F35爆買い6兆円見直し、最低時給1500円etc―マスコミが報じない野党「共通政策」

野党5党派と市民連合による「政策協定調印式」 筆者撮影

 立憲民主党など野党5党派*は、先月29日、夏の参院選の勝敗を左右する32の改選1人区で、30の選挙区で候補者一本化に合意した。残る2区も調整を続けるという。同日、5党派の党首らは、市民団体「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」(以下、「市民連合」)が提出した13の政策へ署名。野党共闘の「共通政策」とした。この野党5党派と市民連合による「政策協定調印式」には、多くのマスコミ関係者が取材に来たにもかかわらず、ニュースとなるのは候補者一本化ばかりで、共通政策の具体的内容は、ほとんど報じられていない。そこで、筆者の独断と偏見で日本社会の課題と、それに対応する野党の共通政策を取り上げる。

*野党5党派は、立憲民主党、国民民主党、共産党、社民党、衆院会派「社会保障を立て直す国民会議」。

○総額7兆1480億円の米国産兵器爆買いを精査

 共通政策の中でも、タイムリーな内容が「膨張する防衛予算、防衛装備について精査」というものだろう。先日、来日した米国のドナルド・トランプ大統領が安倍晋三首相との会談後の会見で、米国産ステルス戦闘機F35について「日本は105機購入すると発表した」と満足げに語った件についての筆者執筆の記事は、大変大きな反響があった(関連記事)。

 F35は、今年4月に航空自衛隊三沢基地所属の機体が青森県沖で墜落したばかりで、搭乗していた自衛官パイロットも行方不明のまま。墜落原因の究明もできていない。その一方で、既に購入決定分に加え、追加購入分を合わせると実に147機のF35を爆買いするという安倍政権の方針に変更はなく、1機およそ110億円という機体の価格に加え、維持管理費も含めると、総額は約6兆2000億円という莫大な額となる。

 さらに米国と北朝鮮が対話を模索する中で、米国産のミサイル防衛システム「イージス・アショア」2基で約6000億円、やはり米国産のE-2D早期警戒機9機も約3480億円で購入するとし、安倍政権の米国産兵器の爆買い総額は約7兆1480億円に達する。一括で支払うわけではないにしても、とんでもない額である(国債発行分を除いた日本の年間の国家予算は60兆円程)。社会保障費を削減する一方で、消費税率を10%に引き上げようとしている安倍政権は、米国産の兵器の爆買いには、湯水の様に税金を使うというわけだ。こうした中、野党5党派が「膨張する防衛予算、防衛装備について精査」することを共通政策に掲げたことは特筆に値するだろう

市民団体「武器取引反対ネットワーク」の資料より
市民団体「武器取引反対ネットワーク」の資料より

○時給1500円、1日8時間働けば暮らせるようにする

 多くの有権者にとって、選挙における関心事は景気対策であろう。今年1月の月例経済報告で、安倍政権が「戦後最長の景気回復」にあると発表した一方で、翌2月の日経新聞の世論調査では、8割の人々が「景気回復を実感していない」と回答している。人々が景気回復を実感できない大きな理由の一つに実質賃金(生活物資の物価水準で除して、実際上の購買力に換算した金額)が上がっていないことが大きいのだろう。実質賃金の長期的な推移を見ると、むしろ安倍政権以前よりも実質賃金は低下している。同時期の先進諸国で実質賃金が上昇している中、相対的に日本の人々は豊かになっているどころか、むしろ貧しくなっているとすら言える。

実質賃金指数の推移の国際比較 出典:全労連 http://www.zenroren.gr.jp/jp/housei/data/2018/180221_02.pdf
実質賃金指数の推移の国際比較 出典:全労連 http://www.zenroren.gr.jp/jp/housei/data/2018/180221_02.pdf

 「健康で文化的な生活」を保障するには、日本弁護士連合会が昨年4月に「最低賃金額の大幅な引上げ」を求める声明を発表した通りであろう(関連情報)。では、現在、時給874円(全国平均)である最低賃金をいくらまで上げればよいのか。安倍政権は、「働き方改革実行計画」(2017年)で、年3%程度引き上げて全国平均1000円を目指す目標を掲げている。だが、京都総評(京都地方労働組合総評議会)の調査によれば、1人暮らしの25歳の男性が人間らしく生活するために必要な費用を時給に換算すると1639円だという(関連情報)。この数字に近いのが、野党5党派の共通政策だ。「地域間の大きな格差を是正しつつ最低賃金『1500円』を目指し、8時間働けば暮らせる働くルールを実現し、生活を底上げする経済、社会保障政策を確立し、貧困・格差を解消すること」としている。

