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【都議選】報道されない重要テーマ-都心に落下物や騒音被害、テロの懸念 羽田空港飛行ルート変更問題

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
羽田空港。都心側からの飛行機の発着が解禁されようとしている。(写真:中尾由里子/アフロ)

今日、投票日の東京都議会選挙。メディア上で語られている争点らしい争点は、築地市場の豊洲への移転問題や、安倍政権への是非くらいであろう。だが、都民の生活に重大な影響を与えうる問題がある。羽田空港の飛行ルート変更問題だ。

〇新宿、渋谷等を大型旅客機が低空飛行、ドローンによるテロリスクも

安倍政権は、東京オリンピックに向けて、外国人観光客を年4000万人に倍増させると大風呂敷を広げた。その具体策として国交省が推し進めようとしているのが、「羽田空港の機能強化」だ。現在1時間あたり80便の発着回数を、90回に増やし、年間で羽田空港に出入りする飛行機を1.7倍に増加させるのだという。そのため、国交省が主張しているのが、これまで東京湾側から発着陸していたのを、都心の空を低空飛行するルートも解禁するというもの。飛行ルートの変更を懸念する住民による団体「羽田空港増便問題を考える会」が国交省などに確認したところ、新宿区や渋谷区で地上から500メートル、品川区では地上から300メートルと、非常に低く飛ぶのだという。もし、誰かが、いたずらやテロなどで、高層ビルの上などからドローンを飛ばしたら、飛行機のエンジンなどを損傷するなどの重大事故になりかねない。

〇上空からの落下物の懸念も

都心の上を航空機が飛ぶことにより、落下物のリスクもある。航空機が着陸の際、機体内にしまっていた車輪を外に出す時、部品や上空の低温で張り付いた氷などが落下するということが日常的に起きる。国交省によれば、航空会社に報告を求めるようになった2009年から昨年10月末までに全国で437件の部品脱落があったという。その中には、重さ1キロ以上の部品が脱落したケースも64件あり、最大のものでは、重さ12キロのエアコンカバーが脱落しているというのだ。しかも、これらの統計には、氷の落下は含まれていない。落下物の多い成田空港付近では、一部の地域で住民や施設の移転すらも検討されているくらいなのだが、羽田空港の新飛行ルートは上記したように、新宿や渋谷など正に都心の上を飛ぶため、住民や施設の移転など非現実的であろう。

〇騒音被害も懸念

騒音被害も予測される。空港から半径5キロ内の大田区では、約80デシベルの騒音被害があるとみられている。これは、窓を開けた地下鉄の車内と同じくらいで、うるさくて我慢できない騒音だと言える。半径10キロ内の港区や品川区、目黒区では、最大で74デシベル、半径15キロ内の新宿区や渋谷区でも、70デシベルになるとみられ、しかも、天候や建物の立地によっては、これらの騒音がさらに酷くなりうる。例えば、曇りや雨で雲が空を覆っている場合、航空機からの騒音は雲に反射され、増幅して響き渡るし、大きなビルに囲まれた地域でも、ビルに反射して、騒音が酷くなる。新飛行ルートでは、2分に1機が都心を通るから、その下にいる人々の感覚としては、ずっと騒音が続くということになりるのだ。

羽田空港増便問題を考える会のパンフレットより
羽田空港増便問題を考える会のパンフレットより

〇国交省の言い分と、それへの反論

これらの懸念に国交省側はどう答えているのだろうか。新飛行ルートについて、ロンドンのヒースロー空港やニューヨーク周辺のJFK空港、伊丹空港や福岡空港などを例に、「人口密集地の上を航空機が飛ぶこと自体は、国内外であること」と主張している。だが、羽田空港の飛行ルート変更問題に取り組む、奈須りえ・大田区議会議員はこう反論する。「ニューヨークにしてもロンドンにしても、空港から市街地までは20キロ以上離れていますし、きちんと緩衝帯を設けています。首都の人口密集地を航空機が飛び交うということは、やはり世界に類を見ないもの、と言えます。伊丹空港についても、危険だったからということで莫大な費用をかけ関西国際空港を作ったはず。その後、地元の要望もあり伊丹空港は使われ続けていますが、騒音など同空港の問題が無くなったわけではありません。福岡空港でも、やはり騒音は大きな問題となっております。国交省の見解でも、落下物は遠距離国際線に起こりやすいとされています。羽田空港は欧米からの遠距離国際線が乗り入れているため、国内線と近距離国際線のための伊丹、福岡の事例と同一視することはできません」。

羽田空港の国際線発着回数を増やすためという、新飛行ルートの大義名分にも、奈須氏は疑問を投げかける。「都心を低空飛行しなくても、羽田空港の運用の見直しで、1時間あたり80便から、84便にまで増便できると国交省が試算しています。15時から19時という時間帯にこだわらず、1時間あたり2便程度増やせば、羽田空港の発着便数を1.7倍にするという目標も達成されます。都心を低空飛行するリスクを考えれば、“海側から着陸に入り、海側へ離陸する”というこれまでの羽田空港運用の原則を維持する方法で増便すべきだと思います」(同)。

〇結局は、住民が声をあげることが重要

羽田空港の新ルートは、東京都の中心部の広範囲に影響を与えかねない問題であるにもかかわらず、この間、都議選のテーマとしてはほとんどとりあげれてこなかった。 やはり、羽田空港新ルートを懸念する住民団体「としまの空を考える会」は、今回の都議選に出馬した候補者たちにアンケートを行っている。

https://toshimanosora2016.jimdo.com/

結局のところ、どんな問題であれ、住民たちが自分たちのこととして、声をあげない限り、議員たちが動くことは期待できない。マスメディアで争点化されにくい、地方自治体の個別課題であれば、なおさらだ。都議選が終わった後も、都民は、羽田空港の新飛行ルートの問題を考えていく必要があるのだろう。

(了)

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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