2021年1月7日発売の月刊『創』(つくる)2月号は恒例の出版界の特集だ。この1年間、出版界を席巻したのは『鬼滅の刃』の爆発的ヒットとコロナ禍だった。コロナ禍について言えば、昨年4~5月には業界全体に大きな打撃をもたらしたものの、都市部の書店に比べて郊外の書店はむしろ売れ行きが伸びたとか、子どもたちの自宅学習が増えたために児童書の売れ行きがかなり伸びたなどと、影響の仕方は一様でない。

 ここでは一気に進んだ出版界のデジタル化について取り上げよう。テレビ界もコロナ禍の中で動画配信事業が加速するなど大きな変化に見舞われたのだが、出版界も同様の変化が起きている。

 紙媒体が長期低落を避けられない状況にあることは、12月発売号を最後に光文社の『JJ』が紙の月刊誌としては終焉した事例でも読み取れる。かつて一世を風靡したこの雑誌の休刊は、中高年の女性たちに衝撃を与えたが、そもそもターゲットとした20代女性たちにはそうした感慨はないばかりか、その世代は紙の雑誌そのものから離れつつある。

 正確に言えば『JJ』は月刊誌としては終焉するが、紙とデジタルの連動で新たな展開を模索している。その光文社の話も機会を改めて書こうと思うが、ここではデジタル化のモデルケースとして、最近の文藝春秋の取り組みについて取り上げよう。これがなかなか、すごいのだ。

 『週刊文春』が新たなデジタルサービスを開始することや、新谷学編集局長が『ナンバー』も統括して同誌のデジタル化を進めていることなど、注目すべき動きを文藝春秋は一気に進めている。

 まずはその実態を『創』2月号のレポートから紹介しよう。

好調!『週刊文春』と文春オンライン

 総合週刊誌が軒並み部数を落とし続けている中で、2020年上半期のABC公査部数で『週刊文春』が平均実売部数を伸ばしたことが話題になった。

 週刊文春編集局の新谷学局長に、まずその話から伺った。

「上半期はスクープで完売した号が3本あったことが大きかったです。相澤冬樹さんによる『森友自殺 財務省職員遺書全文公開』(3月26日号)と『黒川弘務検事長は接待賭けマージャン常習犯』(5月28日号)、それと『渡部建「テイクアウト不倫」』(6月18日号)ですね。その反動で下半期は苦戦しましたが、コロナ禍のような社会を揺るがす事態が起きた時には、『週刊文春』で本当のことが知りたいという読者がたくさんいることが実感できたのは大変ありがたいです。

 紙の雑誌の落ち込みをどうやってデジタルで補っていくかが、この数年の課題です。『文春オンライン』の月間PVは出版社系のサイトではトップで、2019年に3億PVを達成して、2020年には4億を突破しました。

『文春オンライン』の渡邉庸三部長、竹田直弘編集長とは、5億PVを当面の目標に掲げており、そのための施策をいろいろ練っています。現時点ではPV獲得はスクープ、特に芸能スクープに負うところが大きいのは事実です」

 最近は過去の記事をアーカイブとして再利用したり、他社のノンフィクション書籍を紹介したりもしているという。

「他社の本の紹介は、その版元にとってはパブリシティになるし、こちらはPVが稼げるとあって、積極的にやっています」(新谷局長)

『ナンバー』も一気にデジタル化を加速

 新谷局長は2020年からナンバー編集局長も兼務している。同誌のデジタル化を一層進めたい会社の意向があるという。それについても聞いてみた。

「私が『ナンバー』の発行人も兼務して最初に出たのが9月3日発売の1010号『藤井聡太と将棋の天才』でした。『ナンバー』が将棋を特集したと話題になりましたが、宇賀康之編集長のもと、編集部、デザイナーが将棋をあくまでスポーツとして捉えて、充実した読物とカッコいいビジュアルで誌面化した成果だと思います。4刷23万部まで行きました。通常は十数万部の発行部数で、23万部はドイツワールドカップ直後の特集以来のことです。この1月には再び将棋特集を出します。将棋をアスリートとして捉えたことは藤井さんら棋士の皆さんにも歓迎されたようです。

 私がこの成功で感じたのは、『ナンバー』のブランドを生かしたビジネス展開には大きな可能性があるということでした。私の局長としてのミッションの一つは『ナンバーWeb』を伸ばすことですが、急成長した文春オンラインの知見を活かすべく2人異動してもらいました。

『ナンバーWeb』は一時1400万PVまで落ちていたのですが、中村毅編集長の新体制となった9月には2000万PV、10月に3000万、11月には4000万、そして12月には5000万PVに迫る勢いです。こんなふうに右肩上がりで伸びていくと運用広告の収入も増えるし、注目度も上がるので、タイアップ広告も増えていきます。

