パスポート強制返納取り消し訴訟が浮き彫りにする安倍政治の本質―憲法上の権利を政権の保身のために侵害か
昨日14日、東京地裁で、フリーカメラマンの杉本祐一さんが、政府によるパスポートを強制返納及びイラクとシリアへの渡航制限を取り消すことを求めた裁判が始まった。
杉本さんは、シリア渡航を計画していることが、一部メディアで報じられた直後の今年2月、警察官を伴った外務省職員にパスポートの強制返納をさせられた上、再発給されたパスポートも、シリアやイラクに行くことができない渡航制限つきのものとなった。ジャーナリストのパスポートを、国が強制力を伴って返納させたことは、国内のみならず、海外でも驚きを持って受け取られた。BBCやワシントンポスト、CNNなど世界の主要メディアも取り上げ、海外メディアの日本支局の記者たちは「こんなことは自分の国ではありえない」と呆れかえっていた事件だ。
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今回の裁判の主な争点は、過去20年間にわたり紛争地を取材してきた杉本さんの、憲法に保障された報道の自由を侵害してまで、パスポートの没収および渡航制限をする必要性があったのか、外務大臣の裁量権の濫用ではないのか、旅券法に定められた手続きを経ずに没収したことの是非など。
14日、法廷では、パスポートを強制返納及び渡航制限を不当・違法とする原告の杉本さんに対し、被告である国、外務省側は全面的に争うとした。中でも注目すべきは、国側はこの事件の核となる重大な疑惑について、法廷でその認否を避けようとしていることだ。つまり、パスポート強制返納や渡航制限は、杉本さんの「生命・身体の保護」でも「公益」でもなく、安倍政権の保身のために行われたのではないか。後藤健二さんと湯川遥菜さんを助けるために実質何もしなかったことで批判を浴びていた最中、杉本さんが安倍政権にとっての新たな「トラブル」となり得ることを未然に排除するために行われたのではないか、という疑惑である。
杉本さんのパスポート強制返納については、今年2月6日午前中、杉田和博官房副長官が、外務省の三好真理領事局長(当時)を呼び出し、外務省内での協議を経て、同日夕に三好領事局長が官邸に行き、杉田官房副長官に説明。官邸の意向を踏まえ、その場で旅券返納命令が決定されたことが明らかになっている。
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安倍政権の強い意向があったからこそ、ジャーナリストに対する処分としては戦後初の事例であり、しかも旅券法に定められた手続きを経ないまま、警察官を伴って返納を迫るという、異例だらけで強引なパスポート強制返納や渡航制限が行われたのではないか。この問題こそ、法廷で明らかにされるべき、最重要の事実であろう。
昨日の法廷での、国側の姿勢は、図らずともパスポート強制返納・渡航制限事件の本質を浮き彫りにさせた。第一回目の口頭弁論を終えた、杉本さんは「これは僕だけの問題ではない。国民の知る権利にも関わる問題だ」と語ったが、この裁判で問われるべきなのは、それにとどまらない。政権トップが自分達の都合で、法律を恣意的に解釈・運用し、個人の憲法に保障された権利を侵害したか否か、またその是非を問うものでもあるのだろう。筆者としても、この裁判をめぐる動きを今後も注視していきたい。
(了)
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