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神田沙也加さんの死をめぐる『週刊文春』報道のさらなる波紋

篠田博之月刊『創』編集長
(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

松田聖子さんはいまだに「外出もできない状態」

 松田聖子さんの娘、神田沙也加さんの死をめぐる報道について書いた2021年12月26日の記事は大きな反響を呼んだが、その後の経過を書いておこう。状況は何となく、より深刻になっているような気がするからだ。ちなみに前回の記事とは下記である。

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20211226-00274455

神田沙也加さんの死と『週刊文春』自殺報道の衝撃

 今のところ、この件についての報道は、『週刊文春』が他を圧倒している。故人に近い関係者の情報提供を受けているからだろう。

 同誌の報道を受けて他の週刊誌も取材を行っているようだ。例えばその影響をめぐって『週刊新潮』1月13日号はこう書いている。

「沙也加が命を絶った要因の一つに、前山が元カノと関係を続けていたことに悩んでいたと『週刊文春』が報じ、ネットを中心に沙也加へ同情を寄せる声と前山へのバッシングが巻き起こった」

 前山と書かれているのは、神田沙也加さんが主演を務める予定だったミュージカルで共演していた前山剛久さんだ。『週刊文春』の内容が文春オンラインで配信された途端に訪れた芸能マスコミの取材に対して本人は、沙也加さんとの交際の事実を認めるコメントを出していた。

 暮れの紅白歌合戦に松田聖子さんが出場するかどうかについては、12月24日付日刊スポーツが「聖子紅白出場へ」と報じたように当初、本人は出場の意向だったようなのだが、結局出場を辞退。そのことも含めて聖子さんは年明けも心労を抱えたままだと『女性セブン』1月20・27日号が報じている。見出しは「松田聖子慟哭『私のせいで』沙也加さんの遺骨から離れられない」。匿名の知人のコメントはこうだ。

「ひとりで外出もできない状態です。話している最中にふいに涙を流したり、立っていることができず、その場にうずくまってしまうこともあるそうです」

『週刊文春』が第2弾として会話内容を公開

 そんな中で『週刊文春』1月13日号は、第2弾として「神田沙也加 恋人の罵倒音声」という記事を掲載した。さらに衝撃の内容で波紋が拡大している。

 神田沙也加さんは主演を務める予定だったミュージカルの舞台初日の未明に亡くなったのだが、『週刊文春』によると、そこで共演予定だった男性俳優の前山剛久さんと交際していた。都内で同居するマンションの契約も予定されていたのだが、それが突然白紙になった。男性が以前交際していた女性に送ったLINEを神田さんが知るなどしてもめごとになっていたらしい。

 今回、同誌が音声を入手したとして公開したのは、そうしたなかでの二人のやりとりで、男性が「なんで俺のこと信じないの、そうやって! おい!」などと激高し、「死ね」などと罵倒する内容だ。しかも双方のやりとりが詳細に紹介されている。前山さんはよほど激高していたようで「死ね」という言葉を4回繰り返す。

『週刊文春』1月13日号(筆者撮影)
『週刊文春』1月13日号(筆者撮影)

 沙也加さんに同情している人からすればとても耐えられないやりとりだ。

 彼女の死後、前山さんも心労のあまり仕事を続けられる状態ではないというが、今回の『週刊文春』報道で、さらにバッシングの声が高まったのは間違いないだろう。

2号にわたる報道にSNSで炎上収まらず

 『AERAdot.』が1月6日付で「前山剛久が芸能活動休止を発表 SNSで炎上が収まらず『芸能界復帰』を危ぶむ声も」と報じている。記事の最後はテレビ関係者のこういうコメントで締められている。

 「沙也加さんが亡くなったことに深い悲しみを感じるのは共感できますが、SNS上で誹謗中傷する理由にはならない。暴言を浴びせている人たちは一度冷静になった方がいいと思います」

https://dot.asahi.com/dot/2022010600028.html

前山さんに対する私的制裁が吹き荒れるこの状況は別な意味で深刻な状況で、彼を精神的に追い詰めているのは確かだろう。2号続いた『週刊文春』の報道には、沙也加さんの死を悲しむと同時に、前山さんを許せないと指弾する意思が感じられる。

 記事で匿名コメントをしているのは「相談を受けていた沙也加の親友」と書かれているが、二人の会話を録音していたのは間違いなく沙也加さん本人だろうし、それを第三者に託していたわけで、このあたりの当事者間の対応はある意味で壮絶だ。

 そうした経緯については、もしかすると前山さんにも言い分はあるかもしれない。だが、本人はとてもマスコミ取材に応じて何かを語る心境ではないだろう。

 前回の記事にも書いたが、人間が自殺する時の心情や動機はそう単純でない。『週刊文春』の第1弾の記事にも、幾つかの要因が書かれているが、前出『女性セブン』でも、ミュージカルに生きがいを見出そうとしていた沙也加さんに喉の病気が見つかったことも追い打ちをかけたのではと指摘している。芸能関係者が匿名でこう語っている。

「喉の病気です。信頼する人の裏切りと病気で追い込まれた彼女は、ここ数カ月心療内科に通い、薬を服用していましたが、札幌を訪れる際に薬を自宅に置き忘れて、パニックになったともいわれています」

こういう事態での報道はどうあるべきなのか

 さて、もともと神田沙也加さんの死について記事を書こうと思ったのは、神田さんが亡くなった翌日の12月19日に厚労省が報道自粛を呼びかけ、その後所属事務所と両親が「そっとしておいてほしい」とコメントしたため、新聞・テレビは事故死とも自殺とも報じず、そのくせニュースの最後に「いのちの電話」などの連絡先が表示されるという、とても奇妙な報道が展開されたからだった。しかもテレビではほぼ全てのニュースがそのパターンを踏襲したために、見ていて異様としか感じなかった。

 こういう事柄をどう報道するかというのはとても難しい事柄だ。『週刊文春』もそのあたりを認識しないはずはないから、考えたうえで、情報提供者の思いも含めてある種のキャンペーンを展開していると考えるべきなのだろう。

 ただ、その『週刊文春』報道がもたらしている前山さんの制裁といった気運をどう考えるかを含めて、こういうケースでの報道はどうあるべきか、難しい問題だし、もっと報道する側での議論が必要だと思う。

 そう指摘したうえで、同じ文藝春秋発行の月刊『文藝春秋』2月号の演出家・宮本亜門さんの「神田沙也加『瞳のかがやき』」についても少し紹介しておこう。

 宮本さんは初期段階でもコメントしていたから、それを見た同誌編集部がインタビューを依頼したのだろう。宮本さん本人が最後の方で依頼を受けてためらったことも指摘している。 

 今回の沙也加さんの死が社会全体に大きな衝撃を与えたのは、松田聖子さんと彼女の関係を一定年齢以上の世代はずっと見守ってきたという背景があるからだろう。沙也加さんに接してきた宮本さんだからこそのこういう指摘には深いものを感じる。一部引用しておこう。

《「あなたはあなたのままでいいんだ」

 稽古を通して、沙也加さんにはこの言葉を何度も伝えました。「松田聖子の娘」という運命を背負いすぎているように見えたからです。》

 聖子さんはじめ遺族や関係者に少しでも早く平穏な日々が訪れることを祈りたい。

篠田博之(月刊『創』編集長)

http://www.tsukuru.co.jp/

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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