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「人気女優の死刑要求」に日本人による過激投稿まで… 韓国の“国民請願”サービスとは?

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
(写真:ロイター/アフロ)

韓国の「国民請願」というサービスをご存知だろうか。

韓国大統領府のホームページに設置されており、韓国国民がオンラインで韓国政府に希望を申し出ることができるサービスのことだ。

1件の請願に対して30日間に20万人以上の署名が集まった場合は、長官や首席秘書官を含む政府関係者が正式に回答を示すことになっている。

(参考記事:政府関係者が市民の声に応答!! この1年間最も話題を振りまいた“国民請願”は?

「国民が質問すれば政府が答える」(韓国大統領府HP)という文在寅(ムン・ジェイン)政権の意思を感じるサービスだ。

昨日7月23日には、国連による「デジタル政府評価」で韓国がオンライン参加部門で1位になったことも発表された。2年前の調査ではオンライン参加部門4位だっただけに、国民請願効果とも言えるかもしれない。

ただ、国民請願は何かと問題が多いとの指摘もある。

人気女優に死刑を要求?

例えば5月には、“国民の初恋”の異名を持つ人気女優ペ・スジに対して、「死刑を求める」という国民請願があった。

その請願を書き込んだ人物は、こともあろうか「スジを死刑という厳罰に処し、豚共に社会正義の手本を見せなければならないと思う」などと綴ったのだ。

(参考記事:「ペ・スジの死刑を求める」…韓国の衝撃的過ぎる“国民請願”が話題

この国民請願はすぐに削除されたが、数時間後には逆に「ペ・スジの死刑を請願した人物を捜査して、即時処罰」という請願が登場するなど、収拾のつかない事態に発展していた。

誰もが“自由”に請願を掲載できるというだけに、その内容は実に玉石混淆なのである。

時期的なものや国際的なイベントに、国民請願の内容も影響を受けるというのも特徴だろう。

日本のセクシー女優K-POPデビューに反対

ワールドカップが行われた時期は、グループリーグ初戦で敗れたサッカー韓国代表のチャン・ヒョンスに対して、心無い国民請願が寄せられたこともあった。

(参考記事:「代表永久除名」「刺青を消せ」はまだ序の口…FC東京チャン・ヒョンスへの批判がひどすぎる

ただそういった度を超えた国民請願に、政府関係者が回答する20万人の同意を得られる力はほとんどない。

今年3月、三上悠亜、桜もこ、松田美子ら日本のセクシー女優たちで結成されたK-POPアイドルグループ“HONEY POPCORN”が韓国でショウケース開催を発表したとき、「日本の成人ビデオ(AV)女優の韓国アイドルデビューを反対します」と題された請願が出されたが、結果的には彼女たちはデビューし、7月にはファンミーティングも開催している。

では、実際に20万人の署名が集まり、政府関係者が回答した国民請願にはどのようなものがあるのか。

20万人の署名を得た国民請願とは

最近のものを見てみると、7月19日に政府関係者が回答した「最高検察庁の違法的な性的暴行捜査マニュアルの中断を要請します」(署名21万7143人)という請願があった。

「#MeToo」運動が活発に展開されている韓国において、無実の罪で性犯罪者の冤罪を避けるために、誣告罪の処罰を強化したり、手続きなどを厳格化したりしてほしいという内容だった。

また7月13日に政府関係者が回答した「クィア祝祭の開催を反対する」(署名21万9987人)という請願もあった。

クィア祝祭とは、性的少数者であるLGBTの人たちによる祝祭で、ソウル市庁広場などでパレードなどが行われるイベントだ。投稿者は「同性愛者だから反対するのではなく、変態的でわいせつ的であるため反対します」としている。

政府関係者は、同イベントはソウル市の条例で許可されており、大統領府がイベントを中止にすることはできないと回答するに留めている。なんとも消化不良な回答かもしれないが、現実に大統領府が何かできる問題ではないのだから仕方がないだろう。

興味深いのは、そんな韓国の国民請願に最近、日本人が投稿したということだ。

日本人も投稿。「韓国の政治家はバカなのか」

自らを韓国人男性と結婚して、10年以上韓国で暮らしている日本人と述べた投稿者は、「韓国の外国人政策のさまざまな部門における問題点を直してください」という国民請願をアップした。

韓国では近年、人種差別が深刻化しているとの指摘が多いが、投稿者の意見は真逆のようだ。

投稿者は「外国人の自分から見ると、韓国の外国人政策は韓国人を差別し、外国人を優待する非合理的な政策」と主張。彼女は「“韓国の政治家はバカなのか”という考えまで浮かぶ」と指摘して、韓国政府の多文化家庭支援策と難民政策を批判している。

また彼女は「多文化家庭ではなくて、国際結婚家庭だ」とした上で、「韓国の家庭でも苦労して生活しているなかで、国際結婚家庭という理由で多様な支援をするのは差別的だ」と語っている。

要するに、多文化家庭に無条件で各種の経済的支援をするのは、韓国家庭に対する逆差別だという主張だろう。

そんな日本人による国民請願の内容を報じた記事には、多くのコメントが書き込まれていた。

以前、 韓国のフェミニズムに待ったをかけた日本人作家が叩かれていたが、今回は「とてもすっきりする」「多文化家庭の支援は中断すべき」「どれほどあり得ないことか伝わってくる」などと、非常に肯定的なコメントがつけられていた。

いずれにしても、さまざまな議論を巻き起こして、連日韓国メディアに注目されている韓国大統領府の国民請願サービス。本格的な夏休みシーズンに入った最近は、「教師の夏休みをなくすべき」という国民請願が10件余りも掲載されたという。

国民とのコミュニケーションを通じて、より難しい問題の解決や是正につながっていくのか、今後を見守りたい。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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