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『モーニングショー』vs『スッキリ』朝の情報番組の熾烈な闘いの行方

篠田博之月刊『創』編集長
『羽鳥慎一モーニングショー』C:テレビ朝日

『モーニングショー』に『スッキリ』が肉薄

 朝の情報番組でテレビ朝日の『羽鳥慎一モーニングショー』と日本テレビ『スッキリ』が激しい首位争いを展開している。2019年まではトップの『モーニングショー』が2位以下に水をあけていたのだが、この1~2年、『スッキリ』が、ターゲットを若い視聴者にシフトさせるなどの戦略で急伸長しているのだ。

 フジテレビ『とくダネ!』、TBS『グッとラック!』を含めた朝8時台の情報番組戦争について検証してみよう。これは発売中の月刊『創』(つくる)1月号「テレビ局の徹底研究」の各局のレポートから、朝の情報番組の部分を抜き出して比較検証するものだ。

 その話の前に、少し説明しておくと、2020年春以降、ビデオリサーチの視聴率データは、これまでの世帯視聴率から個人視聴率に指標を変えた。それは歴史の流れに従ったもので悪くないのだが、それを機に、日本テレビは13~49歳をコアターゲットと呼んで、その層を中心に視聴率を考えるようになった。TBSは13~59歳をファミリーコアと呼んで、同様の重点政策をとっているのだが、要するに各局で視聴率を語る際のものさしが微妙に異なるようになったわけだ。

 だから朝の情報番組戦争について語る時に、日本テレビは「『スッキリ』はコアターゲットをとれば同時間帯トップです」と言ったりするからややこしい。オールと業界で呼んでいる「個人視聴率全体」という、高齢層まで含めた数字を採用するのがテレビ朝日なのだが、今や各局の比較をする時には、局ごとの物差しの違いを頭に入れてやらねばならない。

 さて、そのうえで、テレビ朝日『モーニングショー』について見ていこう。『創』1月号から引用する。

『モーニングショー』コロナ報道に「危機あおり」と批判も

『羽鳥慎一モーニングショー』は、パネルを使ったわかりやすい番組作りが功を奏して好調で、テレビ朝日全体の視聴率を押し上げるのに寄与している。

 現在は『モーニングショー』が個人視聴率で5%台前半、『スッキリ』が4%前後、『とくダネ!』が3%台。テレビ朝日は早朝の『グッド!モーニング』も好調で、『じゅん散歩』『ワイドスクランブル』と朝から昼へのタテの流れが整っている。

『モーニングショー』は4~5月にコロナ禍について連日大きな時間をさいて話題になった。〝コロナの女王”こと白鴎大の岡田晴恵教授と局員で番組コメンテーターの玉川徹さんが政府の対応の遅れを激しく批判するやりとりは、賛否含めて話題になった。小林よしのりさんや『週刊新潮』はこの番組を、危機あおりが行き過ぎていると名指しで批判した。

 そのあたりの取り組みなどを含めて、『羽鳥慎一モーニングショー』前プロデューサーの小寺敦情報番組センター長に話を聞いた。

「確かに4~5月頃は、同時間帯の他局に比べて『モーニングショー』がコロナを扱った時間は長かったと思います。政府の対応が後手後手に回っていたし、命に関わる未曽有の事態ですから意識的に取り組みました。検査が大事だという論調が目立ったと思います。

 視聴率も4月頃から世帯視聴率で12~13%と上がっていたのですが、ゴールデンウイーク期間中の5月4日は、個人視聴率7・4%、世帯視聴率14・1%と、大変高い数字を示しました。『スッキリ』が、若い層をうまくつかんで急伸長していますが、コロナ禍のテーマでは『モーニングショー』は健闘したと思います。

 番組の方向性に対して批判もありましたが、私たちとしてはむしろ、異なる意見の人もなるべく呼んで意見をぶつけあうのがよいと思っていたのです。ただ検査を拡充させるべきという意見は、政府も含めてそこに収斂していったと思います。視聴者センターに届いた電話などは、よく取り組んでいるという激励の方が多かったですね」

 その後、7月頃からはコロナ禍だけでなくアメリカ大統領選や日本学術会議任命拒否問題を取り上げるようになった。ニュースを正面からきちんと取り上げようというのが同番組の基本方針だ。

「大統領選の開票の日は、午後から夕方へと生番組をつなげて放送しました」(小寺センター長)

 朝8時のスタート時には朝ドラという人気番組があるNHKが断然強いのだが、8時15分を過ぎてからは、その視聴者が他局に分散していく。8時20分ほどになると『モーニングショー』がNHKの『朝イチ』の視聴率を抜くこともあるという。他局の番組は9時台になると視聴率が下がっていくのだが、『モーニングショー』は9時台になっても前半のニュースを長い時間をさいて取り上げているのが特徴だ。

