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コロナ変異種、中国から流行のリスクーさらなるパンデミックを未然に防げ

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
新型コロナ感染拡大を封じ込めたと自負する中国だが…(写真:ロイター/アフロ)

 感染者は世界で8000万人超、犠牲者も増加し続け200万人に届く勢いだ。新型コロナウイルスは改めてパンデミック(感染症の世界的大流行)の恐ろしさを世界の人々に見せつけている。この新型コロナ大流行は何故起きてしまったのか。そして新たなパンデミックを防ぐことができるのか。カギとなるのは、やはり中国の動向、そして公衆衛生と環境問題の関係だ。

○中国での野生動物の違法取引が原因か

 新型コロナウイルスによる感染症がどのようにして始まったのか。来月、WHO(世界保健機関)が中国入りして調査を行う見込みだという。遅きに失した感が否めず、中国当局による証拠隠滅も危惧されている。近縁のSARSウイルスの事例から、新型コロナウイルス(COVID-19)が流行した背景には、野生動物を利用する中国の「食」と「漢方」が関係していると疑う研究者は多い。今回の新型コロナウイルスも、元々の宿主はコウモリだと目されている。WHOは、コウモリからセンザンコウに感染し、さらに人間へと感染した可能性を指摘している。センザンコウとは全身を鎧のようなウロコで覆われたアリクイのような哺乳類。中国では肉が珍味として食用にされる他、ウロコが喘息やがんに効く薬となると信じられているが、科学的根拠はない。

 センザンコウは「世界で最も密猟されている動物」だとも言われ、2019年にアフリカからアジアへと密輸されたウロコは実に97トン、15万匹分に相当するという膨大な量であった。今年3月に発表された香港大や広西医科大の研究チームの論文によれば、2017年から2019年にかけて中国に密輸され、押収された「マレーセンザンコウ」の肺や腸、血液等を調べたところ、新型コロナウイルスに遺伝子の配列が85~92%の割合で同じというウイルスが発見されたのだという。論文は、センザンコウが新型コロナウイルスの直接の感染源だと断定したものではないが、センザンコウの取り扱いは厳重にするべきであって、市場での販売は厳しく禁止されるべきだとしている。

○中国での規制強化と新たなリスク

 野生動物を大量に、不衛生な環境で生きたまま売買する中国の「野味市場」が新型コロナウイルスの発生源となったのではないかと疑われる中で、中国の人々の意識も変わりつつある。環境問題専門のニュースサイト「MONGABAY」が今月9日に報じたところによると、北京大学の研究者らが行った直近の意識調査で、10万件以上の回答の内、圧倒的多数が、野生生物を保護するためのより厳しい政策や法律を支持したという。また、同記事によれば、中国当局は野生動物の違法取引の摘発を強化しており、また野生動物の取引禁止による損失に対し、業者らに補償しているという。

 一方で、懸念すべき状況もある。中国でのミンク農場だ。ミンクは毛皮を取るため各国で飼育されているイタチ科の動物であるが、デンマークやスペイン等で、ミンクが新型コロナウイルスに感染した上、同ウイルスの変異種が発生したことが明らかとなった。ウイルスは宿主の動物を変えることで、自身も変異し、そうした変異種はこれまでのワクチンや治療法が通じず感染力も強いものとなる危険性がある。新型コロナウイルスの変異種の大流行したら、まさに悪夢だ。デンマークは世界最大のミンクの毛皮の生産国であるが、

飼育されていたミンクから新型コロナ変異種が発見されたことから、1700万匹の殺処分という対応を余儀なくされた。今月3日に配信されたロイター通信の記事の中で、動物愛護団体「PETA」は「不衛生でストレスを抱えた動物が大量に詰め込まれているミンク農場は(新型コロナの発生源と観られている)武漢の野生動物市場とそっくりです」と語っている。しかも、飼育されているミンクが脱走して、他の野生動物にウイルス感染を拡大させることも懸念されているのだ。

 前述したように中国では、新型コロナ流行を受け、野生動物の取引の規制強化が進んだ。そのため、同国のミンク毛皮業者達も廃業を覚悟していたという。だが、デンマークから供給不足によって、ミンクの毛皮の価格が30~50%も高騰。中国当局は、取引が禁止される動物からミンクを除外したのだ。飼育下のミンクを対象に無料検査を行うなど、

中国当局も全く対策をしていないわけではないものの、前掲のロイターの記事は、中国当局がミンク農場の取締りを行うことは期待できないと評している。問題は、デンマークのミンク農場が閉鎖された今、中国では世界で最も多いミンクが飼育されているということだ。

 新型コロナについて、中国政府は、その発生源となったと国際社会から批難されることに反発。中国の国営メディアは「新型コロナウイルスは冷凍商品などによって諸外国から中国へと持ち込まれた」との説をアピールしているが、その科学的根拠は乏しい。今年2月のWHOの調査団は武漢の野味市場に立ち入りできなかったなど、中国はWHOによる調査を拒み続けている。そうした隠蔽行為を続けていながら、新型コロナ発生源は他の国々だと主張しても、説得力に欠ける。遅きに失した感もあるが、中国は真相究明に協力すべきだろう。また同国内のミンク農場の徹底的な管理、あるいはミンクの取引禁止も含め、さらなるパンデミックを未然に防ぐことが求められているのではないか。

○パンデミックを防ぐため環境保全が重要

 さらなるパンデミックを防ぐため、対応が求められるのは、中国だけではない。ベトナムやブラジルなどの国々では、新型コロナ流行の最中も、野生動物の違法取引が続いている。アフリカ諸国でも「ブッシュミート」、つまり食用とするための野生動物の密猟が横行している。日本もペット用として、野生動物の密輸が多い国であり、パンデミックの発生源となるリスクは決して低くはない。密輸の場合、当然、検疫を避けるため、危険なウイルスや病原菌が持ち込まれる可能性が高いのだ。こうした中、その重要性が改めて主張されているのが、「ワンヘルス」という公衆衛生学の概念だ。

ワンヘルスの概念図 オウル大学(フィンランド)のウェブサイトより
ワンヘルスの概念図 オウル大学(フィンランド)のウェブサイトより

 近年発生した新たな感染症の7割以上が、人獣共通感染症であり、野生動物の違法取引や、これまで人間が立ち入らなかった自然の奥深くで開発が進むことで、パンデミックの発生リスクが高まっている。そのため、人間の保健衛生だけではなく、家畜の健康管理、野生動物の取引規制、自然環境の保全を行うことが、パンデミックを未然に抑え込むが重要、ということだ。現状のままでは、今後もパンデミックが発生するのは時間の問題だと、世界の専門家達は危惧している。新型コロナ流行で、その恐ろしさを知った今だからこそ、パンデミックを未然に防ぐ取り組みを強化すべきなのである。

(了)

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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