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横行する法務省・入管職員による暴力、いじめー被害者の難民が証言、自殺未遂も

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
会見で入管職員による暴行について語るクルド人難民のデニズさん 筆者撮影

 法務省・出入国在留管理庁(入管)がその収容所に、難民を不当に「収容」しているだけではなく、「制圧」という名目での暴力や、精神的な虐待を繰り返していることを、難民認定申請者である男性が明らかにした。建前では、「制圧」は暴れる被収容者を押さえ込む行為とされているが、過去には強制送還のための「制圧」の最中に被収容者が死亡した事例もある。入管職員による暴力や悪質ないじめの実態について、男性に聞いた。

○腕を捻り上げ、喉元に親指を突き立て、口と鼻を塞ぐ

 男性の名はデニズさん(名字は匿名を希望)。少数民族クルド人で、民族としての権利が認められず厳しい弾圧が続くトルコから、日本にやってきたのは、2007年のこと。日本人女性と結婚したにもかかわらず在留資格が与えられず、2016年に東日本入国管理センター(茨城県牛久市)に「収容」され、収容期間は3年以上にも及んでいる。デニズさんは今年8月、2週間だけ仮放免され、記者会見を行った。

 デニズさんによれば、問題の暴行があったのは、今年1月18日。長期かつ無期限の収容で精神的に追い詰められていたデニズさんは、向精神薬の処方を求めた。ところが、処方されたのは、デニズさんが以前に拒絶した睡眠薬。職員に抗議したデニズさんであったが、抗議すること自体が「反抗的」として、入管職員による「制圧」が行われた。

10~15人の職員が『デニズ、皆怒っている』などと言いながら、部屋に入ってきました。職員たちは私の手首をひねりあげました。すごく痛かったため、私は足をドタバタとさせてもがき、放してくれるよう頼んだ。しかし職員達は、放してくれませんでした。識別番号HC570の札を付けた職員は、親指で私の喉元を突き上げました。別の職員は、私の鼻と口を塞ぎ、私は息ができなくなりました」(デニズさん)

 デニズさんは入管職員達に殺されるかと本気で恐怖したという。

殺される、助けて!と私は叫びました。でも、職員達はニヤニヤ笑いながら、私の腕を締め上げ続けていました」(同)

 この後、デニズさんは、「懲罰房」と呼ばれる独居房に連行された。懲罰房とは、24時間監視付きの三畳間ほどの小さな部屋で窓すらないことが多い。「反抗的」とされる被収容者が、通常、5日間、この小さな部屋に閉じ込められる。入管側は「保護房」だとしているが、デニズさん含め多くの被収容者が、入管職員らが「懲罰房」という言葉を使っているのを実際に聞いているという。

 懲罰房で、デニズさんはさらなる苦痛を味わされた。

またHC570の札を付けた職員が後ろ手に手錠をかけられた私の腕を強く捻りあげてきました」(同)

 

 一連の暴行の後、デニズさんは不服申出をしたところ、入管側も「申出に理由あり」と判断が示した。だが、状況は改善されず、暴行した職員がその後も「制圧」行為に参加したのだという。

○挑発と懲罰、入管職員による精神的虐待

 入管職員がわざとデニズさんを挑発し、懲罰を与えるということもあった。

 「ある職員が彼の被っている帽子のツバが私の顔に触れる程、近づいてきて、私が避けても、壁際まで私を追い込むなど、しつこく迫ってくるので、私が『やめてくれ』と抗議すると、『また騒いだ』と言い、私は懲罰房に連行されました」(デニズさん)

 長期間の収容に加え、繰り返し懲罰房に閉じ込められるなど、屈辱的な扱いを受け、デニズさんは精神的に追い詰められ、収容中に4回も自殺未遂をしている。今年8月、ハンガーストライキによる衰弱で一時的に仮放免された際に病院で診察を受けたデニズさんは「拘禁反応*の疑いがある」と診断された

*拘禁によって引き起こされる精神障害。神経症、気分の変調、妄想・幻覚など、様々な症状が現れる。

 わずか2週間の仮放免の後、デニズさんは再び収容されてしまい、現在も東日本入国管理センターに囚われている。支援者らによれば、面会に応じられない時もあるほど、衰弱しているのだという。

○法令遵守できない入管にデニズさんを拘束する資格はない

入管問題に取り組む個人有志らのグループ「#FREEUSHIKU」の街頭アピール。今年8月4日、JR新宿駅前にて筆者撮影
入管問題に取り組む個人有志らのグループ「#FREEUSHIKU」の街頭アピール。今年8月4日、JR新宿駅前にて筆者撮影

 そもそも、難民申請者を収容することは難民条約違反であり違法だ。また、日本人との婚姻関係があることは法務省が外国人に在留資格に与える上で、極めて大きな要素とされるが、12年もの婚姻関係があるにも関わらず在留許可が得られないために、デニズさん本人のみならず日本人配偶者も深い苦悩の中にある。職員によるデニズさんへの暴力及び「懲罰房」への隔離、デニズさんによる不服申出に対する再発防止策を示さないなどの東日本入国管理センターの対応は「被収容者処遇規則に反し、違法」であると、デニズさんへの法的支援を行う大橋毅弁護士は指摘。つまり、法務省・入管のデニズさんへの行いは、収容それ自体や処遇において、何重にも不当な人権侵害であり違法だということである。

 法令を遵守できない法務省・入管が、一体、何故デニズさんの自由を奪う資格があるというのか。筆者はデニズさんのような事例をこれまで何件も見聞きしてきた。これは、もはや、法務省・入管自体の組織としての欠陥だと言える。収容の必要性や、被収容者の処遇など、入管とは独立した機関による、包括的かつ徹底的な調査を制度として構築していく必要があるだろう。

(了)

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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