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韓国でも人気のカンヌ女優・唐田えりかが語る“日韓比較”と“理想の女優像”

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
『寝ても覚めても』でヒロインを演じる唐田えりか(写真:著者撮影)

2015年に出演したCMも話題を呼び、『こえ恋』『トドメの接吻』など数々のドラマに抜擢されてきた女優・唐田えりか。

彼女が本格演技デビューを果たし、自身初となるヒロインを務めた映画『寝ても覚めても』(濱口竜介監督)が、9月1日から公開される。

『寝ても覚めても』は、芥川賞作家・柴崎友香の同名恋愛小説を映画化し、「第71回カンヌ国際映画祭」コンペティション部門にも出品された作品。唐田は、東出昌大が一人二役を務めた“同じ顔の男”亮平と麦(ばく)の間で揺れ動くヒロイン・朝子を演じた。

前回のインタビューでは、「もともとは演技に対して苦手意識も強かったんですが、『寝ても覚めても』と濱口監督に出会えたおかげで、演技に対して前向きになれました」と語っていたが、彼女は濱口監督の演出や撮影手法も印象的だったと話す。

「濱口監督は、“ナマモノ”をとても大事にされる監督でした。例えば、ワンシーンを撮る前に必ず“本読み”という時間があったんです。キャストと監督と方言指導の方だけが集まって、脚本を読むのですが、ここでは絶対に感情を入れない。ただ文字を読むような感じでしたね。

その“本読み”の後の段取りやカメラテストでも感情は一切入れず、単に動きを確認する程度。濱口監督から、“本番では感情が入って動きが変わってもいいです”と言われたぐらい、本番での感情を大切にされていました」

そんな濱口監督の撮影手法があったからこそ、自分自身が活きたと感じている。

「ワンシーンを撮るたび、本番はどうなるかわからないような状態でしたが、それぐらい濱口監督が“ナマモノ”を大事にされていたから、お芝居も全部がリアルで新鮮だったんです。

そのなかで私自身も活きたと思っているので、濱口監督のやり方はありがたかったですね」

韓国CMにも出演した唐田が語る“日韓比較”

“ナマモノ”を大事にする濱口監督の手法が印象に残ったと話す唐田えりか。それだけに訊いてみたくなったのは、日本と韓国の撮影現場の違いだ。

というのも、彼女は昨年から韓国でも活動を行っている。

(参考記事:【動画あり】「広末涼子に続く清純派女優」LG電子のCMに出演した唐田えりかの韓国での評判

日本で同じ事務所に所属する女優ハン・ヒョジュがヒロインを務めたドラマ『W-君と僕の世界-』の見学に行った際、ハン・ヒョジュの韓国マネージメントを担当する芸能プロダクション・BHエンターテインメントの目に留まり、韓国デビューが決定。

現在は、韓国での活動の際はそのBHエンターテインメントに所属して活動しており、LG電子のスマートフォンのCMや、韓国の人気アーティストであるナオルのミュージックビデオ『記憶の空いた場所』に出演しているのだ。

“次世代セクシーアイドル”とされるRUIをはじめ、韓国で活躍する日本の芸能人が増えているなかでも、唐田えりかに対する注目度は特に高い。

(参考記事:「美しすぎる!」とネットで話題に。韓国で活躍する日本芸能界の美女たち

カンヌでも韓国メディアが殺到したことは前回紹介した通りだが、本人は日本と韓国の撮影現場にどんな違いを感じているのか。そう質問すると、「韓国の撮影現場で驚いたことがあったんです」と口を開いた。

「日本だと、スケジュールがきっちり決まっていて、その通りに撮影が進むことが多いんですが、韓国はもう少し全体的にユルい印象ですね。集合時間に集まらなくても誰も怒ったりしないし、むしろそれが普通という雰囲気もありました。

