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ロシアW杯が生み出した特別待遇「カバン権」とは? SNSテロ被害者チャン・ヒョンスは…

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
カバン権が与えられたキム・ヨングォンとチョ・ヒョヌ(写真:ロイター/アフロ)

ロシア・ワールドカップでグループリーグ敗退に終わった韓国だが、グループリーグ最終戦でドイツ相手に大金星を挙げたこともあって、その余韻は今も続いている。

キ・ソンヨンの「美女パートナー」も話題に

ドイツを破った快挙の続報は絶えず、6月29日に帰国した代表選手たちのインタビューや、殊勲選手の特集記事なども数多い。

選手のプライベートにスポットライトを当てるメディアも少なくない。例えば主将のキ・ソンヨンは、妻で女優のハン・ヘジンが「美女パートナー」として知られているが、二人の馴れ初めなども改めて話題になっている。

(参考記事:【画像】ソン・フンミンの「恋人」は? 韓国代表の「美女パートナー」たちがかわいすぎる!!

もちろん、アジア勢で唯一グループリーグを突破し、決勝トーナメント1回戦でベルギーを苦しめた日本のことも大々的に取り上げられている。

スポーツ新聞『スポーツ・ソウル』などは、試合の翌日にセレッソ大阪のユン・ジョンファン監督の分析コラムを掲載していたほどだ。

(参考記事:C大阪ユン・ジョンファン監督が「ベルギー戦の敗因」と「西野ジャパン成功の原動力」を語る

流行語となっている“カバン権”とは?

そんな韓国で今、とある言葉が流行語になっているという。

“カバン権”という言葉だ。韓国対ドイツ戦の際、KBSの中継で解説を務めた元韓国代表のイ・ヨンピョが、キム・ヨングォンの先制ゴールの場面で、「キム・ヨングォンに5年間の、いや一生涯の“カバン権”を与えてあげたい」と発言したことがキッカケだという。

イ・ヨンピョがキム・ヨングォンにカバンをプレゼントしたいというわけではなく、「カバンを持つ権利」という意味でもない。

“カバン権”とは、韓国語で「カイム(非難の隠語)をパンジ(防止、もしくは回避・免除)できる権利」という意味を略した造語だ。日本風にいえば、“アンタッチャブルな存在”と言い換えてもいいかもしれない。

例えば、サッカー界ではパク・チソンなどが、この“カバン権”を持っているといわれている。ほかの競技でも、野球のイ・スンヨプ、“フィギュア女王”キム・ヨナなどが“カバン権”の持ち主といわれており、実際に彼らは韓国のメディアやネット上で非難されることも滅多にない。

つまり、イ・ヨンピョの発言は、「ドイツ戦で先制ゴールを決めたキム・ヨングォンは、一生批判を受けないでいい」という意味になるわけだ。

キム・ヨングォンは、2017年8月のロシア・ワールドカップ最終予選のイラン戦の際、「応援の声でメンバー同士の意思疎通が難しかった」と発言して大ひんしゅくを買ったことがあるだけに、イ・ヨンピョもキム・ヨングォンにはそんな言葉をかけずにはいられなかったのかもしれないが、最近は、「1年間“カバン権”を与えてあげたいワールドカップ・スターは?」というアンケートも行われた。

“5代目ワールドカップ美女”も推す

韓国のコミュニティポータルサイト『dcinside.com』が6月28~7月1日に実施したもので、アンケート結果は複数のメディアで取り上げられるほど関心を集めている。

1万1660票が集まったこのアンケートで、見事1位に輝いたのはロシア・ワールドカップでグループリーグ3試合にフル出場したGKのチョ・ヒョヌだ。

日本でも奇抜なヘアスタイルが話題を呼んだチョ・ヒョヌだが、2位のソン・フンミンに2650票差を付け、全体の44%を占める5167票を獲得したというから、韓国での人気の高さが伝わるだろう。前出の『スポーツ・ソウル』などは、「チョ・ヒョヌは韓国最高のスター」と評価しているほどだ。

最近は、“5代目ワールドカップ美女”と注目されたシン・セロムが、好きな選手にチョ・ヒョヌを挙げたこともちょっとした話題になったが、こうした反響を見ると、今回のアンケートでダントツに輝いたのも当然なのかもしれない。

背景にはチャン・ヒョンスへの人格攻撃も?

ただ、“カバン権”という言葉が生まれた背景には、韓国のスポーツ選手が厳しい批判にさらされてきたことの裏返しでもある。

上述したキム・ヨングォンの例もその一つであるし、以前にも紹介した通り、ロシア・ワールドカップでも韓国代表選手に対する度が過ぎた批判が問題になっていた。

チャン・ヒョンスなどは、一部の心無いサポーターからSNSなどで、口にも出せないほどの誹謗中傷や人格攻撃まで受けていたほどだ。

(参考記事:「代表永久除名」「刺青を消せ」はまだ序の口…FC東京チャン・ヒョンスへの批判がひどすぎる

韓国ではスポーツ選手も「公人」扱いとなるが、だからといって選手への誹謗中傷が許されるわけではない。度が過ぎた批判は改善されるべきだろう。

いずれにしても、ワールドカップを機に流行語となり、選手の人気を図る指標の一つにもなっている “カバン権”。ただ、それは決して永遠のものでもない。

かつて“絶対的なカバン権の持ち主”と言われていたホン・ミョンボも、ブラジル・ワールドカップの惨敗を受けて猛バッシングを浴びた。つまり、ロシアで“カバン権”を得た選手たちも、その恩恵を永遠に享受できるわけではない。それもまた、事実である。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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