「戦争より映画を」日露文化交流―震災、孤独死、リストラ、ベーシックインカムetc 日本映画を上映

ユーラシア国際映画祭の記者会見 主催者提供

 北方領土問題についての丸山穂高衆院議員の「戦争」発言で、否応なくギクシャクしている日露関係。そんな中、映画で互いの国との交流をとの試みが行われる。今年9月、ロシア5大映画祭の一つで、同国アムール州ブラベシチェンスク市で開催される「アムールの秋映画祭」にて、8本の長編・短編含む日本映画が上映されるという。今月5日と7日、「アムールの秋」と業務提携し、日本の作品を現地で紹介する「一般社団法人ユーラシア国際映画祭」が会見を行い、参加の監督、出演者らが自らの作品について語った。

○孤独死をなくそうー被災地からのメッセージ

作品について語る鐘江監督(写真左) 筆者撮影
作品について語る鐘江監督(写真左) 筆者撮影

 ロシアの映画祭「アムールの秋」は、同国アムール州の州都ブラベシチェンスク市で毎年行われ、今年で17年目となる。同映画祭の会期中(9月14日~22日)、長編・短編含め8作品、日本映画が上映される。上映作品の一つ、「ひとりじゃない」(脚本、演出、監督・鐘江稔さん)は、宮城県登米市の豊里町が製作した40分のオリジナル作品で、同町が取り組む、孤立や孤独死をなくすための「地域の見守り」がテーマだ。東日本大震災の際、妻と子どもの3人を亡くした中年男・赤井誠。津波被害を受けた沿岸から内陸へと引っ越したものの、孤独の中で、後追い自殺も考えながら鬱々としていた。その赤井が、ひょんなことから出会った旅行者・伊川美奈子との交流を通じて、生きていく意志を取り戻していくというストーリーだ。

 天真爛漫な伊川を演じる小林涼子さんのみずみずしい演技が光り、稲盛誠さんが演じた赤井も、口調はぶっきらぼうながらも心根の優しさがにじみ出る。ロケ地である豊里の美しい風景も相まって、シリアスなテーマながら、むしろ温かみのある作品だ。監督の鐘江さんは、「孤独死は、被災地だけではなく、どこでも起きていること。本作がいろいろなところで観られて、ひとりじゃないというメッセージを発していけたら」と語る。「ひとりじゃない」の上映は都内でも、7月27日、人形町三日月座で行われるとのことだ。

○リストラと第二の人生、地域とのつながり

 やはり、「アムールの秋」で上映される作品「くらやみ祭の小川さん」(浅野晋康監督)も、現代的なテーマを持つ映画だ。仕事一筋で地元のことに関心を持たず関わりのなかった主人公・小川秀治は、勤め先の会社で早期退職を迫られ、途方に暮れる。だが、彼の地元・東京都府中市で1000年以上続くという「くらやみ祭」の運営を手伝い、小川は「人生まだ捨てたもんじゃない。楽しくなってきたじゃないか!」と思えるようになっていく。また、地域の人々に助けてもらいながら、年老いて認知症になった母や離婚して幼い子どもを連れて帰ってきた娘など、小川は自身の家族の問題に向き合っていく。小川を演じるのは、俳優の六角精児さん。妻役は女優の高島礼子さんが演じている。本作の制作には、企画した映画プロデューサー竹本克明さんに加え、府中市の神社や観光協会なども参加、祭のシーンでは約500人の市民がエキストラとなったなど、正に地域と人々をつなぐ作品だ。

○社会保障の新しいかたちを提示

「はじまりの日~べーシックインカム元年~」(増山麗奈監督)は、AI(人工知能)の進化で、多くの人々が職をとってかわられる中、ベーシックインカム(=政府が国民全員に無条件で、生活に最低限必要な現金を支給する政策)が日本で試験的に始まった、というストーリー。奇しくも金融庁の「老後2000万円」報告書によって、今後、多くの高齢者が年金だけでは生活できないことが明らかになり、社会に衝撃が広がっている中、新しい社会保障のあり方を考える一作だ。主役で、保育士とホステスのダブルワークをこなすシングルマザー・陽子を演じるのは、「朱花の月」(河瀬直美監督)主演などで知られる名女優・大島葉子さん。

 離島の子供達の初恋と成長を描いた短編映画「LEMON&LETTER」の監督・梅木佳子さんは、映画の舞台である瀬戸内海の男木島(香川県)に、最近、若い移住者が増えてきたことに着目。移住してきた子ども達が成長する中で、初恋の相手と共に島にとどまるか、自分自身の夢のために島を出るか、揺れ動く姿を描いた。切なく、美しい映画だ。

 その他、人間の心の闇をテーマとしたホラー映画「呪鏡」(青柳宇井朗監督)が参加。江戸糸あやつり人形「結城座」の舞台映像、殺陣とカワイイが融合した「殺陣集団 鴉」、和太鼓集団「DRUM TAO」など、日本の伝統文化をテーマにした映像やパフォーマンスも紹介される。

○映画でより深く日本を知ってもらう

「アムールの秋」日本用告知ポスター ユーラシア国際映画祭提供
「アムールの秋」日本用告知ポスター ユーラシア国際映画祭提供

 一般社団法人ユーラシア国際映画祭の国際担当、加藤眞由美さんは「今後、ロシアも含めた多くの国々が発展していく中で、さらに多くの人々が日本と関わりを持つと思います。観光で知る日本以外にも、日本の映画から、より深く日本のことを知ってもらうためにも、今回、『アムールの秋』への参加は意義深いものだと思います」と語る。とかく、政治家達が憎悪や対立を煽る昨今ではあるがゆえに、地道な文化交流での相互理解を重ねていくことが、平和共存のために大切なのかもしれない。

(了)