 以前は『ナンバーWeb』の記事がヤフーニュースに転載された場合、コメント欄をつけていませんでした。炎上するのを避けたのでしょうが、意見を読んだり書いたりすることで読者が盛り上がり、大きな数字につながると考え、コメント欄をつけるようにしました。

 また『文春オンライン』と同様に毎週PV会議を行うことにしました。ウェブ上の読者の流れを分析のプロと検証し、PVを伸ばすための会議です。

 今後は他社のスポーツノンフィクションやマンガを紹介するなど、さらなるプラットフォーム化を進めます。スポーツ関係のクライアントとのタイアップにもさらに力を入れたいと思っています」(同)

前日に特集記事が読める「週刊文春電子版」

「文春オンライン」についても新たな施策を行うという。

「1月中旬を目処に『週刊文春電子版』を立ち上げ、『週刊文春』発売前日の夕方4時に特集記事全部を読めるようにします。このプランは『週刊文春』の加藤晃彦編集長が主導で進めています」(同)

『週刊文春』の場合、最近は発売日前々日に速報を流すというケースも見られるようになった。

「『週刊文春』のスクープ速報は発売前日の夕方4時に4~5本の記事を出しているのですが、それ以外にも号外のような形で速報を出すことがあります。

 スクープ速報の多くは記事のばら売りに導線がつながっています。例えば渡部さんのスクープ速報は、前日の午前10時半と4時に2本出しました。これが8000万PV以上読まれ、大雑把に言うと2400万円くらいの収益になります。

 4時以降は記事そのものを330円でばら売りを行ったのですが、渡部さんの記事3本で4万4000本読まれて、1450万円。さらにテレビのワイドショーが記事を放送した際の使用料が数百万円。この号は電子雑誌でも1万1000部売れ、まさに1ソースマルチユースのビジネスになったと思います。

 読む方も情報にお金を払うことへの抵抗感がだいぶ少なくなってきたように思います。スクープを武器に稼ぐことはできるという手応えがあります。特に『文春オンライン』が4億PVを超えたことが大きい。広告収入に配信料を含めると月の収益は1億円を超えています」(同)

月刊『文藝春秋』と「文藝春秋digital」

 デジタル絡みの施策を今後も文藝春秋はいろいろ行っていくわけだが、12月10日に同社はひとつの発表を行った。noteと新たな資本業務提携に踏み出すという決定だ。

 実は2019年11月に文藝春秋は、noteを利用して「文藝春秋digital」という月刊『文藝春秋』の課金モデルのデジタルサービスを開始した。その提携を深めようというのが今回の決定だ。飯窪成幸専務に話を聞いた。

「noteと1年間やってきて、彼らのデジタルへの知見と力を貸してもらうためにさらに人材交流を進めたいと考えました。例えば村上春樹さんの作品に対する感想文募集とか、幾つか試みをやってきて、文芸の書籍についてもnoteとの相性がいい、文芸の現場からも連携を深めたいという声が届いていました」

 月刊『文藝春秋』のデジタルサービスだけでなく、今後は文芸部門も含めた様々な施策を行っていくというのだ。

 文藝春秋では月刊『文藝春秋』を「本誌」と呼んでいることからもわかるように、同誌は今でも同社の柱と言える。かつては国民雑誌などとも言われた大部数の雑誌だったのだが、コロナ禍の中で現況はどうなのか。

「コロナ禍で月刊『文藝春秋』は好調で、2月以降、実売部数は前年比5%を上回る伸びを示しました」(飯窪専務)

 巣ごもり状態の中で文芸書などを読む人が増えたと言われるが、厚手で読み応えのある月刊『文藝春秋』にも同様の傾向が見られたわけだ。

 文藝春秋では2019年9月にコミックへの取り組みを本格化させるためにコミック編集部を新設した。

「以前からコミックエッセイなどは手がけてきたのですが、デジタル化と同時に紙でもコミック作品を展開しようという取り組みです。

 棋士の先崎学さんの『うつ病九段』はまず、単行本が出て、それをコミカライズしたものを文春オンラインで連載し、電子版、紙版を出しました。山崎豊子さん原作の『大地の子』のコミックは文藝春秋digitalで連載しています」(同)

デジタル戦略事業局の様々な取り組み

 文藝春秋のデジタル部門全体と、女性誌『クレア』については、担当の石井潤一郎常務に話を聞いた。

「現在、弊社のデジタル部門は、文春オンラインやナンバーWebをはじめとして、計8つの部門があるのですが、そのすべてにデジタル戦略事業局がかかわる形になっています。

