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監督・西野朗に師事した元韓国人Jリーガー語る……「本田圭佑もきっと感じているはず」

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

コロンビア代表相手には大金星を飾り、セネガル代表には失点しても2度も追いつく粘り強さを見せた日本代表。韓国では選手たち個々の活躍もさることながら、チームを率いる指揮官・西野朗監督にスポットを当てた記事も多く報じられている。

「1996アトランタから2018サランスク…日本サッカー“奇跡の演出家”西野」(『韓国日報』)、「疑問符を打ち破り逆転ドラマを描いた日本の西野監督」(『スポーツ東亜』)などで、『スポーツ・ソウル』に至ってはセレッソ大阪のユン・ジョンファン監督が語った、西野監督の凄さを紹介している。

(参考記事:「西野ジャパン躍進の要因は3つある!」C大阪ユン・ジョンファン監督が語るハリル体制との違い)

そんな西野監督とゆかりの深い韓国人指導者がいる。パク・ドンヒョクがそのひとだ。

現役時代はシドニー五輪などに出場し、韓国代表としても活躍。2008年度Kリーグ・ベストイレブンにも輝いたパク・ドンヒョクは、2009年にJリーグ進出。ガンバ大阪、柏レイソルでプレーした、元コリアンJリーガーだ。

2014年シーズンを最後に現役引退し、蔚山現代(ウルサン・ヒョンデ)のスカウト、2軍コーチなどを経て今季からK2リーグ(2部リーグ)の牙山(アサン)ムグンファの監督に就任。まだ39歳の監督1年生ながら、チームは今季K2リーグの首位を走っている。指導者に転身したコリアンJリーガーの中でも、早くに成功を残している青年監督だ。

(参考記事:Jリーグ25周年の今だからこそ知りたい!! 韓国人Jリーガー、あの人たちは“いま”)

そんなパク・ドンