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即位の儀で昭恵夫人のドレスより酷い失態-各国要人への料理にあるモノを入れてしまった件

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
「饗宴の儀」の事務を取り仕切ったのは内閣府、写真は各国のゲストを招待しての晩餐会(写真:REX/アフロ)

 今月22日に行われた天皇即位の儀では、安倍晋三首相夫人の個性的な衣装がネット上で話題となった。袖口が膨らんだ、膝丈のドレスが「ガンダムみたい」「足を出し過ぎ」と揶揄され、ツイッターのトレンドにもなった。だが、昭恵夫人のドレスはデイドレスであり、ドレスコードに沿ったものだ。そのような些末なことよりも、世界各国からのを要人達をむかえる上で、もっと憂慮すべき問題があったことを、日本のメディアはどこも指摘していない。その問題とは、要人達をもてなす「饗宴の儀」で出されたメニューにある。

○各国要人への料理に絶滅危惧種を使用の疑い

 即位の儀にともなう「饗宴の儀」では、各国からの要人達に和食が振舞われた。宮内庁によれば、その中にフカヒレが含まれていたという(関連情報)。茶碗蒸しの具として使われていたのだが、今年8~9月に、ワシントン条約(CITES=絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引における条約)の締約国会議で、フカヒレの原料となるアオザメなどのサメ類の規制強化が論議されたばかり。同会議では規制強化を求める国々の提案が3分の2以上の多数票を得て可決。アオザメやサカタザメ等18種のサメ・エイ類が、ワシントン条約付属書2に含まれることになった*。

*商業目的の取引は可能。ただし、その取引が種にとって有害でないことを輸出国が証明し、許可することが条件となる。

 つまり、「饗宴の儀」のメニューは、皇室及び日本政府が絶滅危惧種の保全に無関心であるかのようなイメージを国際社会に発信しかねないものであったのだ。茶碗蒸しの具ならば、フカヒレ以外の選択肢もあったはずだ。なぜ、わざわざフカヒレを使用したのか。また、どの種類のサメを食材としたのか。宮内庁に問い合わせると「お答えできません」(同庁広報)との回答。絶滅が危惧される生き物を保全していこうという国際的な流れに宮内庁としても考慮すべきだったのではと聞くと「環境問題も大事ですが、宮内庁として最も重要なのは即位の儀にいらっしゃった、お客様達に喜んでいただくことです。饗宴の儀では、ベジタリアンメニューやハラル(イスラム教の戒律に基づく食材や料理)のメニューもご用意しました」と、話が全くかみ合わない。

 こうした宮内庁の姿勢が、各国からの要人達にどう映ったかは気になるところではある。例えば、イギリス王室は環境や絶滅危惧種の保全に非常に熱心だ。エジンバラ公フィリップ王配は世界自然保護基金(WWF)の名誉総裁であるし、即位の儀に参列したチャールズ皇太子も、アフリカゾウなど野生動物の密猟防止を動画で訴えている。即位の儀に参加した要人らが表だって批判することはないにせよ、フカヒレの使用は褒められるものではないことは確かだろう。

○世界ではフカヒレボイコットの動きも

 絶滅危惧種のサメ類を食べてもいいのか-昨今、世界ではフカヒレボイコットの動きがあるのだという。ある環境団体関係者は「外資系の高級ホテルなどでは、最近はフカヒレを食材に使わない傾向があります」と筆者に語る。「これまでフカヒレ需要が高かった中国ですら、フカヒレ離れが進んでいます」(同)。確かに、中国政府は公式の宴会などではフカヒレを禁止するなど、むしろ日本よりフカヒレ規制に前向きなくらいだ。「日本でフカヒレと言えば、宮城県気仙沼産でしょうが、水産業者も努力はしているものの、まだまだ持続可能な漁業だとは言い難いです」(環境保護団体関係者)。

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○生物多様性を守る動きは無視できない

 国連教育科学文化機関(UNESCO)に今年5月に提出された報告書*では「今後数十年で、およそ100万種の生物が絶滅するおそれがある」「全生物種の4分の1が絶滅の危機にある」と警告。生物多様性をいかに守っていくかは、もはや自然保護団体のみならず、全世界的な課題なのだ。まして、日本は2010年に生物多様性条約第10回締約国会議のホスト国を務め、2020年までに生物多様性の損失を食い止めるための緊急かつ効果的な20の行動をとるという目標が「愛知ターゲット」と名付けられた等、国際的な責任は大きい。

*IPBES(生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム)がまとめたもの。

 国連の「SDGs(持続可能な開発目標)」でも、その「目標14.海の豊かさを守る」の中で、「2020年までに、乱獲やIUU漁業(違法・無報告・無規制な漁業)および破壊的な漁業慣行を撤廃する」ことが求められている。

○代替わりどころか世界の流れから取り残される日本

 それにもかかわらず、つい先月、国際的な取引の規制強化で合意されたサメ類を材料とするフカヒレを世界各国からの要人達に提供し、それについて筆者が質問すれば、宮内庁は「環境問題も大事ですが…」などと間の抜けた回答しかできない。代替わりどころか、世界の時代の流れから完全に取り残されている有様だ。

 筆者は、そもそも憲法の平等原則に矛盾する天皇制自体を支持してないが、「国民の象徴」として皇室が外交を行っている以上、宮内庁、そして今回「饗宴の儀」の事務等を担当した内閣府、これらの閣議決定した安倍政権も、上述したような、環境に対する意識の変化について、もっと敏感になるべきだろう。それは、代替わりを浮ついたかたちでしか報じられない日本のメディア関係者にも言えることなのだ。

(了)

*おわびと訂正 10月31日9時31分 当初の配信で「饗宴の儀」と安倍首相夫妻主催の晩餐会とを混同しておりましたので、記事を修正致しました。読者の皆様、関係者の皆様にお詫び致します。

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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