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滝川クリステル必死の訴え「東京五輪に向け日本がしなければいけないこと」―象牙市場閉鎖、各国が要求

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
滝川クリステルさんのメッセージ動画より WILDAID提供

 今月8日、自然保護団体「WILDAID」「アフリカゾウの涙」のメンバーや、弁護士、ジャーナリストが日本外国特派員協会で会見を開き、象牙目的の密猟のため野生のゾウが「15分に1頭」殺され激減する中、今や「世界最大の象牙販売国」となっている日本の象牙利用をなくすことを求めた。会見には賛同者としてフリーアナウンサーの滝川クリステルさんも動画でメッセージを寄せ、「ゾウを守るため賢い選択をすること、そのために声をあげることは、オリンピック・パラリンピックを迎える日本がしなくてはいけないことだと思います」と訴えた。今月17日からは、スイス・ジュネーブで絶滅が危惧される動植物の国際取引について条約の国際会議「第18回ワシントン条約締約国会議」(COP18)が開催され、アフリカ32カ国により日本に対し象牙市場の閉鎖を求める決議案が提出される見込みだ。

○日本の象牙市場がゾウを絶滅させる?!

 今回、会見を開いた団体の一つ、WILDAIDは米国サンフランシスコに本部を置き、世界12カ国を拠点に、野生生物の違法取引と密猟の撲滅のためのアピールを行っている自然保護団体。英王室のウィリアム王子、俳優のレオナルド・ディカプリオさん、ジャッキー・チェンさんらもその活動を支持している。同団体のジョン・ベッカー代表は、会見で「中国や米国が国内の象牙取引を禁止した結果、日本が世界最大の象牙市場となっている」と指摘した。

 野生のゾウをめぐる昨今の状況は極めて深刻だ。現在、アフリカゾウは100年前の約3%にまで減少。高値で闇取引される象牙を狙った密猟のため、15分に1頭のペースでアフリカゾウが殺されている。このままでは、10年もたたないうちにアフリカゾウは絶滅してしまうと危惧されているのだ。

 【動画】WILDAIDによる解説 象牙と日本

 アフリカゾウの危機に関して、日本の責任は極めて大きい上、一般の人々も知らないうちに加担してしまう可能性がある。今回、WILDAIDと共に会見した自然保護団体「アフリカゾウの涙」代表理事の山脇愛理さんは「1980年代、約130万頭いたアフリカゾウは、62万頭までに半減しました」と語る。「当時の象牙利用の内、62%が日本によるものであり、毎年消費される日本での象牙の約8割を占めるのが、判子の材料としての利用です」(同)。その後、1990年代に世界的に象牙取引の規制が進み、アフリカゾウ達は救われたかのように見えた。だが、日本が1999年と2008年に限定的な象牙輸入を行う中、再び密猟が増加。山脇さんは「特に2011年頃から状況は深刻になり、毎年何万頭ものアフリカゾウが殺されています」と訴える。

○ザル状態の税関、在庫管理

 【動画】ケニア・ツァボ国立公園の人気者だったゾウ「サタオ」の非業の死を伝える現地放送。密猟者達は象牙をゾウの顔面ごとえぐり取る。

 国際社会の厳しい視線にもかかわらず、日本政府はあくまで象牙の国内取引を続ける方針だ。自然保護団体「トラ・ゾウ保護基金」事務局長の坂元雅行弁護士は、会見で苦言を呈した。「前回のワシントン条約締約国会議で全ての締約国に対し国内の象牙市場の閉鎖を求める勧告が採択されました。ところが、日本政府は『我が国は勧告の対象外』だという立場を取っているのです」。

 

 日本政府が象牙の国内取引を正当化している口実は「近年、日本には大量の象牙が密輸されてはいない」「国内の象牙管理は厳格に行っている」というものだ。これに対し、坂元弁護士は「日本の税関が違法象牙を見つけられていないだけの可能性が高い」と指摘する。「ETIS(ワシントン条約のゾウ取引情報システム)が、類似の取引傾向を持つ国々をグループ化して行った分析で、日本の法執行、つまり水際での取締りの努力は、『グループの平均を下回るお粗末な実績』と批判されているのです」(坂元弁護士)。

WILDAID、アフリカゾウの涙の会見 右端が坂元弁護士 筆者撮影
WILDAID、アフリカゾウの涙の会見 右端が坂元弁護士 筆者撮影

 実際、ETISのデータによれば、2011年から2016年の間に日本から中国への象牙の密輸出113件のうち、その94%は中国で押収された事件であり、日本で輸出の差止めに成功したのは全体の6%に過ぎない。また、国内の象牙の在庫管理についても、「トラ・ゾウ保護基金」は、今年5月末にまとめた報告書*の中で、「出所不明の象牙が合法化され、在庫され続けている」「適切な証明もなしに、条約適用前の時期に取得されたものとして登録を受けた全形牙が、年間2,300本に迫るペースで、合法市場に流入している」と、その問題点を指摘している。

*報告書 「日本の国内象牙市場を閉鎖しなければならない5つの理由」

 https://www.jtef.jp/wp/wp-content/uploads/2019/06/IvoryReport2019_jp.pdf

○象牙取引がテロ資金に!

