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1000万人突破は確実?カンヌ映画祭で最高賞に輝いた韓国の映画監督ポン・ジュノの“美談”

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
ポン・ジュノ監督と主演のソン・ガンホ(写真:ロイター/アフロ)

韓国で今、もっとも話題を呼んでいる映画は、ポン・ジュノ監督の最新作『パラサイト』(原題:寄生虫)だ。

5月26日に閉幕した第72回カンヌ国際映画祭の長編コンペティション部門で最高賞のパルムドールに輝いた同作は、早速5月30日に韓国で公開され、映画界を賑わせている。

韓国映画がカンヌ国際映画祭で受賞するのは今回が初めてではない。日本でもリメイクされたドラマ『グッドワイフ』の韓国版に主演した人気女優チョン・ドヨンが、2007年に映画『シークレット・サンシャイン』で主演女優賞に輝いたこともある。

ただ、韓国映画がパルムドールを受賞したのは今回が初めて。

これまで『殺人の追憶』『母なる証明』『グエムル-漢江の怪物-』『スノーピアサー』『オクジャ』など、さまざまなヒット作を手がけてきたポン・ジュノ監督にとっては、5回目のカンヌ参戦の末に頂点に立った。

授賞式でポン・ジュノ監督がコメントしたように、今年は韓国映画誕生100周年の記念すべき節目でもあるため、韓国映画界にとっても大きな意味があると言えるだろう。

(参考記事:カンヌ最高賞に輝くポン・ジュノ監督『パラサイト』、何が評価されたか

実際、韓国では早くも『パラサイト』熱が高まっている。この週末だけで278万人を動員。公開からまだ1週間も経ってないのに、累計観客数はすでに330万人を突破した。

ポン・ジュノ監督作品に対するもともとの期待と信頼に加え、“カンヌ効果”まで加わっただけにある程度予想できた人気だが、SNSなどでは早くも“観客動員1000万人突破確実”とさえ言われているほどだ。

また、今回の受賞を受けて“若き巨匠”ポン・ジュノ監督の美談にも改めてスポットが当てられている。中でも興味深いのは、今回の『パラサイト』で4度目のタッグを組んだ俳優ソン・ガンホとのエピソードだ。

(参考記事:韓国俳優ソン・ガンホが語る演技の秘訣は、“真似より本質”【インタビュー】

約20年前にとある映画のオーディションを受けるも落選したソン・ガンホは、まだ無名だった自分にわざわざ結果を知らせてくれたポン・ジュノ監督(当時は助監督)の繊細な気遣いに感動を受けたという。

それから5年後、監督としてキャリアを積み始めたポン・ジュノ監督が、売れっ子になったソン・ガンホにダメ元で出演を依頼すると、「5年前からあなたの映画に出ることを決めていた」と快諾したらしい。その作品というのが、ポン・ジュノ監督の2作目にして大ヒットとなった『殺人の追憶』らしい。

ポン・ジュノ監督の人柄の良さは『パラサイト』の制作中にも発揮されている。

アメリカで『スノーピアサー』や『オクジャ』などを制作しながら学んだハリウッド流の労働規定を用いて、最低賃金と週52時間労働を保証する“標準勤労契約書”をスタッフ全員と交わし、契約を厳守したことは有名な話だ。

韓国ではドラマの劣悪な制作環境を知らせるためスタッフが自ら命を絶つ事件が発生するほど、ドラマや映画界の劣悪な労働環境がしばし問題となっていた。

最近は改善への取り組みが進んでいると聞くが、人気監督にして世界的巨匠への仲間入りも果たしたポン・ジュノ監督が率先して環境改善に取り組み模範を示しているだけに、さらなる改善が期待できるだろう。

個人的に驚いたのは、子役への配慮だ。

『パラサイト』の劇中、家の中にいる親と庭で遊ぶ子供たちが同時に映るシーンを撮影する時、子役たちを炎天下から保護するために庭での撮影は中止し、あとでCG合成を行ったというのだ。

「制作費はかかったがそれだけの価値があった」とは、韓国メディアの取材でポン・ジュノ監督が語った言葉。スタッフや俳優たちに過剰労働を無理強いしなくても、良いシーン、良い作品は作れるということを証明して見せたわけだ。

昨年、韓国ではキム・ギドク監督の性的暴行疑惑が浮上したり、ホン・サンス監督が女優との不倫で物議を醸すなど、映画監督によるスキャンダルが多かったが、ポン・ジュノ監督の美談によって「韓国映画監督の威厳が回復した」とする関係者もいるほどだ。

(参考記事:“性的暴行疑惑”でお騒がせのキム・ギドク監督が「新作映画準備中」

そんなポン・ジュノ監督が“さらなる新境地”を切り開いたとされる映画『パラサイト』。韓国公開当日、大手ポータルサイトNAVERの映画セクションには絶賛の声が多く寄せられていた。

「脚本が斬新すぎる。韓国映画の新たな可能性が見えた」

「映画が終わる頃、最初から見返したくなった」

「頭が痛くなるほど色々考えさせられる」

「人生最高の映画だ」

観客による評点は10点満点中9.34点(5月31日時点)という、滅多に見られない高評価なので驚きだ。

いずれにしても、昨年の是枝裕和監督『万引き家族』に続き、2年連続でアジア映画が選ばれたことは映画ファンとしても嬉しい限り。日本公開が今から待ち遠しい。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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