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「日本対ベルギー戦も見た」サッカー北朝鮮代表の新監督と主将が直撃取材で口にしたという「変化」

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
スイスでもプレーしたチョン・イルグァン(写真:アフロスポーツ)

1月5日から始まったサッカー・アジアカップ。現地時間で1月8日に行われるグループEの初戦に朝鮮民主主義人民共和国(以降、北朝鮮)が出場する。

チームを率いるのは35歳のキム・ヨンジュン監督だ。現役時代は北朝鮮代表を長く務め、2005年2月のW杯アジア最終予選ではジーコ・ジャパンと対戦。その年の夏に韓国で行われた東アジア選手権の日朝戦ではゴールも決めた。

2010年南アフリカ・ワールドカップにも出場した選手なので、その名を覚えている日本のサッカーファンもいるだろう。

ジーコ・ジャパンとも対戦した北朝鮮の新監督

そんな懐かしの選手が北朝鮮代表監督に就任したと報じられたのは昨年12月だが、実はその前からすでに北朝鮮代表監督を務めていた。

北朝鮮代表は昨年11月に台湾で行われたE-1選手権ラウンド2に出場しているが、そのときからチームを率いていたのがキム・ヨンジュン監督だったのだ。

昨年秋に関係者を通じてキム・ヨンジュン監督就任の知らせを聞いたとき、真っ先に思い浮かんだのは2005年のドイツW杯アジア最終予選のことだ。

雑誌の連載企画で北朝鮮代表を密着していた関係で顔見知りとなり、北朝鮮代表としてコンビを組んだ在日Jリーガーの安英学氏から、聡明で情に厚い人柄やエピソードも聞いていたので、「上に立つべく人がなったな」という印象だ。

台湾現地に飛び、キム・ヨンジュン監督との単独インタビューに成功した李仁守記者によると、キム・ヨンジュン監督は2012年に現役引退後、指導者に転身し、U-16代表やU-23代表のコーチを務めたあと、昨年9月から北朝鮮代表監督に就任したらしい。

(参考記事:北朝鮮代表がアジアカップのダークホースに?35歳の青年監督が抱く野望

李記者には2005年アジアW杯最終予選時に北朝鮮代表を特集した日本のサッカー雑誌を託し、キム・ヨンジュン監督に直接手渡しするようお願いしたのだが、当時の日本メディアに“北のヨン様”と呼ばれた監督は雑誌を手にすると「本当はもっと選手を続けたかったのですが、腰と膝を痛めてしまって」と、照れ笑いと苦笑いが混じった表情で語ったという。

30代半ばでの監督就任、それも何かとプレッシャーがかかる北朝鮮代表監督に35歳の青年監督が就任するのは異例だが、それだけ北朝鮮サッカーの若返りが進んでいる証拠だとも言えなくもない。

増えた海外組。経験者チョン・イルグァンは…

実際、今回のアジアカップに臨む北朝鮮代表の平均年齢も若い。

平均25・3歳。キム・ヨンシュン監督も「左サイドのカン・グッチョル(19歳)、右サイドのキム・ヨンイル(24歳)、中盤のリ・ウンチョル(23歳)、守備のキム・チョルボム(24歳)などが期待です」としたようで、「中でもハン・グァンソン(20歳)は可能性にあふれている」と若手の台頭を嬉しそうに語っていたという。

ちなみにハン・グァンソン(カリアリ/現在はペルージャにレンタル移籍中)はイタリアでプレーしており、背番号10をつけるパク・グァンリョン(SKNザンクト・ペルテン)はオーストリアでプレーするなど、北朝鮮でも欧州組は増えている。

その中のひとりとして2018年までスイスのFCルツェルンでプレーしたチョン・イルグァンとも直接インタビューした李仁守記者によると、「欧州での生活で取材慣れしたのか、ときにジェスチャーを交えながらチームの戦術や理想のサッカーを語る姿は、とても洗練されていて、あか抜けている印象でした。バイエルン・ミュンヘンの試合をよく見ているようで、でも、ロールモデルにしているのはロッベンやリベリーではなく、“クリスティアーノ・ロナウドが好きです”と語る仕草は少年のようでもあった」というのだから、親近感も湧いてくる。

(参考記事:謎に包まれた北朝鮮代表の実態を直撃取材!チーム状況は?アジア杯の勝算は?

もっとも、北朝鮮の選手が欧州サッカーや世界のスーパースターについて語るのは珍しいことではない。

セルビアのFKペジャニヤやロシアのFCロストフでプレーした北朝鮮の欧州組の先駆けであるホン・ヨンジョと、かつて膝を隣り合わせにしながら話し込んだことがあるが、そのときも、「ブラジルのデニウソン選手が目標。個人技で観客を魅了し驚かせたい」と、照れ笑いを浮かべながら語っていた。

北朝鮮というと、情報の行き来に制限があるイメージが強いが、サッカーに関してはオープンで、世界の動きもトレンドも知っている。

台湾で北朝鮮代表に密着した李仁守記者によると、選手たちはスマートフォンを自在に使いこなし、チョン・イルグァンは「ロシアW杯の日本対ベルギー戦も観ましたよ。これまでアジア勢はいつも、W杯で欧州勢に勝てませんでした。しかし、日本とベルギーの試合を見て、“僕たちもやればできる”と感じました」とも語っていたという。

そんな北朝鮮サッカーが今回のアジアカップでどんな姿を見せるのか。

初出場となった1980年大会以来、これまで4度アジアカップに挑んできた北朝鮮だが、最高成績は1980年大会の4位で、1992年、2011年、2015年大会はいずれもグループリーグで敗退してきた。

今大会で属するのは、サウジアラビア(69位)、レバノン(81位)、カタール(93位)らが名を連ねるグループE。FIFAランキング(北朝鮮は109位)ではいずれも格上で、中東勢ばかりとの対戦となるが、果たして。もうひとつのコリアの戦いにも注目したい。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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