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押井守監督の『人狼』実写版は韓国映画界の“サマーウォーズ”で生き残るか?

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
カン・ドンウォン主演の『人狼』ポスターより

この夏、韓国映画界では“夏の大戦”が始まろうとしている。

今年初めに公開され韓国映画歴代ランキングで2位(観客動員数1441万人)を記録した『神と一緒に』の続編をはじめ、5月のカンヌ国際映画祭に参加した『工作』、夏らしいサスペンス映画である『目撃者』など、話題作が続々と公開を控えているのだ。

韓国で続く日本原作の実写化

そんな中でも特に注目したいのは、本日7月25日から公開となる『人狼』だろう。実はこの映画、1999年に日本で公開された長編アニメ映画『人狼 JIN-ROH』の実写版なのだ。

近年、日本の小説や漫画が多く韓国で映画化されているが、『人狼』もその流れにある作品として期待大らしい。

(参考記事:韓国で映画化された日本の原作小説・ドラマの“本当の評判”と成績表

しかも、『人狼 JIN-ROH』の原作・脚本を担当した押井守監督は、韓国でも高い人気を誇っている。2017年11月には『21世紀ジャパニメーション企画展~押井守監督展』と題して、押井監督の代表作8作品を振り返る企画展も行われた。

日本アニメ界の伝説と韓国映画界の巨匠

“日本アニメ界の生きた伝説”と知られる押井監督の作品は韓国でもマニアが多く、韓国アニメ界にも少なからず影響を及ぼしたと言われているほどなのだ。

(参考記事:押井守にジブリ…あのサムスン総帥まで楽しんでいた! 韓国の日本アニメ人気

そんなアニメ界の巨匠の作品を実写化させたのは、キム・ジウン監督だ。

『クワイエット・ファミリー』(1998年)、『反則王』(2000年)、『箪笥』(2003年)でその地位を確立し、2013年にはアーノルド・シュワルツェネガー主演の『ラストスタンド』でハリウッド進出も果たした映画監督だ。

最近では『密偵』(2016年)で日本でも話題を呼んだが、個人的には映画『甘い人生』『グッド・バッド・ウィアード』『悪魔を見た』などの日本プロモーションでお会いする機会もあった。普段は物静かな印象だが、内に秘めたものが熱いと感じさせる韓国映画界の巨匠中の巨匠である。

キム・ジウン監督と押井守監督は、お互いの作品に対してファンであることを公言してきた間柄だという。

韓国メディアによると、かねてよりキム監督の『反則王』『グッド・バッド・ウィアード』に感銘を受けたと明かしている押井監督は、今回の実写化についても「積極的に支持を示した」らしく、キム監督も『人狼』の実写化を決心した理由についてこう語っている。

「『人狼 JIN-ROH』は近寄り難い奥深い世界観と圧倒的な雰囲気を持つアニメ映画だった。私を揺さぶるいくつかの決定的なシーンがあり、戦慄を覚えた」

『人狼』のローカライズと再解釈

ただ、キム監督がいくら演出力において絶大な信頼を得ているとはいえ、“新しい挑戦”となる今回の実写化については「不安が大きかった」という。

何しろ「原作を見た人なら、実写化の難しさを痛感するはずだ」とキム監督自らが断言しているのだ。

その上、原作へのオマージュを感じさせつつ、韓国の歴史や文化に合わせてローカライズする必要があったため、脚色をめぐって苦悩が絶えなかったという。映画に限らず、今や多くの日本作品が韓国でリメイクされているが、『人狼』もその課題を抱えていたわけだ。

(参考記事:日本を感動させた『いまあい』も韓国で再解釈。日本映画の韓国リメイクは成功しているのか

実際、実写版『人狼』は南北が統一を宣言した2029年の朝鮮半島を舞台にしているが、原作や映画ファンの間では期待と懐疑の入り交じった声があるのも事実なのだ。

もっとも、キャストに関しては文句のつけようがない。カン・ドンウォンをはじめ、ハン・ヒョジュ、チョン・ウソン、ハン・イェリ、SHINeeのミンホなど、主演クラスの俳優が勢揃いだ。

キャストは豪華でNETFLIXも配給

特にカン・ドンウォンとハン・ヒョジュンは、日本映画『ゴールデンスランバー』の韓国リメイク版以来、2度目の共演となる。日本作品とゆかりのある2人の、新しいチャレンジにもぜひ注目したい。

また、世界最大級のストリーミング配信を行っている『Netflix』が、海外配給権を取得したことも興味深い。

映画『人狼』は約190億ウォン(約19億円)もの制作費が投入され、損益分岐点を超えるためには観客動員数約600万以上が必要と言われるが、『Netflix』への配給権販売によって損益分岐点が大幅に下がったと言われている。

(参考記事:「韓国コンテンツと恋に落ちた」Netflix (ネットフリックス)の“次の一手”とは

ただ、映画ヒットのバロメーターとなるのは、やはり観客動員数だろう。そして、その点で『人狼』にはライバルが多い。

例えば冒頭で紹介した韓国映画がこれから順次公開される。そのライバルたちと『人狼』を含めた4作品が“今夏のBIG 4”と言われているが、『人狼』が公開される7月25日は、韓国で『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』が公開される日でもある。

『人狼』は本格的なBIG 4大戦の前に、まずはハリウッド超大作とも競争しなければならないわけだ。

はたして映画『人狼』は韓国でどのような反響を呼ぶだろうか。かつてない日韓コンテンツパワーが炸裂することを期待したい。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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