよ、現在の入管法が人権上大きな問題をいくつも抱えていることは事実であり、入管法の改正が再び国会で審議されるならば、これまで国内外から再三受けてきた是正勧告を考慮すべきであろう。そこで、現在入管法及び入管行政の問題点と、あるべきかたちでの改正について、まとめてみた。

○低い難民認定率、長期収容

 入管は、正式には出入国在留管理庁といい、法務省の外局で、東京都千代田区霞が関にある本庁と8つの地方出入国在留管理局、さらにその支局や出張所からなる組織だ。その主な役割は、外国人や日本人の出入国審査、外国人の在留管理、外国人材の受入れ、そして難民認定など。本書で扱う入管による人権侵害は、主にこの、入国時の審査や在留管理、難民認定で起きている。そうした人権上の問題の一つが、他の先進国と比べても異常に低い難民認定率だ。日本も加入している難民条約は、締約国に対し、迫害から逃れてきた難民を受け入れ庇護することを求めている。だが、日本の難民認定率はコロナ禍で難民認定申請自体が減った2020年を除けば、高い年でも0.5%以下と、他の先進国の2~5割程度の認定率に比べ文字通り桁違いに低い。日本は「難民認定率が低い国」として、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)からも、その年次報告書で名指しされる有様だ。難民として認められなければ、在留資格がなく、後述するように入管施設に収容されてしまう。仮放免が許されても、就労が許されないため、生活は極めて厳しいものとなる。難民として認められなくても、人道上の配慮から在留特別許可が得られることもあるが、これも入管の裁量次第であり、その基準も不明確で、近年は在留特別許可が認められにくいという傾向もある。

 もう一つ大きな問題として収容がある。入管は、日本にいる外国籍の人々の在留資格、つまり日本に滞在したり、暮らしたりするための資格を審査する。そこで、在留資格が認められなかったり、オーバーステイ(在留許可期限を越えて滞在)になったりした人々を、全国に9つ以上ある入管の収容施設に収容、つまり、その身柄を拘束するのだ。この収容は、ほぼ全ての在留資格を得られていない「非正規滞在者」*を対象に行われ、「全件収容主義」とも言われている。どうしても帰国させるべき人物が帰国を拒み、強く抵抗する場合に収容するというのならともかく、実際には、難民申請中であるといった個別の事情も考慮されず、逃亡の可能性のあるなしに関係なく、一律に収容というかたちで個人の自由を奪ってしまうかたちだ。しかも、人身の自由を奪う行為であるにもかかわらず、入管の手続きでは、刑事手続きであれば必要とされる裁判所の令状なしに、収容が可能だ。これは、人権団体「アムネスティ・インターナショナル日本」が指摘するように、「いわば、警察官、検察官、裁判官、刑務官の役割を、入管という行政職員が行っている」という状態であり、チェック機能が働かない上に、入管に大きな権限と裁量が与えられてしまっているのである。しかも、その裁量は、「治安上のリスク」という差別的な外国人観の下で行われているのだ。

 

*日本では、一般的には「不法滞在者」と表記されることが多いが、国際的には在留資格を得られていないことだけで、違法行為とみなすことを見直す動きがあり、基本的には本稿でも「非正規滞在」という表記を使っていく。

○難民鎖国ジャパン

 「日本では難民認定申請者への差別が常態化している」―昨年9月にまとめられた国連人権理事会・恣意的拘禁作業部会の意見書は、日本の難民排斥ぶりに極めて厳しい評価を下し、改善勧告を行っている。なぜ、日本の難民認定数は、こうも少ないのか。筆者が法務省に問い合わせると「地理的に遠い、言語の壁などの要因から、避難を余儀なくされている人々が多い国からの難民申請者が少ないためであって、日本が難民を拒絶しているわけではない」と回答する。「難民認定申請者のうち、イラクやシリアなどUNHCRの報告書『グローバル・トレンズ』での難民発生国の上位5カ国からの申請はごくわずか」「我が国における難民認定申請者の多くが、真の難民ではなく、就労目的の申請なのではないか」(法務省)。

 筆者は上川陽子法務大臣(当時)にも、日本における難民認定率の低さについて質問したが、その答えは、

「難民をたくさん受け入れている国々ということがありましたけれども、歴史的にも、あるいは地理的にも、いろんな形でつながりがあるところの部分が非常に多いのではないかと思います(中略)難民の認定数を0.何%という形で、単純に比較をするということについては、私は必ずしも適切ではないかなと思っております」

 というもので、他の先進国と日本では事情が異なる、申請者の多くは真の難民ではないという法務省のスタンス(「令和元年における難民認定者数等について」など)を踏襲した回答であった。

 だが、実際に統計を見てみると、日本での難民認定申請者の出身国として多いスリランカやトルコ、ネパール等の国々からの難民認定申請者に対し、他の先進国での認定率は、日本よりも大幅に高いのだ。全国難民弁護団連絡会議のまとめによると、2006~2018年の統計で、スリランカからの難民申請者の日本での認定率は0%(申請者総数7058人中、認定0人)。これに対し、オーストラリアでは39.1%(1万2103人中4743人)、カナダでは78.3%(7590人中5949人)が難民として認定されている。 同じく、ネパールからの難民申請者*は日本の認定率は0%(8964人中0人)。これに対し米国では29.7%(1万2380人中3688人)、カナダでは61.7%(1276人中784人)が難民として認定されている。トルコからの難民申請者*は、日本での認定率は0%(6588人中0人)。これに対し、ドイツでは20.7%(3万8754人中8037人)、カナダでは57.3%(7631人中4374人)が難民として認定されている。その他、世界的に見ても多くの人々が難民化しているミャンマーの出身者の難民認定申請が日本でも多いのだが、やはり冷遇されている。つまり、「日本は他の先進国と異なり、難民が多く発生する国でないところからの申請者が多いのであって、難民認定率が特に低いというわけではない」という様な法務省・入管庁の理屈は、事実に反するのである。

*いずれも一次審査

○日本の難民認定審査の課題

 現地情勢や人権状況の厳しさが明白な国・地域からの難民が、日本では難民としてなかなか認定されないのは何故か。「収容・送還問題を考える弁護士の会」の高橋済弁護士は「いろいろ原因がありますが、個別把握説という日本独特のルールがあるでしょう」という。「これは、法務省が、『迫害の恐れがある』か否かを審査する際に、その国に帰ったら、確実にターゲットとされて迫害を受けるということが明白でないと難民として認めないというものです」。この個別把握説に基づく「迫害の恐れ」を証明することを難民認定申請者は多大な努力を強いられるというのだと高橋弁護士は言う。「これに、証言の整合性を非常に厳格に求められることで、99%の人々が『難民ではない』ということにされてしまうのが、現状なのです」(同)。実際、逮捕状や暗殺等の命令に関する文書など、迫害を受ける側にとって、その入手は極めて困難である。そもそも、実際の戦争や内戦、その他の人道危機などでは、特定の民族や宗教、政治的スタンス等であれば攻撃されるというケースが極めて多い。その個人が狙われているか否かよりも、その個人がどこから逃げてきたのか、その地域の情勢の分析から難民認定審査が行われるべきであるし、そこに送還された場合に迫害を受ける危険性があることは十分予想できる場合、難民として認定されるべきなのだろう。

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フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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