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「嘘のコロナ感染」騒動ジェジュン、日本以上に厳しい“韓国の批判”

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
ジェジュン(写真:アフロ)

日本で活動する歌手ジェジュンが渦中の人物となっている。きっかけは、エイプリルフールについた1つの“嘘”だった。

ジェジュンは4月1日、フォロワー200万人の自身のインスタグラムで「新型コロナに感染した」と告白した。衝撃の投稿にファンは心配の声を寄せ、韓国メディアはもちろん、日本のNHKまでも速報で報じた。

しかしそれから1時間も経たずして、「警戒心…心に刻んで刻みましょう。エイプリルフールの冗談としては行き過ぎではありますが、短い間にたくさんの人が心配してくれました」などと明かした。

(参考記事:【全文】「冗談にしては悪質すぎる」ジェジュンの“新型コロナ感染”投稿に騒然

つまるところ、新型コロナをエイプリルフールのネタに使ったわけだ。

ジェジュンはその後、肺がんで闘病中の父親がいること、新型コロナウイルスに感染した知人がいることなどから、人々に新型コロナウイルスの事態の深刻さと警戒心を持ってもらいたい一心で、あえて嘘の発信をしたという意図を明らかにしたが、時期が時期だけに“嘘コロナ感染投稿”に多くの批判が殺到することは火を見るよりも明らかだった。

日本ではその余波で、昨日の『ミュージックステーション』や4月5日に出演予定だった『The Covers』などの出演予定が次々とキャンセルされている。

日本のファンたちは「もう少し影響力を考えてほしかった」「そこまでしてまで伝えたかった想いはわかるけど、有名人が発信する言葉としては重い」と叱咤しつつ、ジェジュンの想いにも一定の理解を示しているが、本国・韓国はかなり厳しい。

「エイプリルフールが生んだ怪物」

例えば『スポーツ京郷』の「キム・ジェジュン、今いたずらをするべきなのか」という記事では、「全世界で数万人がコロナで死亡する危機のなかで、影響力の大きい有名人ができる冗談だろうか」と批判し、「否定的な疑問符だけが残った行動」「これがなんのパフォーマンスか」と断じた。

「“コロナ感染の嘘”キム・ジェジュン、謝罪・解明しても非難あふれる」と見出しを打った『イルガンスポーツ』も、「度を超えた行動」とし、「コロナのパンデミックで医療陣、行政業務担当者たちがみな疲れているなかで、キム・ジェジュンの軽率な行動に共感が持てるわけがない」と眉をひそめた。

また『スポーツソウル』は、米メディア『ニューヨーク・タイムズ』が「K-POPスターの新型コロナに関連するエイプリルフールのジョークに、ファンは誰も笑わなかった」と報じたことに注目し、「韓流スターの名にも泥を塗ることとなった」と他のK-POPアーティストへの影響について触れた。

他にも「キム・ジェジュン、コロナの嘘…エイプリルフールが生んだ怪物」(『スポーツ東亜』)といった記事もあり、擁護や彼の立場を代弁するメディアは皆無なのだ。

それだけではない。

韓国では現在、ジェジュンを批判するだけではなく、彼を法的に処罰できるかどうかという厳しい目が向けられている。

争点は「法的に処罰されるかどうか」に

きっかけは、韓国大統領府ホームページに設置された国民請願だ。

国民請願とは、韓国国民がオンラインで韓国政府に希望を申し出ることができるサービスのこと。1件の請願に対して30日間に20万人以上の署名が集まった場合、長官や首席秘書官を含む政府関係者が正式に回答を示すことになっている。

そこに上がった「芸能人キム××氏の行き過ぎたエイプリルフールのいたずらを処罰してください」という国民請願には、4月3日15時現在で1万3000人を超える署名が集まってしまった。

騒動の大きさから、韓国の保健当局がジェジュンの処罰について立場を伝えるまでに至っている。

中央事故収拾本部ユン・テホ防疫総括班長は4月2日、定例ブリーフィングで、ジェジュンについて「疫学調査中や診療時の医療スタッフ、疫学調査官に虚偽の情報を提供した場合は、感染病予防法に基づいて処罰されることもあるが、この場合は、2つの事例に該当するわけではない」と述べたうえで、「感染病予防法に基づく処罰は難しい」と伝えた。

ひとまずジェジュンが法的処罰を受けることはなさそうだが、韓国でいかに大事になっているか伝わってくるエピソードではないだろうか。

いずれにしても現在ジェジュンは、韓国においては四面楚歌状態になってしまっている。

昨年は10月に釜山で開催された「第1回アジア・コンテンツ・アワーズ」ではエクセレンス・アワードを受賞し、TV朝鮮のバラエティ番組にパネラーとしても出演。年が明けた2020年1月には韓国では4年ぶりとなるミニアルバムも発表するなど、着実に韓国での活動も増えて、その存在感に復活の兆しが見えていただけに、残念だ。

「処罰は甘んじて受け入れます」と謝罪しているジェジュン。物議を醸したことを真摯に反省し、信頼してくれている日本のファンたちのためにも、これから当分の間は信頼回復に努めていくしかないだろう。

・追記(2020年4月5日)

ジェジュンは2020年3月1日に、新型コロナウイルス感染防止のために、希望ブリッジ全国災害救護協会に3000万ウォン(約300万円)を寄付している。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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