拝啓 小泉純一郎様 「脱原発」語る貴方が答えるべきこと

街頭演説する小泉元首相。今月27日、池袋駅西口にて撮影。

最初に断っておくが、私は細川護煕候補には、宇都宮健児候補共々、脱原発候補として、都知事選では大いに頑張ってもらいたいとは思っている。そして、小泉純一郎元首相の「脱原発」に関する主張はかなりマトモだとも思う(彼が言っている内容は、ずっと前から反原発団体や環境NGOなどが主張してきたことではあるが…)。

なぜ、この国の人々の大半が、脱原発を望むのか。それは命の問題だからだ。大量の放射能がバラ撒かれたら、被曝し健康を害し、最悪の場合は死に至る。そういうリスクがあるからだ。また、広大な土地が汚染され、人々の生活も無茶苦茶になる。住み慣れた、愛着のある故郷を失う。地域の人間関係もズタズタになる。

だから、イラク戦争を取材してきた者として、これだけは言わして欲しい。

小泉元首相、イラク戦争支持・支援の責任を、貴方はどう考えているのですか?

先日、JR池袋駅西口での街頭演説の際、小泉元首相に私は直接声をかけ、聞いてみた。だが、貴方は無言で片手をあげただけだった。

小泉元首相、貴方が支持・支援したイラク戦争で、少なくとも民間人15万人が犠牲となったとされ、一時は国民の5分の1が避難生活を余儀なくされ、今もなお治安が安定しないため帰還できない人々が大勢いる。小泉政権は、イラク戦争を支持しただけのみならず、03年3月のイラク戦争開戦から、翌年04年9月くらいまで、約35兆円という空前の額の米国債を購入した。それは意図したものか、そうでないかに関係なく、現実として、イラク戦争の戦費を支えた

白血病の子ども。口から血を吐き続けていた。イラク・バグダッドの病院で撮影
白血病の子ども。口から血を吐き続けていた。イラク・バグダッドの病院で撮影

そして、イラクには推定で約2000トンもの劣化ウラン弾が米軍により、バラ撒かれた。米国はその因果関係を認めようとしないが、現地の医師たちは、イラク戦争開戦後、明らかに子どもの白血病やガンが増加した、と話す。イラク西部の都市ファルージャに至っては、最悪の時期で新生児の約2割が心臓や脳などに深刻な障害を持って生まれ、その大半が生後7日間しない内に亡くなったというし、現在においても劣化ウラン弾等、米軍が使用した兵器との関連性が疑われる健康障害に人々は苦しめられている。

小泉元首相、貴方は、米軍による04年4月のファルージャ包囲攻撃、11月のファルージャ総攻撃も「成功させないといけない」と支持した。この2度に渡る大攻撃で、ファルージャは徹底的に破壊され、死者行方不明者合わせ約1万人もの人々が犠牲になったとされる。この戦闘では、女性や子ども、老人など、非戦闘員も大勢殺された。戦乱の中、ファルージャ総合病院が辛うじて回収した700もの遺体の内、504体が子供と女性だった。現地住民や人権団体の話によれば、銃剣で体中メッタ刺しにされた女性の遺体、首を切断された遺体、(戦意がないことを示す)白旗を抱きかかえたまま撃ち殺された少年の遺体などが見つかったという。病院や診療所も荒され、空爆されるなどの国際人道法違反が横行。こうした残虐行為の最前線に立ったのは、沖縄・キャンプ・ハンセン基地を拠点とする第31海兵遠征部隊だった。そしてこれらの在日米軍に、いわゆる「思いやり予算」などの在日米軍駐留経費、毎年6000億円以上の税金を使って日本政府は肩代わりしているのだ。

ファルージャではあまりに大勢の人々が殺されたためサッカー場も墓地とされた。
ファルージャではあまりに大勢の人々が殺されたためサッカー場も墓地とされた。

イラク戦争のそもそもの大義名分とされた、「サダム・フセイン政権による毒ガスや細菌兵器などの大量破壊兵器の開発」「国際テロネットワーク・アルカイダとフセイン政権による米国への攻撃の共謀」といった当時の米国ブッシュ政権の主張が誤りだったことは、米国上院特別情報委員会による検証で明らかになっているし、何より、ジョージ・W・ブッシュ元大統領本人が誤りを認めている。日本と同じく米国を支持・支援したオランダでは、2010年1月に独立検証委員会の報告がまとめられ、イラク戦争が国連憲章に反する違法な戦争であったこと、オランダ政府の戦争支持が誤りであったことが結論づけられた。イギリスにおいても、イラク検証委員会が立ち上げられ、トニー・ブレア元首相含め、当時の閣僚などの政府関係者が公聴会で証言し、関連の政府文書も機密解除され、その大半が委員会のウェブサイトで公開されている。

英イラク戦争検証委員会のウェブサイト。ブレア元首相らの証言動画も公開している。
英イラク戦争検証委員会のウェブサイト。ブレア元首相らの証言動画も公開している。

だから、小泉元首相にも是非、説明してもらいたい。なぜ、あの戦争を支持・支援したのか。情報や判断に誤りは無かったのか。今後の教訓として何をすべきなのか。戦争に加担した罪を、貴方はどう贖うのか。

サダム・フセイン元大統領による独裁を排除したのだから、いいじゃないか。そういう反論があるかもしれないが、残念ながら、ヌール・マリキ首相率いる現イラク政府が、民主主義とは程遠く、むしろシリアのアサド政権に近いことは、関連記事*を参照してもらいたい。そう、たった今もファルージャ他、イラク西部の人々は自分達の国の政府に殺され続けているのだ。

「アルカイダに占拠された」ファルージャの惨状ーイラクのシリア化を防げるか?日本も問われる役割

http://bylines.news.yahoo.co.jp/shivarei/20140126-00031997/

サダム政権の元ですら、バクダッド等では、スンニ派やシーア派、クルド人が宗派や民族をこえて共存していたし、互いに結婚し親戚同士になっていた。だが、イラク戦争は家族や隣人の間にすら、埋めがたい溝を生じさせる程の、深刻な宗派間対立をもたらした(関連記事)。血で血を争う争いの中、「宗派や民族が違っても皆、イラク人だ」という意識は粉々に砕かれてしまっている。

再び細川元首相の都知事選出馬応援というかたちにせよ、一旦は政界を引退した政治活動再開したのは、小泉元首相の言葉を額面どおりに受け取るならば、原発事故で少なからず、自身を含め歴代政権が原発を推進してきたことを、(真摯な謝罪はないものの)誤りであったことを認めたから、ではないか。最初に述べたように、原発事故もイラク戦争も、多くの人々の人生や生活がメチャクチャにされた、という意味においては同じである。放射能で、大切な故郷が汚染された、ということも共通している

政治活動を再開し、街頭の人々を前に道理を語るのならば、小泉元首相、貴方は私の問い―それは、イラクの人々のものであり、そして当時、イラク戦争に疑問を持った日本の人々全てのものでもある問いに答えるべきだ。

本記事は、小泉元首相、貴方に対する公開質問状と受けとっていただきたい。政治家として、人として、真摯なご対応を強くお願いする。

パレスチナやイラクなどの紛争地での現地取材、脱原発・自然エネルギー取材の他、米軍基地問題や貧困・格差etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに寄稿、テレビ局に映像を提供。著書に『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共編著に『原発依存国家』(扶桑社新書)、『イラク戦争を検証するための20の論点』(合同ブックレット)など。イラク戦争の検証を求めるネットワークの事務局長。

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