『グッド!モーニング』も最近はニュースに特化した番組づくりになっており、ニュースをきちんと取り上げていこうという方針は、情報番組全体に共通のようだ。ただ一方で、『モーニングショー』は、若い視聴者層も取り込んでいかなければいけないという考えも持っているという。またSNSで話題になっているようなことも取り上げていこうと考えており、最近はLINEで募集した声を番組最後に紹介してコメントするという試みも行っている。

『スッキリ』急伸長の背景は

 8時台の『スッキリ』がこのところ大健闘していることが業界で話題になっている。これは日本テレビのコアターゲット戦略に基づくもので、早朝の『ZIP!』から若い視聴者を意識した作りでタテの流れを強くしていると言われる。

 『創』1月号で田中宏史編成部長がこう語っている。

「僕らはリブランディングと呼んでいるのですが、番組を入れ替えるのでなく続けながら進化していく。それが『ZIP!』『スッキリ』でうまく行っているということだと思います。『ZIP!』はフジテレビさんの『めざましテレビ』に肉薄して、トップになる曜日もあり、『スッキリ』もコアターゲットをとれば同時間帯トップで支持して頂いてます。

『スッキリ』について言うと、グローバル・ガールズグループ『NiziU』のドキュメンタリーを番組で取り上げてきた事が、『NiziU』の大ブレイクにもつながっている可能性は大きいと思っており、番組独自の目の付けどころが素晴らしいと思います。元々『NiziU』はHuluで早くから取り上げていたのですが、それを『スッキリ』は番組で何度も特集していきました。それによって若い視聴者層の支持を拡大することにもつながっているのではと考えております」

テレビ朝日『グッド!モーニング』と『モーニングショー』の違い

 話を再びテレビ朝日に戻そう。テレビ朝日もタテの流れを作ることにはかなり意識的で、実は小寺センター長は両方の番組のプロデューサー経験を持っている。同じ『創』テレビ特集の1年前の記事で彼はこう語っていた。 

 「私は朝の情報番組を二度立ち上げているんです。もともとこの時間帯は『モーニングバード!』という名称で2011年4月に始まり、2015年9月28日に『モーニングショー』に変わるのです。それまでは赤江珠緒さんと2人でメインキャスターをしていたのですが、その時から羽鳥さんが前面に出ることになった。以前のVTR中心でリポートする形を改め、スタジオで討論し考えるというスタイルにしたのです。その時、羽鳥さんがパネルを使って説明するというのが良いんじゃないか、となって今のスタイルに変えたのです。相当勉強しないといけないし、準備が本当に大変なんです」

 でもその前に、その前の早朝の『グッド!モーニング』をチーフプロデューサーとして立ち上げました。この番組は2013年にスタートするのですが、私は『報道ステーション』からその前身である『やじうまテレビ』に異動し、それを『グッド!モーニング』に変えたのです」

『グッド!モーニング』と『モーニングショー』は、実は視聴者の生理が違います。『グッド!モーニング』は出勤前のサラリーマンが多いので、細かいニュースが見たいんですね。1本のニュースを短い時間で数多く取り上げていくんです。

 それに対して『モーニングショー』は、夫を送りだした後に妻が見ているとかなので、もう少しニュースを深掘りして見たいという時間なんですね。パネルをめくりながら羽鳥さんを中心に問題を掘り下げていくのですが、玉川徹のようにそれを無視して先に行ってしまう出演者もいます(笑)。

 今は羽鳥さんとゲスト出演者がスタジオで丁々発止渡りあうという番組にしたので、ネタの選び方も変わってきました。昔はいうなれば発生主義で、何か事件が発生したらそれを追いかけるというやり方でしたが、今はむしろ身近にあるけれど議論を呼ぶような、そういうネタをあげようということになっています」

 その議論の中で、敢えて異論を提示したり、そもそも論を提起するというのが、玉川さんが心がけている役割のようなのだが、それゆえにネットで物議をかもすことも多い。そもそもテレビ朝日の社員であり、『モーニングショー』にはスタッフとして出ているのだが、他の番組にはない独特のポジションを占めていると言えるかもしれない。

「玉川は元々、『スーパーモーニング』の頃から、『ちょっと待った総研』という独自のコーナーを持っていたのですが、今も『そもそも総研』というコーナーを毎週木曜日にやっています。

 このコーナーは、私たちも内容は確認しますが、基本的に玉川の興味あるものを取り上げます。玉川はスタッフだけれど毎日出る出演者だし、スタジオでのコメントも時には打ち合わせしていたのと違う話になってしまうこともあります。このところ発言がネットで話題になることも多いので、かなり独特の立ち位置ですね」

