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侍ジャパンへの雪辱誓う野球韓国代表に文在寅政権から注文?東京五輪の選考基準「厳格」に

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
プレミア12決勝前に談笑する韓国選手(写真=スポーツソウル)

プレミア12で2度も日本と対戦し、決勝で敗れた韓国代表。第一目標としていた東京五輪出場権は獲得したが、台湾戦で0-7の完敗を喫し、日本に8-10の敗北、そして決勝でも3-5の逆転負けで終わったこともあって、帰国したその表情には笑顔はなかったという。

ただ、帰国の様子を現地で取材した『スポーツソウル』の野球担当記者によると、多くの選手が来年の東京五輪での雪辱を誓っていたという。

日本との試合でタイムリーを打ったカン・ベクホは「もっと良い雰囲気を造りながら試合したら日本に勝てると思う」と語り、決勝の日本戦でソロ・ホームランを打ったキム・ヒョンスは「来年は借りを返す」とキッパリ。

コンディションの低下で日本戦に登板しなかった左腕投手キム・グァンヒョンも、「日本は体力に優れた若い選手たちがたくさん出ていた」としつつ、「来年は東京キッズたちが韓国からたくさん出るよう努力すべきだ」と語っていたらしい。

(参考記事:「次は侍ジャパンに勝てる!!」韓国の主力が語った日本リベンジへの必須条件とは?)

ただ、来年の東京五輪に挑む野球韓国代表のチーム編成は、選手はもちろん監督の思う通りにもならないかもしれない。

東京五輪や野球だけではない。今後、オリンピックやアジア大会に挑むサッカー韓国代表の顔ぶれも、監督の一存だけでは決められなくなるかもしれない。

というのも11月21日、韓国では李洛淵(イ・ナクヨン)首相を中心に、第94回国政懸案点検調整会議で「兵役代替服務の改善策」が審議され、体育要員制度の維持が確定した。

韓国では成人男子に兵役が義務付けられているが、スポーツ選手の場合、オリンピックのメダリスト(つまり1~3位以内)やアジア大会優勝など、国際大会で一定の成果を上げれば、4~5週間の軍事基礎訓練後、最低でも34か月は自身の特技分野(つまり、専攻種目)で活動することが兵役とみなされる。

これを「体育要員制度」といい、野球なら韓国人初のメジャーリーガーのパク・チャンホ、サッカーなら2012年ロンド五輪3位決定戦で関塚ジャパンを下した韓国代表や、昨年のジャカルタ・アジア大会で金メダルを手にしたソン・フンミン、ファン・ウィジョ、イ・スンウなどが該当するが、今回の審議でこれまで通り、「アジア大会から金メダル、オリンピックなら金、銀、銅メダル」という現行が維持されることになった。

ただ、新たなにふたつの条件が加えられた。

ひとつはボランティア活動の徹底管理だ。

体育要員になると専門スポーツに従事しつつ、その特技を活かしたボランティア活動も行わなければならないのだが、今後は行政機関の文化体育部が事前に指定した機関でボランティア活動しなければならず、4回以上履行実績の不備などで警告措置を受けると、告発されるという。

これは、JリーグのFC東京在籍時にロシア・ワールドカップに出場したチャン・ヒョンス(アル・ヒラル)が昨年11月に起こした不祥事とも無関係ではないだろう。

2014年仁川(インチョン)アジア大会優勝で体育要員資格を得たチャン・ヒョンスだが、ボランティア活動書類の捏造が発覚し、最終的には韓国代表資格を永久剥奪されている。

ボランティア活動を管理して水増し申告や不正を防止しようというわけだが、気になるのはもうひとつの新たな決まりだ。

「団体種目の場合、国家代表選抜規定に選抜方式、手続き、要件など選手選抜関連の核心事項を明示し、国家代表選抜の具体的基準・選定過程および関連資料を対外公開するなど、公正性と透明性を大幅に強化すること」

つまり、アジア大会およびオリンピックに出場する野球やサッカーといったチームスポーツの場合、選手選考の基準や選抜課程を公開するよう政府が要求したのだ。前出の李洛淵首相は文在寅(ムン・ジェイン)大統領から指名された政権の中心人物だが、その李洛淵首相が中心になった国政懸案点検調整会議でこうした注文が出されたわけだ。

この背景には昨年のジャカルタ・アジア大会での騒動が関係している。

野球競技で韓国は優勝しアジア大会3連覇を成し遂げたが、優勝メンバーの一部選手に対し、兵役免除のための請託人選があったのではないかという疑いが持たれた。

そのせいで、チームを率いていたソン・ドンヨル監督が国会の国政監査で証人として尋問されるほどの問題となり、結局、ソン・ドンヨル監督は辞任している。

もちろん、ソン・ドンヨル監督が金銭を受け取ったり裏取引を「請託」して選手選考するわけがない。兵役問題というセンシティブな問題にヒステリックなファンとその声に反応した政治介入に疲れての辞任だったのは言うまでもないだろう。

それだけに今回の決定は今一つ腑に落ちない。選手の選考基準や選抜課程を公表することは悪いことではないが、選手選抜の権限は監督やコーチにあるべきではないだろうか。

昨年のアジア大会開幕前はサッカー韓国代表でもファン・ウィジョの起用にこだわったキム・ハッボム監督に対して、「義理選出」「縁故抜擢」疑惑が浮上したが、キム・ハッボム監督はそれでもファン・ウィジョを起用し続け、ファン・ウィジョもその期待に応えてチームの金メダルに貢献したことで「美談」になった。

結果次第で評価が変わるのがスポーツの世界だが、今回の決定がチーム編成とその結果にどう影響するか、気になるところだ。

いずれにしても今後、アジア大会やオリンピックに挑む韓国の男子チームスポーツは明確な基準のもとで編成されることになる。

選抜の基準、過程、推薦理由にそのパフォーマンスを示す資料など客観的な指標が公開される。仮に東京五輪前に調子を落とし試合に出場できずにいれば、有望株であっても選出されないこともあるかもしれない。

「客観性、公正性、透明性を強化するための情報公開」という今回の決定だが、どんなチーム編成になったとしても東京五輪前はちょっとした議論が起きそうな気もするが……。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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