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西野ジャパンとの違い。韓国はロシアで「死亡届け」を突きつけられていた!

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
16強進出を決めた日本代表(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

韓国のロシア・ワールドカップが終わった。

スウェーデンとメキシコに2連敗し、1990年イタリア大会以来28年ぶりの3戦全敗という悪夢もよぎったが、最終戦では下馬評を覆しドイツに2-0で勝利。

グループリーグ突破は達成されなかったが、前回王者を破る快挙を成し遂げたことで、国全体がほっと胸を撫でおろしていると言った状況だろうか。

サポーターの反応を見ても、代表チームを称える声が目立っている印象だ。

ドイツ戦の前までは、FC東京のチャン・ヒョンスをはじめ、選手たちに対して一部の人々が口にも出せないような誹謗中傷を行うなど、代表チームは猛烈な批判を浴びていたが、ドイツに勝利したことで一定の信頼は取り戻したように見える。

(参考記事:「代表永久除名」「刺青を消せ」はまだ序の口…FC東京チャン・ヒョンスへの批判がひどすぎる

2連敗のどん底からドイツを破る快挙を成し遂げ、ロシア・ワールドカップを終えた韓国。大きな浮き沈みを経験したが、韓国メディアはこの結果をどのように評価しているのか。

韓国でもっともメジャーなサッカー専門誌『FourFourTwo KOREA』のホン・ジェミン編集長に話を聞いた。

韓国のロシア・ワールドカップは「失敗だった」

――まずはドイツ戦の感想から聞かせてください。

「正直、試合前までは5点差以上の大敗もあり得ると思っていたので、結果には驚いています。これまでの韓国の戦いぶりを見てきた限りでは、ドイツに勝てる可能性はゼロに近いと見ていましたから」

――勝因はどこにあったと思いますか?

「ドイツに対して特別な戦術を使ったわけではありませんよね。一言で、韓国選手たちのパフォーマンスが良かったことが勝因だったのではないでしょうか。コンディションも良かったし、集中力も高かった。代表チームが猛烈な批判を浴びる中、選手たちが背水の覚悟で挑んだことが勝利につながったと思います」

――そんなドイツ戦の勝利で2連敗のことも吹き飛んでしまったような論調も見えますが、ロシア・ワールドカップでの戦いをどのように評価しますか?

「ドイツ戦の勝利で韓国が沸いていることは事実ですが、少し冷静な見方も必要でしょう。韓国はもともと16強進出を目標に掲げていましたが、少なくとも、その目標を達成することはできなかった。ドイツに勝ったため、韓国はロシアでいい戦いをしたと錯覚してしまいがちですが、結果だけを見れば、韓国のロシア・ワールドカップは失敗だったというべきです」

「始まる前から信頼を失っていた」

――なぜ韓国は失敗してしまったと思いますか?

「一つは、準備不足を挙げられますよね。そもそも韓国は、ワールドカップ直前になっても、アジア最終予選から続く低迷を脱することができませんでした。最終予選2試合を残したタイミングで前任のウリ・シュティーリケ監督を更迭し、代わってシン・テヨン監督が就任しましたが、それでもチームの状況は良くなりませんでした。

もっとも、シン・テヨン監督しか代役がいなかったということもあり、監督交代後も大きな期待がかけられていなかったことも事実ですが、ワールドカップ・イヤーを迎えても低空飛行を続ける代表チームには、危機感が募るばかりでしたから。

開幕直前のテストマッチでも3戦続けて白星なし(ボスニア戦1-3、ボリビア戦0-0、セネガル戦0-2)で、ファンも不安を増幅させるばかりでした」

――つまり、韓国はワールドカップが始まる前から国民の信頼を失っていた、と。

「その通りです。さらには、もともとチームの状況が良くなかったなかで、クォン・チャンフン(ディジョン)やキム・ミンジェ(全北現代)、キム・ジンス(全北現代)をはじめ、重要なポジションを担う主力選手がチームを離脱したことも痛かった。ベストメンバーで臨めなかったことも、韓国がロシアで失敗した要因の一つに挙げられるでしょう。

