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新型コロナで代表監督やクラブ幹部も「給与を返納」。韓国サッカー界はどうか

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
韓国代表パウロ・ベント監督も給与の一部を返納した(写真:ロイター/アフロ)

新型コロナウイルス感染症の事態を受けて世界各国のリーグ戦がストップしている昨今、何かと取り沙汰されているのが、リーグやクラブの経済危機だ。

欧州5大リーグ(イングランド、スペイン、ドイツ、イタリア、フランス)は打撃も大きく、数百億円の経済的損失が予想されている。残りのシーズンを正常通り開催しても、クラブ運営に支障が出ることは避けられない。

リーグ再開できていないJリーグでも試合ができず収入が激減することは確実で、全クラブ合計で十数億円の減益になるのではないかとされている。そうした状況を受けて、コンサドーレ札幌の選手たちが給与の一部の返納を申し出たというニュースも報じられているが、今のところ韓国ではそういった動きは聞こえてない。

(参考記事:J1札幌の“報酬返納”や欧州の“年俸削減”が、韓国Kリーグで未だ行われていない理由とは?)

昨季Kリーグの年俸総額と平均年俸は?

リーグや一部クラブの「給与削減」はあった。

昨日4月14日に韓国プロサッカー連盟は週間ブリーフィングを開催。Kリーグは最少でも575億ウォン(約57億円)の損失を被ると予想したが、すでに先週の段階で韓国プロサッカー連盟は4月分から、役員は月20%、職員は月10%ずつの給与を返納することを発表しているし、蔚山現代(ウルサン・ヒョンデ)や釜山(プサン)アイパークも新型コロナウイルス感染症に伴う開幕延期によって陥った経営難を解決すべく、クラブ職員の給与を一部返納を発表している。

だが、そもそも決して多くないクラブ職員の給与を削減したところで、得られる効果は大きくないという意見が多く、むしろ削減するならクラブ支出の大多数を占める選手の年俸をカットすべきではないかという意見も出始めている。

参考までにKリーグが昨年12月に公開した2019年度Kリーグ年俸(契約書に記載された基本給と出場給、勝利給、その他手当てなどを含んだ金額)を紹介すると、軍隊チームである尚州尚武を除いたKリーグ1の11クラブ所属選手全体(外国人選手を含む)の年俸総額は、844億2438万ウォン(約84億4243万円)。平均年俸は1億9911万ウォン(約1991万円)だ。2部リーグに相当するKリーグ2の平均年俸は8940万ウォン(約894万円)となる。

この中から10%~20%を削減するだけでもクラブの助けになるのではないかというわけだが、選手たちにも生活がある。

試合がなければ収入も減るKリーグの構造

まして、ただでさえ開幕が延期され試合数が激減している状況だ。

上記の年俸の中には出場給や勝利給も含まれており、Kリーグではプロデビューして間もない選手や年俸が低い選手は、基本給よりも出場給や勝利給といった手当てが実質年俸の大部分を占めているケースが多い。つまり、試合数が減れば、それに応じて彼らの収入も減ってしまうという構造なだけになかなか手を出せない領域だという。

だからこそKリーグ2や若手選手ではない高額年俸者たちが率先して給与返納に名乗りを上げるのが理想的だというのが、最近のメディアの論調だ。

Kリーグのとあるクラブの監督も「年俸の低い選手はともかく、高額年俸選手の一部が譲歩してくれれば、クラブにとって大きな支えとなるはずだ。韓国プロサッカー選手協会の幹部陣には高額年俸のベテランも多いので、彼らのアクションに期待したい」と語る。

ちなみに韓国プロサッカー選手協会の会長を務めているのは、Jリーグのジュビロ磐田やガンバ大阪で活躍し、現在は蔚山現代でプレーするイ・グノだ。

イ・グノは2018年2月に韓国プロサッカー選手協会会長に就任して以降、国際プロサッカー選手協会(FIFpro)への正式加盟、Kリーグ選手たちの肖像権問題、選手会主催の慈善活動などを推し進め、新型コロナウイルス問題に対してもなり細かい要求をKリーグ各クラブに投げかけているなどリーダーシップを発揮しているが、選手会会長としてどんなアクションを起こすか、気になるところである。

韓国代表監督も給与を一部返納

いずれにしてもサッカー界は新型コロナウイルスで経済的問題に直面している。

韓国サッカー協会も先週、チョン・モンギュ会長や専務理事のホン・ミョンボをはじめとする協会役員(室長級以上)が給与20%を返納。韓国代表を率いるポルトガル人指揮官パウロ・ベント監督ら韓国代表コーチングスタッフたちも、年俸の10%を返納している。

それらを集めて作れられる「サッカー共生支援金」で、大会中止で収入減となっている小・中・高校の監督やコーチ、審判たちに支援金が支給される。

Kリーグの各クラブは、親会社(企業クラブ)や地方自治体(市民クラブ)から予算支援を受けて運営されているため現時点で深刻な財政難に陥ってはいないが、親会社や地方自治体からの予算が削減されれば運営は一気に傾き、クラブ存続の危機に直面することも多々あるのがKリーグでもあるだけに、今後も予断を許さないだろう。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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