Yahoo!ニュース

日本航空の衝突炎上事故で「ペットを機内持ち込みに」の声→手荷物扱いのため緊急脱出時には連れて行けない

篠原修司ITジャーナリスト/炎上解説やデマ訂正が専門
署名活動も始まった。change.orgより筆者キャプチャ

 1月2日に羽田空港で起きたJAL機と海保機の衝突炎上事故で、JAL機の貨物室内にいた2匹のペットを助けられなかった件で、ペットユーザーらから「ペットを機内持ち込みできるようにして欲しい」との声が高まっています。

 しかし、結論から先に言うとペットは“手荷物”扱いとなるため、緊急脱出時には連れて行けません。

 つまり、機内に持ち込めるようになったとしてもその命は助けられません。

事故を受け「ペットを機内持ち込みできるように」の声。署名も始まる

 日本航空516便衝突炎上事故が起きた翌3日、日本航空は機内に2匹のペットが預けられており、救出できなかったことを発表しました。

 この発表を受け、テレビのコメンテーターやSNSで芸能人や著名人が「ペットを機内持ち込みできるようにして(緊急時にも助けられるようにして)欲しい」とのコメントを出すようになりました。

 また、一般のペットユーザーからも同じく声があがり、ネット上の署名サイト『change.org』では「飛行機のペット貨物室積み込みの見直しをお願いします」との署名も始められました。

 海外や日本の一部の航空会社ではペットを機内に持ち込める仕組み(条件アリ)があり、こうした事故での脱出時に「貨物室ではなく機内にペットがいれば助けられるのでは?」との考えからこうした声があがっているようです。

スターフライヤー「脱出の際にはペットは機内に置いて行かなくてはなりません」

 しかし、ペットを機内に持ち込めるようになったとしても、緊急脱出時には置いて行かなければいけません。

 日本でペットの機内持ち込みサービスを提供しているスターフライヤーは、緊急時のペットの取り扱いについて以下のように案内しています。

緊急時の酸素サービスはペットにはご利用いただけません。
また脱出の際にはペットは機内に置いて行かなくてはなりません。
FLY WITH PET! | 搭乗手続きについて | スターフライヤー

 つまり、脱出の際には目の前にペットがいたとしても、置いて行かなければいけないのです。

 このあたり「海外の航空会社はどうなっているのか?」と思って調べてみましたが、緊急脱出時のペットの扱いについてWeb上で案内している会社は見当たりませんでした。

 ただ、パナマのコパ航空がスターフライヤーと同じく「緊急時の酸素サービスはペットにはご利用いただけません」と案内しているのは見つけました。

In the event of an emergency, oxygen will not be administered to pets.
Pet Information | Copa Airlines

 そのほかの航空会社も「専用のケージに入れること」を必須条件としてあげており、そこからペットを出すことは認められていません。

 ケージは手荷物となるため、緊急脱出時には連れて行けないと考えられます。

 また、どの航空会社も「ペット同伴の客は脱出の妨げとなるため非常口付近の席は取れない」と案内していることを考えると、ペットを助けることは難しいでしょう。

ペットの命より、人間の命の方が大事

 当たり前の話ですが、ペットの命より、人間の命の方が大事です。どう考えても、人間の命の方を救わなければいけません。

 ペットを救う時間で人間の命を救えるのであれば、まず先にそちらを救います。

 仮にペットを救うために人間の命が失われるようなことがあれば、遺族は航空会社も、飼い主も、そのペットも許さないでしょう。

 なかには「助けるのは最後で良い」と言う飼い主もいると思いますが、その最後まで付き合わなければいけない乗務員の方々の命が危険に晒されます。

 そもそも緊急時に人間の指示に従えない動物がその場にいることで混乱が発生する恐れがありますし、緊急時なのに「ペットを助けろ!」と現場を混乱させる飼い主もいるでしょう。

 助けられる命であれば助けたいという気持ちは筆者にもありますが、緊急時です。動物の命より、人間の命が優先されます。

乗客が手荷物を優先したために死者が多くなった事例も

 過去には、乗客が手荷物を優先したために死者が多くなったとして批判されている航空事故もあります。

 2019年に起きたアエロフロート1492便炎上事故です。

 この事故は脱出時の映像が残っており、それを見ると一部の乗客が手荷物を持って脱出していることが確認できます。これにより脱出が遅れた可能性が指摘されているのです。

参考:荷物取り出しで犠牲拡大か ロシア旅客機の炎上事故(日本経済新聞)

 この事故では78名の乗員乗客のうち、41名が死亡しました。

 今回の事故でJAL機の方は全員脱出できていますが、(仮に機内に持ち込めていたとして)ペットを救うためにもし犠牲者が出た場合、誰がその責任を取れるのでしょうか?

ペットが死んでしまう結果を選ぶのは飼い主

 ペットの機内持ち込み、というか命を救うことについて議論が高まっていますが、少なくとも飛行機事故でペットを殺さない方法はあります。

 ペットを旅行に連れて行かなければ良いのです。

 数日の旅行であれば自宅に残す、ペットシッターを頼む、ペットホテルに預けるといった手段でペットの命を守れます。

 ペットを旅行に連れて行きたい、というのは飼い主のワガママです。

 そして、緊急時にペットが死んでしまうことの承諾書にサインするのも、飼い主です。嫌ならサインせずに飛行機に乗らなければ良いのです。

 その旅行に、本当にペットを連れて行く必要があるのか? もしものときにペットが犠牲になっても良いのか? よく考えて欲しいと一人の飼い主として思います。

ITジャーナリスト/炎上解説やデマ訂正が専門

1983年生まれ。福岡県在住。2007年よりフリーランスのライターとして活動中。スマホ、ネットの話題や炎上などが専門。ファクトチェック団体『インファクト』編集員としてデマの検証も行っています。最近はYouTubeでの活動も。執筆や取材の依頼は digimaganet@gmail.com まで

篠原修司の最近の記事