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画像生成AIはクリエーターの権利を脅かすと規制訴えた団体の理事、禁止の二次創作イラストで批判され謝罪

篠原修司ITジャーナリスト/炎上解説やデマ訂正が専門
記者会見の発表をする木目百ニ理事のTwitter。筆者キャプチャ

 「画像生成AIの不適切な使用によってクリエーターの創作活動や権利が脅かされている」とAIの規制を訴えた団体の理事が、出版社が禁止している二次創作イラストで金儲けをしていると批判され、謝罪しました。

『クリエイターとAIの未来を考える会』がAI規制を訴える

 4月27日、画像生成AIの適正使用と適切な法制度実現のための啓蒙、提言活動を行う団体『クリエイターとAIの未来を考える会』が記者会見を開き、画像生成AIに一定の規制が必要だと訴えました。

 この記者会見はNHKなどのマスメディアにも取り上げられ大きな話題となりましたが、その一方で会見に出席した『クリエイターとAIの未来を考える会』の木目百ニ(もくめももじ)理事が著作権を侵害する二次創作でお金儲けをしているとの批判も起きました。

出版社が禁止している二次創作で支援呼びかけ。しかもR18

 問題とされているのは木目百ニ理事が、“もめん102”の名義で運営していたイラストコミュニケーションサービス『pixiv』の投稿イラストです。

 『pixiv』内で木目百ニ理事は、人気漫画『ぼっち・ざ・ろっく!』のキャラクターの二次創作のR18イラストを投稿していました。

問題のページ。pixivのキャッシュより筆者キャプチャ
問題のページ。pixivのキャッシュより筆者キャプチャ

 しかし、『ぼっち・ざ・ろっく!』の出版元である芳文社は「キャラクターの自作画(イラスト・パロディなど)を掲載すること」を明確に禁止しています。

 このため「画像生成AIによる権利侵害を訴える団体の理事が、他者の著作権を侵害しているのはどうなんだ」と批判される事態となりました。

 また、木目百ニ理事が問題のイラストからクリエイター支援サービス『pixivFANBOX』へ誘導したり、アダルトサイト『FANZA』で問題のイラストそのものを販売していたりしたことから、「自分のお金儲けは良いのか」といった類の批判も起きました。

「自らを正す必要性を痛感いたしました」と謝罪

 こうした批判を受けて木目百ニ理事は自身の『Twitter』や『pixiv』などのページで、「ご迷惑をおかけした創作者及び作品に関係された皆様、本当に申し訳ございませんでした」と謝罪する文章を画像で掲載

 「作者の方々には、別途、謝罪のご連絡」をし、「今後は、創作者の権利を正しく尊重することについて、一層注意を払うようにいたします」と今後の方針についても発表しました。

木目百ニ理事の謝罪文全文

この度は、私がFANBOXなどで、出版元のガイドラインに従わない形で二次創作を行っていた件について、ご迷惑をおかけした創作者及び作品に関係された皆様、本当に申し訳ございませんでした。

私は、創作という文化が大好きで、皆さんと楽しむために一次創作と二次創作の両方で創作活動を行って参りました。今回、そのような創作環境を守りたい一心で、先日の会見の場に立たせていただきました。

問題となった二次創作に関しては、元の作品たちが大好きで、それらのファンとして行っていた活動の一部のつもりでしたが、出版元の二次創作に関するガイドラインを見落としており、今回、多くの方からご指摘を受けるに至りました。

ご指摘を受け、自分の行いを振り返り、創作者の権利を主張するにあたっては、自らを正す必要性を痛感いたしました。私の活動で創作者の皆様に迷惑がかかることを本当に申し訳なく思っております。

本日、FANBOXなどのデジタルプラットフォームに存在する私の二次創作作品を全て削除しました。一部削除に時間がかかるものがあり、プラットフォームの担当の方にも対応をお願いをしております。

これまでにガイドラインに従わない形で二次創作を行ってしまった作品の作者の方々には、別途、謝罪のご連絡をいたしますが、まずはこちらでお詫び申し上げます。今後は、創作者の権利を正しく尊重することについて、一層注意を払うようにいたします。

混迷を極めるAIの権利侵害・規制の討論

 画像生成AIの権利侵害、または著作権者の権利を守るためには一定の規制が必要だといった議論は、混迷を極めています。

 まず「学習素材となった権利者の同意を得る必要がある」といった話は、2018年に法改正された著作権法30条の4によって日本では“合法”とされています。

 もちろんこの「著作権法30条の4が問題だ」といった議論はあっても良いと思いますが、現行法では学習そのものについては問題がありません。

 一方で、著作権がある画像を元に新たな画像を生成する(image-to-image)については現行法においても著作権侵害になる可能性が高いとみられています。

 問題は、生成AIによる権利侵害を議論する際に、これらが混ぜこぜになって扱われてしまうことです。また、これに「自分の絵を学習されるのは嫌だ」といったいわゆる“お気持ち問題”も加わり、SNSでは議論というよりも単なる言い争いになってしまう状況も多く見られます。

 今回の事例は「権利侵害だと規制を叫ぶ人間が、じつは自分も権利侵害をしていたことがわかり炎上した」というものですが、AI規制を進めた結果、日本では(厳密に見れば真っ黒ですが)グレーゾーンとして扱われている二次創作まで規制のメスが入って厳しい状況にならなければいいなぁと思う次第です。

ITジャーナリスト/炎上解説やデマ訂正が専門

1983年生まれ。福岡県在住。2007年よりフリーランスのライターとして活動中。スマホ、ネットの話題や炎上などが専門。ファクトチェック団体『インファクト』編集員としてデマの検証も行っています。最近はYouTubeでの活動も。執筆や取材の依頼は digimaganet@gmail.com まで

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