先月末から始まり、現地時間で今月13日に閉幕した、地球温暖化対策の国際会議COP26。不十分な内容ではあるが、全世界が破局的な温暖化の被害を未然に防ぐため、より前向きなかたちで合意したとも言える。だが、日本のニュースサイトに配信される、一部の新聞や雑誌の記事は、この期に及んでなお、一部の政党や業界に忖度し、環境活動家グレタ・トゥーンベリさんや温暖化対策に熱心な欧州諸国を揶揄する、極めて質の低いものだった。ジャーナリズムの役割として、権力を監視し、社会をより良い方向へと導くというものがある。日本政府の詭弁を擁護し、もはやフェイクとも言える様な周回遅れのロジックを拡散するようなメディアに存在意義はあるのだろうか。

○脱石炭は最優先課題に

 COP26での合意として、主に「世界平均気温の上昇を1.5度に抑える」「石炭火力発電を段階的に削減する」というものがある。1.5度以上の世界平均気温の上昇は、破局的な影響を世界全体にもたらす。それを防ぐには2030年までに、世界全体で温室効果ガス排出を45%削減する事が必要で、先進国はさらなる削減努力が求められる。COP26以前の各国の温室効果ガス排出削減目標では、2030年の時点で削減どころか13.7%の排出増となるとされていたから、2030年に向けての削減目標を練り直さないといけないということだ。そのためには、石油や石炭、天然ガスといった化石燃料に依存した経済を変えなくてはならず、とりわけCO2排出が多い石炭火力発電からの脱却は最優先課題というわけだ。

○グレタさんは過激か?

 だが、日本の新聞や雑誌の報道では、科学的な根拠や事実に基づく論議ではなく、日本の政府や業界の立場を擁護するための、感情的かつ事実としても誤っている発信が少なからずある。環境活動家のグレタ・トゥーンベリさんの主張を「過激」だと揶揄するものは、その最たるものだろう。だが、「科学の警鐘に耳を貸せ」というグレタさんの主張は果たして、「過激」なのか?私達は既に温暖化による気候のバランスの崩壊を目の当たりにしている。日本でも「数十年に一度」というレベルの豪雨が毎年のように発生し、その度に多大な被害を被っている。今後、温暖化を放置すれば、世界人口の3分の1以上の人々が、酷暑から現在住んでいる地域からの移動を余儀なくされるとの研究もある。今でさえ、イラクなど中東では気温50度を超えるような酷暑が増えているので、大いに有り得る予測だ。そうなれば、土地や食料、水を奪い合う戦争も起きるだろう。

 恐ろしいことに、温暖化が一定以上進めば、温暖化がさらなる温暖化を招くという悪循環になることも指摘されている。例えば、「巨大な鏡」として、太陽光線を反射し、その熱を逃がす役割を果たしている北極圏の海氷が失われたら、その分の熱が地球の大気圏内にこもり、温暖化が加速する。しかも北極圏の地下や海底には、膨大な量のメタンガスが蓄積されている。このCO2の25倍の温室効果を持つメタンガスが大量に噴出すれば、温暖化がさらに加速する。温暖化進行の悪循環が暴走状態になれば、もはや人類が温暖化を食い止めることは極めて難しくなり、最悪の場合は大気中の酸素の約7割を供給する植物プランクトンが活動を停止するとの予測も報告されている。つまり、人類は「酸欠」で滅亡するかもしれないというわけだ。「私達の未来を燃やすな」というグレタさんや彼女を支持する若者達の主張は、過激でも何でもなく当然の主張だろう。むしろ、人類や地球環境の将来を犠牲にしてまで、しかも再生可能エネルギーのコストや安定性での目覚ましい進歩を無視して、石炭に固執する方が、よほど過激で情緒的、そして非現実的なのである。

○「欧州VS途上国」という誤った構図

 だからこそ、COP26議長国イギリスを始め、多くの国々が石炭火力発電からの脱却を訴えたのだ。ところが、日本の一部の新聞や雑誌等は、温暖化対策を進めようとする欧州諸国へのルサンチマン(恨み、妬み)に終始した主張を繰り返す。例えば「欧州はゲームのルールを自らに有利な方向に誘導しようとしている」「温暖化対策で欧州諸国は、途上国と先進国の分断を招いている」「アンモニア混焼など石炭火力発電からのCO2排出削減を進めようとする日本の主張は国際社会で受け入れるべきだ」といったものだ。だが、COP26では、石炭火力発電の段階的廃止や新規の石炭火力発電への支援を終了し、よりクリーンな発電を推進していくとする共同声明に46カ国が賛同。欧州だけではなく、アジアやアフリカ、中東等の途上国もこれに加わっている。その中には、日本の政府系金融機関や商社、電力会社等が石炭火力発電を輸出しようとしてきたインドネシアやベトナムも含まれているのだ。

 つまり、日本の一部の新聞や雑誌等が主張するような「先進国VS途上国」という構図ではなく、「脱石炭を進めようとする国VS石炭に固執する国」というかたちなのだ。しかも、脱石炭を進める国には、ドイツのように石炭産出国も含まれる。同国ではそれまでの計画を前倒しして、2030年には石炭火力発電を廃止するとしている。一方、日本政府や電力大手は、燃焼時にCO2を排出しないアンモニアを石炭に混ぜて燃やすことで、石炭火力発電の延命を目論んでいる。だが、アンモニア混焼は、現状では、最大でも20%程度の比率でしか混ぜられない。高効率型の石炭火力発電であってもLNG(液化天然ガス)による火力発電の約2倍のCO2を排出することを考えれば、全く不十分だ。今後、混ぜるアンモニアの割合を増やすことも技術的にはあり得るが、そもそもアンモニアの生産過程で排出されるCO2もバカにならない。化石燃料ではなく、太陽光や風力等の再生可能エネルギーによる電力で生産を行う「グリーン・アンモニア」を活用するという考え方もあるが、それならば、素直に再生可能エネルギーそのものを活用した方が合理的だ。

○米中でも再エネが激増

 「温室効果ガスを最も排出しているのは米中。日本の努力がもっと認められるべきだ」というような主張もよく見かける。確かに、米中両国が対策を行うことは極めて重要だ。だが、一方で日本のメディアでは、米中両国こそが、世界で最も太陽光や風力などの再生可能エネルギーを普及させていることを、あまり報じない。IRENA(国際再生可能エネルギー機関)によれば、昨年だけでも、中国は、風力72ギガワット、太陽光49ギガワット と、合計136ギガワットの再生可能エネルギーを導入。米国も太陽光15ギガワット、風力約14ギガワットと、合計29ギガワットの再エネ設備を新設し、2019 年比で80 パーセント近くの増加を示しているという。単純な発電容量で言えば、1ギガワットは、原発1基分に相当する。米中にさらなる温暖化対策を求めるにしても、日本がいつまでも石炭火力発電に固執している限り、全く説得力がない。

 メディアは事実を歪めてまで、一部の政党や企業の利益のための発信を行うべきではないし、そのような発信は、日本にとっても世界にとっても害悪だ。Google及びYouTubeは温暖化を否定するコンテンツへの広告掲載を取りやめる措置を開始したが、日本のポータルサイトも、同様の措置を含め、温暖化に関するフェイクニュースを掲載することの是非を検討すべきなのだろう。

(了)