 一方、日本商工会議所(日商)など中小企業3団体は先月28日、最低時給1000円へ引き上げる政府方針に「強く反対する」との声明を発表した。

https://www.jcci.or.jp/news/2019/0528130000.html

「経営基盤が脆弱で引上げの影響を受けやすい中小企業の経営を直撃し、雇用や事業の存続自体をも危うくする」というのがその理由である。時給1000円であっても年収200万円程度のワーキングプアであり、日商などの声明にはネット上でも「まともな給料を払わない企業は潰れた方がいい」等の批判が相次いだのであるが、確かに最低賃金の引き上げと共に中小企業支援策も充実させていく必要があるだろう。これに関して、野党の共通政策では具体的な文言はないが、共産党は大企業が下請け企業を搾取するような取引を適正化させるなど、様々な具体策を提言しており興味深い。

https://www.jcp.or.jp/web_policy/2017/10/2017-14-cyuusyoukigyou.html

野党5党派の共通政策 市民連合提供
野党5党派の共通政策 市民連合提供

 

○保育、教育に関する予算を飛躍的に拡充

 先月29日、自民党衆院議員の桜田義孝・前五輪相が少子化問題に関連して「子供を3人くらい産むようお願いしてもらいたい」と発言し、SNS等のネット上で大きな反発を招いた。これらの反発の背景には、個人、特に女性の自己決定権に国が指図するような気持ち悪さに加え、子育て・教育への支援が整っていない中で、「子どもが欲しくても、育てられない」と多くの人々が感じていることがある。

 少子化の最大の原因は、国立社会保障・人口問題研究所の調査で明らかにされているように、「教育や子育てにお金がかかりすぎるから」だ。安倍政権の主導の下、先月10日に、低所得層の大学や短期大学などの学費に公的支援を行うとする「大学修学支援法」が成立したが、同法では「年収270万円未満が目安」「年収380万円未満にも一部支援」であるなど厳しい所得制限があり、中間層は学費支援の対象外だ。報道では「大学無償化法案」とも呼ばれていたが、実際には「無償化」とは程遠い内容だ。

 夫婦のうち約48.8%(総務省調べ)が共働きである中、待機児童問題も相変わらず深刻である。共同通信の調査によれば、昨年4月時点で待機児童が100人以上の自治体を対象に、認可保育所等の今年4月入所の状況を尋ねたところ、待機児童の大半を占める0~2歳児の約4分の1が定員からあふれ入所できなかったという(関連情報)。安倍政権は、幼児教育・保育の無償化を今年10月から行うとしているが、むしろ待遇改善で保育士不足を改善することこそ、待機児童問題の解消のために必要だろう。保育士の資格を持ちながら、保育士の仕事をしていない「潜在保育士」は全国で約80万人いるとされ、その大きな理由が過度の業務負担と低賃金だからだ。

 これらの問題を解消していくには、子育て・教育への公的支出を増やす必要があるが、GDPに占める教育への支出割合で、OECD加盟34カ国中で日本が最低という状況がここ数年続いている。そのような状況において、「保育、教育、雇用に関する予算を飛躍的に拡充する」という野党5党派の共通政策は大きな意味を持つだろう。

○沖縄関連、脱原発、税制見直し等

沖縄県名護市の海岸に墜落したオスプレイ 2016年12月 筆者撮影
沖縄県名護市の海岸に墜落したオスプレイ 2016年12月 筆者撮影

 野党5党派の共通政策の全てについてコメントすると長くなるので、本稿では割愛するが、上述してきたことの他にも、筆者は注目している。例えば、基地問題。沖縄県名護市の辺野古・米軍新基地の建設は、昨年秋の知事選、今年春の県民投票で反対の民意が示された。共通政策で「辺野古米軍新基地の建設を直ちに中止」とあることは評価できる。また、日本の主権を著しく蔑ろにしている日米地位協定の改定は、米軍犯罪や騒音、事故等の基地問題への対応に不可欠だ。共通政策が「日米地位協定を改定」を明記していることは重要だ。

 脱原発や、太陽光や風力などの再生可能エネルギー普及の重要性については、筆者は繰り返し強調し、いくつも記事を配信してきたテーマなので、ここでは説明を省く。共通政策で「原発ゼロ」「再生可能エネルギーを中心とした新しいエネルギー政策の確立」とあるので、その実現を期待したい。

 「消費税率引き上げを中止し、所得、資産、法人の各分野における総合的な税制の公平化」も重要だろう。消費税は特に低所得者層に負担が大きく、諸外国では食料などの生活必需品には課税しないことも多い。また、消費税の税収がそもそもの目的である社会保障の拡充というより、法人税引き下げの穴埋めに使われているとの野党側の批判も、毎年のように社会保障費が削減される中、説得力がある。憲法上の税の理念からすれば、「応能負担の原則」、つまり、より富める者がより多くの割合で納税すべきであって、税制によって生活の苦しい人々をより苦しくすることがあってはいけない。その点、野党5党派の「税制の公平化」は評価できる。ただ、政治団体「れいわ新選組」を立ち上げた山本太郎参議院議員は「消費税の廃止」まで踏み込んでいる。野党5党派にも、単なる消費税率引き上げ反対でよいのか、引き下げも検討するべきではないか、論議してもらいたいものだ。

○なぜ、マスメディアは野党の政策を報じないのか?