 そもそもデジタル戦略事業局とは何ぞや?とお思いでしょうから、簡単にご説明しましょう。この局は、電子書籍編集部、デジタル・デザイン部、そしてWebプロデュース室の3つの部署に分かれており、それぞれ次のような仕事をしています。

 まず、電子書籍編集部は、社全体の電子書籍の製作はもとより著者との交渉、契約書の管理などを担当する部署ですが、そのほかにもオリジナル・コンテンツやオーディオブックの製作等も行っています。ちなみに、2020年の電子書籍の売り上げは大幅に伸びました。コロナ禍のいわゆる巣ごもり需要によって、電子書籍ユーザーの裾野はあきらかに広がったようですね。それから特筆すべきなのは、1年間のダウンロード数ランキングベスト100のうち、『裸一貫! つづ井さん』(つづ井・著)をはじめとするコミック作品が10作品もランクインしたこと。社全体で、これまで以上にコミック、デジタルコミックに注力していこうとしているところです。

 次に、デジタル・デザイン部ですが、こちらにはウェブ・ディレクター、ウェブ・デザイナー、プログラマーなどデジタル技術系の人たちが所属しており、各編集部と協同して作業をしています。文春オンラインやナンバーWeb、クレアWEBなどの編集部にはコンテンツを作る編集者の傍に必ず彼ら彼女らが常駐していて、PVのみならず、どうしたらより効果的なウェブ展開を図れるのか、日夜頭と手を動かしているわけです。さらにいえば、それぞれのウェブ編集部を横串で貫いて知見を共有するハブ的な役割も担ってくれています。

 3つ目のWebプロデュース室は2020年9月に新設されたばかりですが、社全体のウェブビジネスについてまさに社内コンサル的役割を担う部署です。文春オンラインの有料課金について、あるいはナンバーWebやクレアWEBの収益向上施策について等々、デジタル周りのお金にまつわることには多角的になんでも関わってもらいますが、直近の課題は、ひとことで言ってしまえば、ウェブ広告をどうやって増やしていくか、でしょうね。

 文藝春秋のデジタル部門では文春オンラインの存在がたいへん大きいのですが、とはいえ、そこだけで全てできるわけではなく、今後、ますます各デジタル部署間の横のつながりが大切になってきます。デジタル戦略事業局がそれらをつなぐ、ある意味で司令塔的な役割を果たしていければと考えています」

 文藝春秋全体のデジタル部門の売り上げはどうなっているのだろうか。

「2020年上半期のデジタル部門の売り上げは過去最高で、前期比で約25%増となっています。また、社の売り上げ全体に占めるデジタル部門の比率も今期、13%弱まで急伸しました」(石井常務)

女性誌『クレア』もデジタルシフトへ

 女性誌『クレア』についても石井常務に聞いた。

「クレア局については2020年9月に抜本的な変更を行いました。これまでは女性誌『クレア』のほかに、旅の季刊誌『クレア・トラベラー』、ウェブサイトの『クレアWEB』というクレア系の3つの編集部と、単行本を手がけるライフスタイル出版部という4つの部門に分かれ、それぞれに編集長、部長がいました。今回、クレア系3媒体の編集部を統合し、ひとりの編集長が雑誌とウェブを見る体制に変えました。同時に、『クレア』を2021年春に月刊から年4回刊に変える予定で、編集部の人員配置も見直しました。ウェブの人員を拡充して、デジタルシフトを加速します。クレアWEBは現在のPVは1000万弱ですが、これをまずは1500万まで持っていきたい。

 ただその一方で、雑誌の『クレア』『クレア・トラベラー』もまた、将来的にもブランド力を維持するための大切なメディアであることは間違いありません。デジタルにシフトしつつ、あくまで紙とウェブの両輪でクレアを盛り上げていきたいと考えています」

 以上、文藝春秋の全社挙げてのデジタル化への取り組みについて紹介した。『創』2月号のレポートには、そのほか同社の紙の単行本の状況や、コミックへの取り組みについても詳しい報告がなされているが、ここでは割愛した。同社の現状については、ぜひ『創』の原文をご覧いただきたい。

 デジタル分野を含め、文藝春秋は新たな施策に意欲的に取り組む意向のようだ。そのほか『創』の特集ではデジタル化についても小学館や光文社の取り組など様々な事例を報告しているが、『JJ』と光文社の取り組みについては、近々、別に記事をアップしようと思う。

『創』出版特集号内容は下記をご覧いただきたい。

http://www.tsukuru.co.jp/