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メディアは恥を知れ。広報マンとジャーナリストの違いー入管法「改正」案の報道から考える

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
今月17日、法務省前で行われた「入管法改悪反対共同行動」 筆者撮影

 ジャーナリズムの最も重要な使命の一つは「権力を監視すること」だ。それには、権力側が発信する情報を精査し、そこにある欺瞞や詭弁を見抜くことも含まれるだろう。だが、日本の記者クラブメディアは、往々にして権力側の情報を無批判に垂れ流し「拡声器」となってきた。本日、政府は入管法の「改正案」を閣議决定したが、これについてのメディア各社の報道を見るに、改めて日本の記者達はジャーナリストではなく、権力側の広報マンなのだと大いに呆れ、憤らざるを得ない。

○記者レク「完コピ」タイトルと記事

 迫害から逃れてきた難民や日本に家族がいるなど帰国できない事情を抱える在日外国人たちに、法務省・入管庁が在留許可を与えず、その収容施設に長期収容している問題は、日本における深刻な人権侵害だとして、長年、内外の批判を招いてきた。そうした中、一昨年6月に大村入国管理センター(長崎県)で収容されていたナイジェリア人男性がハンガーストライキ中に餓死したことを受け、法務省は「長期収容の解消」のため、送還をより積極に行うべく法改定を行う方向で動き、入管法(出入国管理及び難民認定法)の「改正」案が、本日、閣議决定された。筆者を大いに呆れさせたのは、本日の入管法「改正」案関連で

「(強制退去処分を受けた外国人が)施設外生活が可能に」

 というようなタイトル及び内容の記事が各メディアから配信されたことだ。法務省の記者レク(記者に対する説明会)担当者に記事タイトルと原稿を提供してもらったのかと思いたくなるような、金太郎アメみたいな画一的報道である。確かに、今回の入管法「改正案」は、収容施設での長期収容に替わる措置として、一定の条件をもとに収容施設外で生活することを許可される「監理措置」が盛り込まれている(その問題点は後述する)とは言え、最大の争点をぼかすかのような報じ方だ。

○最大の争点をぼかす報道

 今回の入管法「改正案」の最大のポイントは、

・送還を拒む外国人に対し刑事罰を科す「退去強制拒否罪」(仮称)の創設

・難民条約等で禁じられている難民申請者の送還に例外規定を盛り込み、強制送還できるようにする

 の二点であろう。そして、日本の難民認定審査のあり方―認定率0.5%以下という他の先進諸国に比べ文字通り桁違いに難民認定率が低く、明らかに危険な状況にあるシリアの紛争被害者、ミャンマーで激しく弾圧されているロヒンギャの人々すら難民として認めない、事実上の難民排斥制度―について見直さずに、上記のような刑罰や送還例外規定を入管法「改正」案に盛り込むことの危険性こそ、まずメディアが問うべきことだろう。つまり今回の入管法「改正」案通りになった場合に、本来、難民条約に基づき庇護すべき難民が罰せられたり、迫害の恐れのあるところへ強制送還されたりしないか、ということだ

○セカンド・レイプ的なレッテル貼りに加担 

 「退去強制拒否罪」や難民申請者送還禁止の例外規定について、触れている報道もあるが、ここでも「難民認定審査中は送還されないため、複数回、難民申請を行う者がいるなど、制度が濫用されている」との、法務省・入管庁の主張をそのまま垂れ流すという暴挙をやらかしている

 だが、難民認定審査官の専門性の欠如や、審査の透明性の無さ等に加え、個別把握説(難民申請者が迫害する側に特定され、攻撃対象とされていることが明白であること)にあたることを立証する書類(逮捕令状など)を要求するなど、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)の難民認定審査基準からかけ離れた、異常なまでに厳しい日本の難民認定の条件で、一回の審査で難民として認定されるなど、それこそ奇跡的なことだろう。迫害を受けてきた人々に何度も難民認定審査をさせるような制度的欠陥を放置して、「濫用者」のレッテルを貼ること自体が、セカンド・レイプ的だ

日本の難民認定審査及び入管行政の酷さは、この10年間で国連の人権関連の各委員会から度重なる是正勧告を受けてきた(関連情報)。一般人ならいざ知らず、メディアの人間であるならば、知らなければおかしいし、仮に知っているならば、せめて法務省・入管側だけの意見ではなく、難民当事者やその支援者、人権団体等の側の意見も取材すべきである。

○「監理措置」にも大きな問題

 おそらく、法務省・入管庁も日本の難民認定審査及び入管行政への批判は承知で、だからこそ、上述の「監理措置」のように、我々も人権に配慮していますよというような印象をメディア関係者にアピールしているのだろう。筆者は度々、法務大臣会見に参加しているが、そこでの会見内容や質疑で上記のような懐柔を感じた。だが、「監理措置」にしても、例えば、全国難民弁護団連絡会議は、

「これまでの仮放免制度と同じように釈放するかどうかを入管が決めるため、収容者減少、長期収容解消につながる保証はまったくありません」

「収容は無条件、司法審査なし、無期限という国際法違反の状態*は変わりません」

「(監理措置対象者の支援者、親族等がなる)『監理人』は、監督、届出(=通報)という罰則のある重い義務を負わされ、(対象者との)信頼関係が破壊されます」

として、本制度の導入に反対している。

○筆を折ったらいかがか?

 厳しい言い方をするならば、日本の難民認定審査や入管行政の問題に触れずに、記者レクで言われたことだけをメディアが報じるならば、それは最早、人権侵害への加担にすらなるし、それくらいなら報道なんかしない方がマシということになる。政府の案はこうであると事実を伝えるにしても、難民その他の外国人当事者や支援者の側の主張、野党側の対案などを併せて報じるべきだ。報道のあり方は時に人々の生き死にすら左右する。その自覚がなく、ただ言われたことを何の疑問も挟まず垂れ流すならば、いっそのこと、メディアで働くのではなく、政府広報の仕事でもしたらいい。

(了)

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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