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実は『愛の不時着』だけじゃない。「アジアの龍」スタジオドラゴンとは?

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
写真=tvN『愛の不時着』公式サイトより

Netflixで配信中の韓国ドラマ『愛の不時着』の人気がなかなか冷めやらない。これまで韓流とは無縁かと思われた中高年の男性が『愛の不時着』に続々とハマり、笑福亭鶴瓶やテリー伊藤といった芸能人までも虜になったというから驚きだ。

最近は『愛の不時着』に関する話題ばかりではなく、ヒョンビンやソン・イェジンなど主演カップルの経歴や過去作品、過去の熱愛報道なども掘り出されて各種メディアで連日にように報道されるようにもなった。

(参考記事:『愛の不時着』のエリート将校ヒョンビン、“熱愛の軌跡”も男前だった!)

そうしたキャスト中心の話題も良いが、個人的に注目したいのは『愛の不時着』をはじめとする最近の人気作の多くが、とあるドラマ制作会社によって作られているということだ。

その名は「スタジオドラゴン」(STUDIO DRAGON)という。

スタジオドラゴンの名は知らなくとも、同社がこれまで世に送り出したドラマのタイトルを聞けば、その実力の高さに納得するはずだ。

日本でもリメイクされた『ミセン-未生-』や『シグナル』をはじめ、『トッケビ』『秘密の森』『私のおじさん』『ミスター・サンシャイン』『キム秘書はいったい、なぜ?』『100日の郎君様』『アルハンブラ宮殿の思い出』『アスダル年代記』『ザ・キング:永遠の君主』(すべて原題)など。韓国ドラマ・ファンなら一度は目にしたことがある作品ばかりだろう。

同社は2016年5月に設立された歴史の浅い会社だが、実は韓国の大手企業CJグループの子会社「CJ ENM」のドラマ事業部門が物的分割された、CJ ENMの子会社でもある。

CJ ENMは現在、オーディション番組『PRODUCE』シリーズで知られる「Mnet」や、『名探偵コナン』を放映する「Tooniverse」など、多数のケーブルチャンネルを運営しているが、中でもドラマとバラエティに特化した「tvN」はコンテンツの質と視聴率で地上波を圧倒している。

上記のドラマも、ほとんどが「tvN」で放送された。つまり、tvNとスタジオドラゴンはCJ ENMを母体としながら相互協力関係にあるというわけだ。

莫大な資金力のもと、優れたコンテンツ制作の力量と実績を重ねてきたスタジオドラゴン。2017年11月に韓国KOSDAQ市場に上場し、現在はドラマ制作会社4社を傘下に置く韓国最大手コンテンツ制作会社になっている。

『愛の不時着』を共同制作した「文化倉庫(Culture Depot)」も、スタジオドラゴンの子会社の1つだ。

さらには『愛の不時着』に出演した女優ソ・ジヘ、『宮廷女官チャングムの誓い』の脚本家キム・ヨンヒョン、『愛の不時着』を手掛けた脚本家パク・ジウン、『トッケビ』を演出したイ・ウンボク監督、『トッケビ』の脚本家キム・ウンスクなども、スタジオドラゴンの子会社に籍を置いている。まさしく巨大な龍のもとに“韓国ドラマ界のスター軍団”たちが集まっているといったところだろう。

近年は映画レベルの巨大プロジェクトにも乗り出し、制作費だけで400億ウォン(約40億円)が投じられた『ミスター・サンシャイン』をはじめ、『アルハンブラ宮殿の思い出』『愛の不時着』などを制作・ヒットさせた。

そして2019年11月、CJ ENMとスタジオドラゴンはNetflixとMOUを締結。これまではNetflixに対して単発的に放映権を販売してきたが、この契約によって2020年1月1日から3社共同でコンテンツを制作し、21本以上(年間7本)の作品をNetflixに供給もしくは制作協力することとなった。

2019年12月時点でNetflixはスタジオドラゴンの株の4.99%を保有し、CJ ENM(58.18%)に次ぐ大株主になっている。Netflixが提供する世界最大級のプラットフォームと制作費を考えれば、スタジオドラゴンにとってはこの上無い条件だろう。

龍の形をしたスタジオドラゴンのロゴは「如意宝珠を持つアジアの龍」を意味するという。想像力と創意力をもとに世界に跳躍するアジアの巨龍はどこまで羽ばたくか。少なくとも日本では旋風を引き起こしていることだけは、間違いない。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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