ただ、それはある意味、柔軟ともいえる気がします。例えば、監督がその場で思いついたことをすぐに試してみることもありました。きっと、良いものを作れるなら予定通りにいかなくてもいいという考え方なんです。

雰囲気は違っても、作品をより良くしたいという気持ちは日本も韓国も変わりません。私はどちらの現場も好きですね」

“自分”がないと、ただの技術勝負になってしまう

日本と韓国で活躍する彼女ならではの“日韓比較”だが、気になるのはこれからのことでもある。今後、日韓を股にかけ、どのような活動を行っていこうと考えているのか。

「いま一番やりたいのは、映画です。『寝ても覚めても』のような作品にたくさん出会って、もっと成長していきたいです。

それは韓国でも同じ。CM出演やモデル活動などもやりたいですが、やっぱり映画に出たい気持ちが強い。韓国映画もよく観ていますよ。

特に『私の少女』のペ・ドゥナさんや、『息もできない』のヤン・イクチュンさんの演技が大好きで、観るたびに感動しています。お二人とも、演技を演技と感じさせないというか、すごくリアルで、お芝居に圧倒されて、なぜか泣いてしまうほどです。

韓国語はいまも家庭教師に教わっていて、簡単な単語がわかるぐらいですが、ペ・ドゥナさんとヤン・イクチュンさんとも、いつか共演してみたいですね。韓国でも私のことをもっと知ってもらって、いつか日本と韓国の架け橋になりたいというのが大きな夢でもあります」

では、具体的にはどんな女優を目指しているのか。唐田えりかは「“自分”を忘れずにいたいです」と話す。

「『寝ても覚めても』で一番学んだことが、“自分が自分でないといけない”ということでした。演技って、誰かを演じるものじゃないですか? そこに自分がないと、ただの技術勝負というか、深みがない表面的な演技になってしまうと思うんです。

だから、好きな役者さんはいても、その人みたいになろうとは思いません。そう思った時点で、それは自分ではなくなってしまいますから。いいところは盗みつつ、まずは自分が自分でいることを大切にしたいです。

そのうえで、演じる役と自分の共通点を見つけて、似ている部分を大きくしていく。そんなお芝居をしていきたいです」

いま一番やりたいことは映画。表面的ではない、深みのある女優になりたい。今後のビジョンをそう語ったが、だからこそ注目されるのが、自身初となるヒロインを務めた『寝ても覚めても』でもある。

韓国で活動する際に所属する芸能プロダクション・BHエンターテインメントによれば、韓国での配給も決まり、アジア最大級を自負する釜山国際映画祭への出品も検討中だというだけに、『寝ても覚めても』の反響は、日本のみならず韓国での活動にも少なからず影響するだろう。

(参考記事:中山美穂も登場!!歴代の釜山国際映画祭レッドカーペットからピックアップ!! 人気女優による“露出バトル”

唐田えりか本人も、「すべての人に観てもらいたい映画です」と語る。

取材中の唐田えりか(写真:著者撮影)
取材中の唐田えりか(写真:著者撮影)

「簡単に言ってしまえば“大人の恋愛映画”となるかもしれませんが、それだけで説明できる作品ではないと思うんです。人間の欲の深さというか、野性的な部分が描かれているというか…観た後に“人間とは?”、“自分とは?”を問いかけられるような映画です。

受け止め方は人それぞれ異なると思いますが、一人ひとりに必ず何かが届く作品だと私は思うので、日本でも韓国でも、年齢や恋愛をしているかどうかにかかわらず、すべての人に観てもらいたいです。

特に注目してもらいたいのは、ラストシーン。ここにこの映画のすべてが詰まっているので、私と東出(昌大)さんの掛け合いに注目してもらえるとうれしいです」

『寝ても覚めても』を通じて女優としてスタートラインに立ったと語り、日本と韓国での映画出演に意欲も見せた唐田えりか。初ヒロインを務めた本格演技デビュー作が、日韓両国でどのような反響を呼ぶか注目だ。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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