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「誕生日もパパがいない、ママも病気」在日難民の子ども達の悲しみ―「世界難民の日」写真展、東京・中野で

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
「日本での難民の状況を知って」と語る織田朝日さん。筆者撮影

 今日6月20日は、「世界難民の日」。日本にも戦災や迫害から逃れ、庇護を求めてきた難民達がいるが、彼らの多くが、難民として認定されないばかりか、入国管理局の収容施設に拘束されることもあるなど、困難な日々を送っている。そうした難民達の姿を知ってもらおうと、在日難民支援を行っている織田朝日さんの写真展「子供達の笑顔を守りたい」が、18日から今日の18時まで東京都中野区のギャラリーで催されている。

〇「世界難民の日」にあわせ写真展

 中野区のギャラリー「meee Gallery Tokyo」(東京都中野区新井1-23-24)を筆者が訪ねると、写真展を見に来た人々に織田さんが飲み物やお菓子を配っていた。「正直なところ、写真は素人なので、展示するのは恥ずかしいです。でも、日本での難民の人々の困難な状況や、それでも強く生きていく姿を知ってもらいたくて」と、織田さんは言う。約30点程の写真は、運動会や演劇会などの難民の家族達の日常、東京都入国管理局の収容施設に拘束された家族の解放を求める難民達の姿等を撮ったものだ。難民達の家々を訪ね、家族ぐるみで付き合っている織田さんだからこその距離感、温かさが写真から伝わってくる。

〇入管の収容施設での人権侵害

 織田さんが、日本での難民の状況に関心を持ったのは、2004年のこと。東京都渋谷区の国連大学前で、クルド難民の一家が、日本での難民へのあまりの酷い扱いに抗議の座り込みをしていたのを見かけたからだ。

 「当時、イラク戦争等で、米軍が人々を拘束し、刑務所で虐待していたことが報じられていましたが、それと似たようなことが、日本でも起きていることに、衝撃を受けました」(織田さん)。

 年間数万人から数十万人もの難民を受け入れている諸外国に比べ、日本は難民条約に加入していながら、桁違いに難民の受け入れ数が少ない。この10年の難民認定数をみると、2008年の57人をピークに、年間20人前後で推移している。世界情勢が混迷し続ける中、難民認定申請も右肩上がりだが、昨年の難民認定率はわずか0.2%。正に「難民鎖国」というべき状況だ。そして、法務省・入国管理局から「難民不認定」との烙印を押された、難民達は、在留資格がないとして、入国管理局の収容施設へと「収容」されてしまう。その上、収容施設内の状況も劣悪だ。毎週のように、東京入管に通い、拘束されている人々と面会する中、織田さんが聞かされるのは、耳を疑うような話ばかりである。

 「入管職員が、被収容者をバカにしたり怒鳴りつけたりするということは、当たり前のようになっていて、あまりに理不尽な扱いに対し、被収容者が少しでも抗議しようものなら、10人位で飛びかかり床に叩きつけるというようなことも、よく聞きます。実際、私の知り合いも、あざだらけにされました。ストレスのあまり、自殺を試みる人も何人もいるのですが、そうした自殺未遂者の心のケアをするどころか、『懲罰房』と呼ばれる独房に何日も閉じ込めてしまう。病気になっても、痛み止めを与えるだけ。かなり体調が悪化して危険な状態でも病院に連れて行かないということもよくあります。食事も、給食に虫や髪の毛が混入しているという苦情を何度も聞きました。これらの問題について入管側に改善を求めているのですが、いつも『そうした事実はない』と否定するばかりです」(織田さん)。

 入管職員は織田さんら面会者に対しても高圧的だ。

 「面会のルールが頻繁に変わることで苦情を言うと、入管職員に『文句があるなら面会しなくたっていいんだぞ!帰ってもいいんだぞ!』『あんた達が納得いく説明なんて必要ないんだよ!』と罵倒されたこともあります…」(同)。

〇長期収容と家族の苦悩

 長期の「収容」は、拘束されている本人だけでなく、その家族をも苦しめる。

 「仮放免もなかなか認められず、1年や2年収容されるという人も珍しくありません。小さな子ども達には、収容されている親の顔を忘れてしまう子もいます。夫が収容されている女性がワンオペ育児で、精神的に参ってしまうということもよくあります。今回の写真の被写体になってくれたトルコ籍のクルド難民の女の子も、お父さんが収容されていて、先日、3度目の仮放免申請が却下されました。もうすぐ8ヶ月目の収容となります。せっかくの新学期も、誕生日も、お父さんが家にいない。帰れる国がないのに、そんなに長く拘束する必要があるのでしょうか?彼女のお母さんも持病に苦しみ、二度も倒れています。でも、お父さんが収容されているのでお金もなく、小さな子ども3人の面倒を一人でみないといけない。こんな状況でどうやって生きろというのでしょうか?」(織田さん)。

〇現実を知ってほしい

 織田さんは「本当は、難民の子ども達が遊んでいるような、楽しい写真の方が撮りたいんですけどね」と言う。

 「入管職員らが『オリンピックの治安対策のため厳しくしている』と言っていると被収容者の人々から聞いていますが、ここ2年くらいから、難民の人々が収容されることが増え、なかなか仮放免もされなくなって収容が長期化しています。とにかく、多くの人々に現実を知ってもらいたいし、この状況を何とか変えたいです」(同)。

 織田さんの写真展は今日が最終日。筆者としても、多くの人々に立ち寄ってもらえたら、と願う。

(了)

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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