まして、組分けも“死の組”とされるF組。怪我や組分けのことを言い訳にはしたくありませんが、こうした不運が重なったことも、少なからず成績には影響したと思います。

また、ロシアではシン・テヨン監督の経験不足も露呈しましたね」

――“シン・テヨン監督の経験不足”というと……

「シン・テヨン監督は、現役時代も含め、一度もワールドカップを経験したことがありません。ワールドカップは、スタンドから観るのとピッチで戦うのとではまったく別物だといいますが、シン・テヨン監督はワールドカップのレベルも怖さも知らなさ過ぎた。

例えば欧州リーグに渡った韓国選手たちは、実際に現地に行って初めて世界とのレベルの差を痛感したと口を揃えます。その世界とのレベルの差を、シン・テヨン監督はロシアに臨むまで実感したことがなかったのです。

経験不足は就任当初から不安視されてきましたが、ロシアまでの過程を見ていても、やはりシン・テヨン監督のチーム作りは未熟だったと言わざるをえません」

明暗が分かれた日本と韓国は何が違ったのか

――ただ、ワールドカップの経験がないのは、グループリーグ初戦から快進撃を続ける日本の西野朗監督も同じです。まして西野監督は、シン・テヨン監督よりもさらに土壇場のタイミングで指揮官に就任しました。セレッソ大阪のユン・ジョンファン監督は、スポーツ新聞『スポーツ・ソウル』のコラムで「日本と韓国の違い」と詳しく分析していましたが、ホン・ジェミン編集長は韓国には何が足りなかったと考えますか?

「ワールドカップの経験がないという点は、たしかに共通していますよね。ただ、日本の場合は、蓄積してきた経験や教訓、ノウハウがある。

これまでのワールドカップの結果と向き合い、それを実践に移そうとしている印象を受けます。その蓄積があるからこそ、急きょ西野監督が指揮官を任されても、日本は結果を残せたのではないでしょうか。

(参考記事:「西野ジャパン躍進の要因は3つある!」C大阪ユン・ジョンファン監督が語るハリル体制との違い)

それと比べて韓国はどうでしょう。日本とは対照的です。

毎回、KFA(韓国サッカー協会)は“ワールドカップ白書”というテクニカルレポートのようなものを発行していますが、それが次の代表チーム、すなわち今回の韓国代表に活用された試しがありません。反省点を実践に活かそうという姿勢さえ見えないほどですよ。

こうした蓄積の差が、日本と韓国の明暗を分けたと私は思います」

――今後はその差が埋まっていくと思いますか?

「正直、難しいでしょう。これまで見てきた限りでは、協会がロシアでの経験や教訓を生かし、具体的に実践に移していくとは到底思えません。

昨年ソウルでお話したときは、Kリーグの低迷なども含めて、“韓国サッカーはもはや二度と立ち直れないほどの危機に陥っている”と言いましたが、協会がそれぐらいの危機感を持っているかどうか疑問ですから……。

(参考記事:“韓国サッカーの暗部”を現地記者が衝撃告白「もはや自力では立ち直れない」

ただ、それでもドイツ戦で勝利したことで、韓国サッカーが立ち直るチャンスを得たことは事実です。

正直、2連敗したときはこう思いました。“Kリーグの人気低迷でただでさえ瀕死の韓国サッカーは、ロシア・ワールドカップで死亡届けを突きつけられてしまった”と。

ただ、私たちですら死に体と思っていた韓国サッカーを、選手たちがドイツ戦で死力を尽くして黄泉の国から呼び戻してくれたと思うんです。

これが、韓国サッカーが生き返る最後のチャンスかもしれない。ロシアでは“最低”も“最高”も経験しました。その貴重な経験を次につなげられなければ、それこそ韓国サッカーに未来はないでしょう」

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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