フジテレビは午後帯とともに『とくダネ!』強化も課題 

 フジテレビは周知のように2020年10月改編で、昼のバラエティ番組『バイキング』を情報番組に変えて、その後に放送していた『直撃LIVEグッデイ!』を飲み込んでしまうという大改革を行った。それゆえ今は午後の情報番組を軌道に乗せることが第一の課題だが、同時に朝の『とくダネ!』強化も課題と言える。

 『創』1月号ではニュース総局情報制作局情報制作センターの濱潤室長に話を聞いている。実は、濱室長は1年前は朝の情報番組『とくダネ!』をリニューアルして強化するというのが大きな仕事だった。日本テレビの『スッキリ』が好調で、『とくダネ!』が抜かれてしまったのを何とか挽回したいという狙いだった。

 ニュース中心のテレビ朝日と、若者を意識したエンターテイメントの要素を入れた日本テレビとフジテレビ。朝の情報番組はそうした棲み分けができているように見えるのだが、その中でフジテレビはそのあたりの戦略をどう考え、『とくダネ!』の方向性をどうしようとしているのだろうか。

「これからの情報番組は若い人たちにどう見てもらうかが大事な課題なのですが、その一方で今起きているニュース価値のあることをどう伝えていくかというのも重要なことです。若い人にニュースをどう伝えるかという、そこのところを各局ともどうしたらよいか考えているわけですね。これはテレビ局全体に課せられたテーマだと思うのですが、特にフジテレビの場合、『めざまし』から『とくダネ!』へのタテの流れは重要ですから、そこを意識しないといけないと思っています」

 もともと『とくダネ!』は、以前ワイドショーと言われていた朝の情報番組を、政治や経済のニュースを重視するあり方に変え、情報番組に革命を起こしたと言われてきた。その『とくダネ!』を今後どういう方向にしていくのか。午後帯の『バイキング』もバラエティから情報番組へという大変身を遂げたこともあり、今後情報番組のタテの流れをどうしていくのか。フジテレビは、大きな課題に直面していると言えるかもしれない。

TBSが悪戦苦闘する『あさチャン!』と『グッとラック!』

 さて大きな課題と言えば、TBSにとっては朝の情報番組の強化だろう。『あさチャン!』から『グッとラック!』という2つの番組が他局に水をあけられており、ここ何年かの懸案事項になっている。『創』1月号では、編成局の福士洋通編成部長に話を聞いている。

「秋改編で大きくリニューアルしたのは朝8時からの『グッとラック!』です。MCは立川志らくさんと国山ハセンアナウンサーですが、新たにメインコメンテーターとしてロンドンブーツ1号2号の田村淳さん、曜日コメンテーターとして橋下徹さん、3時のヒロインさん、フワちゃんにも加わっていただき、スタジオでの議論の活性化を図りました。そのほかにも東大卒クイズ王の伊沢拓司さんのクイズコーナーや、F2層を意識してギャル曽根さんのグルメ企画を入れるなど内容を大幅にリニューアルしています。同時に『グッとラック!』の放送時間を短縮し、9時55分から『レッツ!美バディ』というフィットネス番組を編成しました。

『あさチャン!』についても、ニュース・情報の充実、明るくさわやかな雰囲気づくりという2つのポイントで内容をリニューアルしました。日比麻音子アナウンサーをレギュラーに起用してMCの夏目三久さんと掛け合いをしてもらう、お天気コーナーに新人の野村沙也子アナウンサーを抜擢したほか、ナレーターに人気声優を起用し、BGMやCGも変えました。またクイズコーナーも立ち上げました」

 そうしたリニューアルの成果が現れるのは先になりそうだが、朝の情報番組の強化は、タテの流れを良くして、その後の番組に視聴者をつなげるという意味で大きな課題といえる。

「継続率というのですが、朝の番組でチャンネルがあうと、そのままその日の後の番組も見てもらえるので、朝の強化は大事なんです。最近は昔ほどザッピングして同時間帯のいろいろな番組を見比べるという習慣がなくなってきている印象があります。娯楽の選択肢が増えたため、コンテンツに魅力がないとあっという間に視聴者がネットの動画配信などへ離れていってしまう」

 ちなみに10時25分から3時間半の情報番組『ひるおび!』は、個人全体視聴率は好調だが、ファミリーコア視聴率では日本テレビの『ヒルナンデス』に水をあけられている。

 帯番組の視聴率は大事だし、朝の番組は1日のタテの流れの出発点だから、TBSにとっては朝の情報番組の強化は大変大きな課題だ。

 一方でネットという新たなライバルに背後から迫られているテレビ局だが、朝の情報戦争は今後、どうなるのだろうか。

 なお『創』1月号テレビ特集から下記記事もヤフーニュースで紹介しているのでご覧いただきたい。

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20201224-00214296/

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月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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