野党5党派と市民連合による「政策協定調印式」には、報道各社の大勢の記者達が集まったが… 筆者撮影
野党5党派と市民連合による「政策協定調印式」には、報道各社の大勢の記者達が集まったが… 筆者撮影

 本稿では末尾に、野党の「共通政策」とされた13の政策を転載するが、冒頭にも書いた通り、これらの政策をマスメディアはほとんど紹介していない。日本のマスコミ、とりわけ民放及びNHKは放送法で「公平・公正」「不偏不党」の報道姿勢が求められているものの、実際には、政府与党の政策と、野党側の政策では、報じられる頻度があまりにも違いすぎる。その大きすぎる差は、有権者の判断する材料を奪うことになっていると、メディア人達は自覚しているのだろうか?

 こうした問題については、以前、とあるメディアの幹部が筆者に語ったことが大変興味深かった。曰く、「政策論議で、政府与党だけでなく、野党側の主張をもっと紹介すべきじゃないかと私は思うんですが、若いスタッフ達は『野党の主張を紹介するとニュースが党派性を持ってしまうのでは?』なんて言うんですよ」とのこと。これには筆者も呆れるやら苦笑するやらだった。政府与党の主張を取り上げることも、また党派性を帯びるのだ。自公による政権が長期化し、メディア人達の感覚もそれが当たり前であるかのように麻痺しているのだろうか?だが、政府与党の主張を何の疑いもなく連日報じる一方、野党側の主張を軽んじるのであれば、言い方が悪いが、それは報道機関というよりも、政府与党のPR機関であろう。

 今後、選挙が近づくにつれ、野党側の政策もその詳細が明らかになってくる。メディア人達には、本当の意味での「公平・公正」「不偏不党」を意識して報道を行ってもらいたいものだ。

(了)

野党5党派と市民連合が合意し、野党の「共通政策」とされた13の政策は以下の通り。

1 安倍政権が進めようとしている憲法「改定」とりわけ第9条「改定」に反対し、改憲発議そのものをさせないために全力を尽くすこと。

2 安保法制、共謀罪法など安倍政権が成立させた立憲主義に反する諸法律を廃止すること。

3 膨張する防衛予算、防衛装備について憲法9条の理念に照らして精査し、国民生活の安全という観点から他の政策の財源に振り向けること。

4 沖縄県名護市辺野古における新基地建設を直ちに中止し、環境の回復を行うこと。さらに、普天間基地の早期返還を実現し、撤去を進めること。日米地位協定を改定し、沖縄県民の人権を守ること。また、国の補助金を使った沖縄県下の自治体に対する操作、分断を止めること。

5 東アジアにおける平和の創出と非核化の推進のために努力し、日朝平壌宣言に基づき北朝鮮との国交正常化、拉致問題解決、核・ミサイル開発阻止に向けた対話を再開すること。

6 福島第一原発事故の検証や、実効性のある避難計画の策定、地元合意などのないままの原発再稼働を認めず、再生可能エネルギーを中心とした新しいエネルギー政策の確立と地域社会再生により、原発ゼロ実現を目指すこと。

7 毎月勤労統計調査の虚偽など、行政における情報の操作、捏造(ねつぞう)の全体像を究明するとともに、高度プロフェッショナル制度など虚偽のデータに基づいて作られた法律を廃止すること。

8 2019年10月に予定されている消費税率引き上げを中止し、所得、資産、法人の各分野における総合的な税制の公平化を図ること。

9 この国のすべての子ども、若者が、健やかに育ち、学び、働くことを可能とするための保育、教育、雇用に関する予算を飛躍的に拡充すること。

10 地域間の大きな格差を是正しつつ最低賃金「1500円」を目指し、8時間働けば暮らせる働くルールを実現し、生活を底上げする経済、社会保障政策を確立し、貧困・格差を解消すること。また、これから家族を形成しようとする若い人々が安心して生活できるように公営住宅を拡充すること。

11 LGBTsに対する差別解消施策、女性に対する雇用差別や賃金格差を撤廃し、選択的夫婦別姓や議員間男女同数化(パリテ)を実現すること。

12 森友学園・加計学園及び南スーダン日報隠蔽(いんぺい)の疑惑を徹底究明し、透明性が高く公平な行政を確立すること。幹部公務員の人事に対する内閣の関与の仕方を点検し、内閣人事局の在り方を再検討すること。

13 国民の知る権利を確保するという観点から、報道の自由を徹底するため、放送事業者の監督を総務省から切り離し、独立行政委員会で行う新たな放送法制を構築すること。