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日本人女性の新婚生活と職を奪った東京入管―職員が入管法違反の「水際作戦」も

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
 マズルムさん(左)とAさん 本人提供

 日本人女性と正式に結婚しているにもかかわらず、法務省から在留許可を得られない上、入国管理局の収容所に拘束されている―トルコ籍クルド人マズルム・ウチャルさん(22歳)の置かれている状況は、あまりに理不尽なものだ。また、法務省及び東京入管の措置は、マズルムさんのみならず、その日本人妻のAさんにとっても重大な人権侵害となっている。筆者もAさんに話を聞いた。

◯クルド人男性の夫を拘束

 マズルムさんは16歳の時に来日した。トルコでは、クルド人は少数民族として長年迫害され続け、現在もトルコ当局により独立派のクルド人組織の掃討作戦が続いている。トルコでは徴兵制があるため、マズルムさんも成人するとトルコ軍での兵役を務めなくてはならず、それは、同じクルド人同士で殺し合いをしなくてはならないということを意味する。そのため、マズルムさんは、親戚を頼り、日本へと逃げてきたのだ。その後、2017年2月、Aさんと出会い、交流を深めていった。2018年7月、マズルムさんからプロポーズされたAさんは、2018年9月19日に結婚し、地元の役所に婚姻届を提出、受理された。だが、新婚生活わずか2ヶ月にして、マズルムさんは東京入管の収容所に拘束されてしまった。以来、マズルムさんとAさんは引き裂かれたままだ。

◯看病のために駆けつけたことが拘束理由?

 なぜ、マズルムさんは拘束されたのか。Aさんは東京入管に問い合わせたが明確な回答はなかった。だが、考えられるのは、マズルムさんが東京入管に無許可で居住する埼玉県から神奈川県に移動したことだろう。未成年で来日したマズルムさんは同じ境遇の難民・移民達と同様に、仮放免申請をつなぐことで、収容施設への拘束を免れてきた。こうした場合、東京入管側の許可なしに、居住する自治体から移動してはいけないという規則がある。だが、2018年6月、当時まだ結婚前で神奈川県に暮らしていたAさんが、40℃以上の高熱に倒れたことを知り、いてもたってもいられなかったマズルムさんはAさんの下に駆けつけ、懸命の看病を行った。この時すでに夜間で東京入管の業務時間外であったが、Aさんが苦しんでいる最中、マズルムさんにとって彼女のところに行かないという選択肢はあり得なかったのだ。さらに悪いことに、Aさんの看病をした後、別の急用で埼玉に戻らなければならなかったマズルムさんは、スピード違反で取り締まられてしまった。マズルムさんに入管職員が語ったところによれば、これらのことが今回の拘束につながった可能性が高い。ただ、上記したように、マズルムさんは日本人であるAさんと2018年9月に結婚している上、重大な犯罪歴もない。法務省から在留特別許可を得られる事情は十分にある。そもそも、在留特別許可が得られていれば、マズルムさんが入管の収容所に拘束されることは無かったのだ。

◯激ヤセと大火傷ーマズルムさんの危機的状況

東京入管 その上層階が収容施設となっている
東京入管 その上層階が収容施設となっている

 

 温厚で心優しいマズルムさんは、Aさんの家族や地域の人々にも親しまれ、100人程が彼の解放を求め署名した。それにもかかわらず、マズルムさんは在留資格が与えられず、収容施設に拘束され続けている。そうした、あまりに理不尽な状況が、マズルムさんの心身を蝕む。Aさんは「彼が激ヤセしてしまって心配です…」と嘆く。

「食欲が無くてご飯を食べられていない、なかなか寝付けなくて、3時間程度しか眠れないとのことでした。収容施設の中で流行している水ぼうそうにもかかってしまい、高熱で苦しんで、さらに痩せてしまいました…」(同)。

体力の低下のためか、マズルムさんは目眩や立ちくらみに悩まされているという。

先日、東京入管へ面会に行ったら、車椅子に乗っていたので、びっくりしました。(収容施設での自由時間中に)コーヒーを飲もうとお湯を沸かしている時に、立ちくらみして、足に熱湯をかぶってしまったそうです。酷い火傷なので、収容施設ではなく、ちゃんとした病院で治療を受けられたらよいのですが…」(同)。 

◯夫の拘束で仕事を失ったAさん

 東京入管の振る舞いは日本人であるAさんの人権も侵害している。収容施設での面会は、平日のみ可能で、15時までに受付に面会を申し込まなくてはならない。だが、平日は仕事をしているAさんにとって、マズルムさんに会いに行くことすら、容易ではない。

「夫との面会のため、仕事を休ませてもらったり、早退していたのですが、そのことが原因で職場から、退職するか、休まないようにするか選べと言われてしまいました…」(Aさん)。

 保育士であるAさんは、今までの真面目な仕事ぶりが評価され、学年主任に昇格する予定だったのだという。「とても残念ですし、悔しいですが、夫をほっておくことはできません」(同)。だが、平日に面会のため度々休まなくてはならないとなると、再就職も容易ではない。

「今の職場は4月までなのに、全然次の仕事が決まらなくて…かなり焦っています」(同)。

◯東京入管の法に反するハラスメント

 入管側のAさんに対する対応も酷いものだ。入管の収容施設からマズルムさんを解放するため、「仮放免許可申請」の書類をAさんが提出しようとしたところ、入管の職員は「(マズルムさんには)退去強制令書が発布されているので、(仮放免申請書は)受け取れません。本当は帰ってほしいんですよ」と受け取りを拒否しそうになったのだという。入管職員は最終的には仮放免申請書を受理したものの、その厄介者を追い返すかのような対応に、Aさんはひどく傷ついたという。

 なぜ、日本人と結婚しているのにマズルムさんは在留資格が得られないのか。逃亡の恐れも無いのに、収容施設での拘束を続けるのか。筆者が東京入管に問い合わせると、同広報は「個別のケースにはお答えできない」としながらも、「一般論としては、日本人と結婚している等、優先的に在留特別許可を与えるとする法務省のガイドラインは、退去強制の対象となった後では、適用されない」と回答。またAさんに対する入管職員の心無い対応については「言ったか言わないは確認できないが、職務としてお答えしただけ」と全く悪びれない。

 だが、実際には、退去強制令書が発布された後も、その再審を法務省及び法務大臣に求めることができる。日本人のAさんと正式に婚姻関係にあることは、「特別に在留を認める事情がある」として評価されるべきだ。また、退去強制令書が発布されていても仮放免許可申請を行えることは、出入国管理及び難民認定法(入管法)の第54条に明記されている。まるで生活保護申請者を追い返す自治体窓口での「水際作戦」のように、Aさんが提出したマズルムさんの仮放免許可申請書を、東京入管の職員が受け取り拒否しようとしたことは、入管法に反する行為なのだ。

◯あまりにも時代錯誤、日本人配偶者に対する人権侵害

 マズルムさんとAさんのようなケースは、筆者も過去幾度も見てきたが、入管側の対応は、まるで外国人と日本人は結婚するなと言わんばかりだ。とりわけ、難民認定申請者やトルコ籍クルド人に対する、東京入管及び法務省の姿勢は極めて冷酷である。国際結婚が一般化している今日、東京入管及び法務省の対応は、あまりに時代錯誤であり、それは配偶者である日本人への深刻な人権侵害でもあるだろう。

(了)

*本記事の写真はAさん提供及び筆者撮影

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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