「数十年に一度」という規模の異常気象が頻発するなど、地球温暖化の影響がいよいよ深刻化する中、2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする「2050年カーボンニュートラル」に向けた取り組みは急務だ。そんな中、トヨタの豊田章男社長は自民党総裁選を念頭に「一部の政治家からは、『すべてを電気自動車にすれば良いんだ』という声を聞くこともあるが、それは違うと思う」と発言。これに対しコメントを求められた河野太郎氏が「戦略が誤ったものにならないように(自動車メーカー)各社に努力していただきたい」と返す場面があった。

○ガソリン車/ディーゼル車は販売できなくなる

 日本が排出する温室効果ガスの約9割を占めるのがCO2(二酸化炭素)。その排出源として石炭火力発電の次に多いのが、運輸、特に自動車からの排出だ*1。そのため、温暖化対策として、ガソリンや軽油に依存しない自動車の普及は急務。中でも、既に実用レベルの技術が蓄積されている電気自動車(EV)の普及が日本でも急がれる。諸外国、とりわけ欧州ではガソリン車/ディーゼル車から電気自動車への移行の流れが加速しており、最先端を行くノルウェーは昨年の新車販売で電気自動車が全体の半分を上回った。同国は、2025年までに全てのガソリン車/ディーゼル車の新車販売を終了させるとしている。大手自動車メーカーを抱えるドイツ、高級車やスポーツ車のメーカーを擁するイギリスも2030年には、ガソリン車/ディーゼル車の新車販売ができなくなる。しかも、これらの規制対象には、ハイブリッド車も含まれる。

 内燃機関(主にガソリンエンジン)と電動モーターを併用することで、CO2排出削減に貢献してきたハイブリッド車ではあるが、「2050年カーボンニュートラル」が国際的な目標となっている中で近い将来に販売できなるということだ。これは日本の自動車メーカー、特にプリウス等、世界に先駆けてハイブリッド車を開発、販売してきたトヨタとしては面白くない状況であろう。

○脱炭素、「電気自動車だけはない」とトヨタ社長

 温暖化防止のための全世界的な合意「パリ協定」(2015年成立)に日本も署名した時点で、自民党の次期総裁が誰になろうとも「2050年カーボンニュートラル」は日本の国際公約であることに変わりはないのであるが、今月9日、日本自動車工業会の会長として、トヨタの豊田章男社長が自民党総裁選に言及。以下のように発言している。

「これから総裁選も始まります。一部の政治家からは、『すべてを電気自動車にすれば良いんだ』とか、『製造業は時代遅れだ』という声を聞くこともありますが、私は、それは違うと思います」

「一部の政治家」が具体的に誰であるのかは、豊田氏は名指ししなかったものの、河野太郎氏は温暖化対策の要となる太陽光や風力等の再生可能エネルギーの普及にも熱心だ。今月10日の河野氏の自民党総裁選への出馬会見で、実は筆者も豊田社長の発言について質問しようかと思っていたのだが、先にニッポン放送の記者が質問してくれた。これに対する河野氏の返しは以下のようなものであった。

「自動車産業は日本の基幹産業であります。各社の戦略が誤ったものにならないように各社にしっかり努力をしていただきたいというふうに思っております。もちろん電気以外に水素ですとか、他の道もあるんだろうと思います」「各社がそれなりの戦略を描いた上で、日本の自動車産業が未来にわたって成功することを祈りたいと思います」

 水素を燃料とし、走行時にCO2を排出しない燃料電池車をトヨタが推進していることに配慮しつつも、言外に内燃機関を持つ車、つまりガソリン車/ディーゼル車への依存を見直すことを匂わせる、なかなか鋭い返しだと言えよう。

河野氏の該当部分の発言はこちらの動画↑を参照。

○「脱内燃機関」は避けられない

 豊田氏は9日の日本自動車工業会の会見で、「カーボンニュートラルにおいて、私たちの敵は『炭素』であり、『内燃機関』ではありません」と発言しているが、それは見通しが甘いのではないか。先月発表されたIPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)の最新報告書が示す事態の深刻さ、破局的な影響を防ぐためには「2030年までに温室効果ガス排出を半減させる」ことが必要であり、対策にはスピードが求められる。ハイブリッド車を含め内燃機関からの脱却は世界の流れとなりつつあるし、電気自動車の開発や販売台数では、日産が健闘しているものの、日本の自動車業界全体としては、米国や中国、欧州に遅れをとってしまっていることが、海外メディアからも指摘されている。変革を躊躇している場合ではないだろう*2。

○脱炭素や雇用のため財政支出を

 他方、豊田氏は9日の会見で、「『つくる』部分が(火力発電の多い)今のエネルギー事情だと、(CO2を大量に排出して)つくったクルマは輸出ができなくなってしまう」「カーボンニュートラルは雇用の問題でもある」とも発言。これは一理あるだろう。エネルギーをどう確保するかや、産業構造の変化の中で雇用をいかに守っていくかは、民間だけではなく、政府として取り組むべきことだ*3。米国のバイデン政権は脱炭素社会への変革と経済の再生を兼ねて、200兆円以上の支出を行うとしているが、そうした具体性やスケールというものが、日本のエネルギー戦略に欠けている。

 河野氏の総裁選に向けた政策集にも「デジタル、グリーンをイノベーションの核として日本の稼ぐ力を伸ばします」とはあるものの、あまりにも抽象的だ。誰が次の日本の首相となるにせよ、バイデン政権のような思い切った支出を行い、再生可能エネルギー普及と新たな雇用の創出を行うことが、非常に重要だ。

(了)

*1:国立地球環境研究所の報告書及び認定NPO気候ネットワークの資料より

*2:日本の一部報道では「原料調達から製造、走行の過程で排出されるCO2は電気自動車よりハイブリッド車の方が少ない」との主張もあるが、その前提となっているデータが古いことや火力発電中心の現在の日本の状況だからこその試算であり、再生可能エネルギー普及と共に、状況は大きく変わるとの指摘もある(関連情報)。火力発電を減らすこと、再生可能エネルギーの普及、電気自動車の普及はそれぞれ同時に行なわれるべきだろう。

また、水素を燃料電池にではなく、内燃機関の燃料として使うことも研究開発が進められているが、そもそも超低温・超高圧で保管しなければいけない水素は使い勝手が悪く、水素スタンドの設置コストが高い。電気自動車が実用レベルの技術が確立し、既に公道を走っている中、今、水素内燃機関の研究開発をしていても電気自動車に国際競争で遅れを取ることは避けられないだろう。何より、水素も生産する上で、再生可能エネルギーは欠かせない。石炭や天然ガスから水素を生産する場合、温室効果ガスが排出されてしまうからだ。

*3:もっとも、電気時自動車関連の技術開発や職業訓練、雇用の維持等では、トヨタもその膨大な内部留保を活用することが求められるだろう。