 象牙の密猟は、アフリカゾウのみならず、現地の人々をも苦しめている。朝日新聞記者で、アフリカ特派員時代の取材をその著書『牙: アフリカゾウの「密猟組織」を追って』(小学館)でまとめた三浦英之記者は、会見で現地での体験を語った。「ケニアでガリッサ大学襲撃事件を取材した時のことです。テロ組織アルシャバーブによる虐殺の生存者にインタビューしたところ、『日本人はなぜ象牙を買うのか?』と聞かれました。唐突な質問に私が戸惑っていると、彼は『知らないのか?アルシャバーブの資金源は密猟象牙なんだぞ』と言ったのです」(三浦記者)。

【動画】ガリッサ大学襲撃事件を報じる英BBC放送

 ガリッサ大学襲撃事件とは、2015年4月、ケニア北東部ガリッサにあるガリッサ大学をアルカイダ系テロ組織アルシャバーブが襲撃し、学生ら148人を惨殺した事件のことだ。三浦記者が現地の人々から聞いたところによると「アルシャバーブの資金源の約40%が密猟象牙」なのだという。実際、国際刑事警察機構(ICPO)が昨年9月に発表した報告書は、違法伐採や密猟・密漁などの「環境犯罪」こそが、犯罪組織やテロ組織の最大の資金源になっていると指摘。その実例の一つとして象牙の違法取引をあげている。

○「#私は象牙を選ばない」著名人らも賛同

【動画】滝川クリステルさんのメッセージ

 今や、判子の高級素材はチタンやカーボンファイバーなどがあり、日本の人々にとって象牙は必要不可欠なものではない。より多くの人々に象牙を使わないようにしてもらうべく、WILDAIDとアフリカゾウの涙は、「#私は象牙を選ばない」キャンペーンを本格化。特設サイト(https://noivory.jp)で署名を集めていくとのことだ。本キャンペーンには、ミュージシャンの石井竜也さん、元ラグビー日本代表の廣瀬俊郎さんらが賛同しており、会見では、滝川クリステルさんの賛同メッセージ動画が紹介された。折しも滝川さんは今月7日、自身の結婚を発表、日本のメディアの注目を集めている。滝川さんの結婚を大きく取り上げている各メディアは、彼女の象牙についての真剣な訴えも紹介すべきではないだろうか。

(了)

以下、滝川さんのメッセージ書き起こし。

「どうも、滝川クリステルです。この度はこのプロジェクトに賛同させていただきました。というのも、日本では、やはり動物に対する意識、いろんなところで、なかなか関心がないと言われています。世界の中でも。そこは日々感じていることなんですね。そんな中で、いろいろなものに、私達は日常的に、ものにあふれています。一体、これはどのようにしてここに来たのか、そういったことに果たして、私達は日々、生活していてそこまで意識することではない、そう思っている方が多いのではないのでしょうか。ただ、そこに少しでも、気持ちを持っていくと、いろんな過程が見えてくるんですね。それは、例えば、動物から来ているもの。例えば、いろんなものを犠牲にしてやって来るもの。その中で、やはり動物に対して世界がいろいろ警鐘を鳴らしています。でも、日本はそこに遅れを取っているんですね。例えば、野生動物が今、世界中でどんどん、どんどん減ってきています。なぜ、減ってきているのか。それは彼らの、例えば、体の一部を用いて、私達の身近なものになる、それの一つは象牙ですね。その象牙を使って私達は判子をつくったりして、今、何気なく使っているのですね。でも、それで、本当に多くのゾウが…ゾウの存在が危ぶまれているという現実があります。そこをやはり気づかないで、そこに気づこうという意識がない限り、これはどんどん、どんどん、(ゾウが)減っていく、それしか末路は見えません。その中で、私達はじゃあここでどうするべきなのか、賢い選択をするのか、このまま何も考えずに選択していく、そうした生き方をしていくのか。それは、人間が地球上で自分達だけではなく、いろんな生き物と共存している生き物として考えなくてはいけない答えだと思います。そこに、是非、今、2020年にオリンピック・パラリンピックを迎える日本が、あえてここで声をあげることが、恥ずかしいことではなく、むしろ、しなければいけないことだと思います。そこに、是非、皆さん、気持ちを持って、一緒に手を取り合って、向かい合ってもらえばと思います。それだけ危機が迫っていることです。是非、動物達の命を軽んじることではなく、一緒に生きていく生き物として、しっかり目を向けてほしいと思います」

出典:WILDAID JAPAN

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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