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奨学金問題は名前を『教育ローン』に変えれば解決する?

篠原修司ITジャーナリスト/炎上解説やデマ訂正が専門

最近、奨学金が問題だと声高に叫ぶ記事をよく目にします。多くは「奨学金には利子があることを知らずに借りる学生が多く、そのせいで社会に出たあと苦しんでいる」といった内容です。

最近では週刊金曜日が「奨学金はサラ金より悪質だ」と吠えていました。サラ金の金利を知ってるくせにこういうことを言うんだから悪質です。

同問題に詳しい中京大学の大内裕和教授が実情を紹介した。「成績優秀者などで無利子に貸与される第一種より、多くは利息付きの第二種。たとえば、毎月一〇万円借りれば利率三%で返還総額は六四六万円。毎月二万七〇〇〇円となり完済まで二〇年かかる。非正規労働にしか就けない若者に返せるわけがない。返済の順が延滞金、利子、元金なのでいつまでたっても元金が返還できない」と指摘。

出典:週刊金曜日ニュース≫ ブログアーカイブ ≫ 日本学生支援機構の利息収入は232億円――奨学金はサラ金よりも悪質

聖学院大学の柴田武男教授は「学生支援機構はサラ金よりも悪質とも言えるが、日本育英会が母体で国民が信用してしまっている」と指摘した

出典:週刊金曜日ニュース≫ ブログアーカイブ ≫ 日本学生支援機構の利息収入は232億円――奨学金はサラ金よりも悪質

もちろんこのツッコミ所満載の記事には、『16倍速勉強法』などの著者である本山勝寛氏が、「サラ金より悪質だと言う柴田教授の聖学院大学がオススメしている教育ローンの方が金利高いけどそこんとこどうなの?」という絶妙なツッコミ記事をすでに書かれています。

まず、大内教授が語る利率三%だが、これはあくまで上限値であって、実際には市場金利に合わせて金利設定され、変動利率の場合が現在0.3%前後、固定利率でも1%台だ。この問題に詳しいらしい中京大学のセンセーが、意図的なのか無知なのかは知らないが前提の数字を間違えている。

出典:学生支援機構がサラ金よりも悪質か比較してみた - 本山勝寛ブログ: BOYS, BE HUNGRY!~世界を愛する学び録

そして、いわゆるサラ金といわれる消費者金融の利率だが、日本貸金業協会によると平均で利率がおよそ15%。仮に上記に挙げられている例で月10万円を4年間借りた場合(総額480万円)を返済しようとすると、毎月6万円返済しても利息分にしかならず、元本は全く減らない。これが学生支援機構の変動利率0.3%程度が継続すると仮定すると、毎月約2万円を20年間で返済が可能となり、利息分は20万円ほどだ。サラ金とどれだけ違う、ありがたい制度か分かる。

出典:学生支援機構がサラ金よりも悪質か比較してみた - 本山勝寛ブログ: BOYS, BE HUNGRY!~世界を愛する学び録

ちなみに、「サラ金より悪質」と豪語されるセンセーが教鞭をとる聖学院大学では、みずほ銀行の教育ローンが紹介されているが、変動で3.375.%、固定で4.80%だ。一般の教育ローンと比較しても、学生支援機構の有利子奨学金はかなり待遇がよいことが分かる。それでも、サラ金のほうが良質ということであれば、ぜひ聖学院大学の教え子に奨めていただくのがよいだろう。

出典:学生支援機構がサラ金よりも悪質か比較してみた - 本山勝寛ブログ: BOYS, BE HUNGRY!~世界を愛する学び録

どちらも元ブログの記事はそこまで拡散してないのですが、両記事ともニュースサイト『BLOGOS』に寄稿されているため、そこから拡散してさまざまな意見が飛び交っています。

それでも前述の記事がスルーされるならべつに言いたい放題言わせておけばいいんですが、支持する人がいたり、この極論に乗っかる人が出てくるから困りものです。

名前を教育ローンに変えることで不要な議論をなくせる

これらの奨学金にまつわる議論で問題点として挙げられるのは、成績優秀者でなくても利息が付くかわりに貸し出しをして貰える『第二種奨学金』です。

「海外では奨学金に利子なんか付かないぞ。これじゃローンじゃないか!」という主張が代表的ですね。なので、とりあえずこちらの第二種奨学金を『日本学生支援機構教育ローン』などといった名前に変えましょう。そうしましょう。

前述の「奨学金はサラ金より悪質だ」だと言うような輩に、「教育ローンではない」と訴えたところで話を聞いてくれるわけがありません。彼らはああやって大げさに騒ぐのが商売なわけです。

だったら、槍玉にあげられている名前を変更しましょう。それで問題解決のために前進できるのであれば、それにこしたことはありません。

ローンの名前で不要な借金をする人が減る?

もちろん、ただうるさいから名前を変えようというわけではありません。

「借りるのは奨学金ではなく、教育ローンなんだ」と学生側が認識してくれることで、不要な借金を背負わずにすむ学生もつくれます。

正直、メディアで取り上げられた苦しんでいる学生のなかには、奨学金を借りてアニメ専門学校に通ったとか、なぜか在学中に奨学金の返済が存在して除籍されそうになった学生だとか、端から見ていても借りない方が良かったのではないかと思う人がチラホラいます。

これはひどい言い方なんで誰も表立っては言わないんでしょうけど、彼ら、進学する必要なかったんじゃないでしょうか。

必要もないのに大学に行き、借金をしたために首が回らなくなっている。だったら、始めから高卒で働いてた方が、今よりマシな生活を送れた可能性が高いです。

もちろん、これは結果論です。もしかしたら大学に行って大成功できたかもしれない。だからみんな「キミは大学に行かない方がいい」などと口に出さないわけですが、誰も口に出せないのであれば名前で判断して貰えばいい。

「ローンしてまで……」と進学を諦めるのであれば、それはその人が選んだ結果です。その後の人生で奨学金の制度を恨むこともなく、ただ自分の勉学の結果そうなってしまったことを受け入れられます。

学びの機会がすべての子供に平等に与えられるのは理想ですが、現実と理想は違います。であれば、まずは奨学金の名前を現実に沿ったものにしましょう。理想の日がきたなら、そのときはほかの名前になっていることでしょう。

ITジャーナリスト/炎上解説やデマ訂正が専門

1983年生まれ。福岡県在住。2007年よりフリーランスのライターとして活動中。スマホ、ネットの話題や炎上などが専門。ファクトチェック団体『インファクト』編集員としてデマの検証も行っています。最近はYouTubeでの活動も。執筆や取材の依頼は digimaganet@gmail.com まで

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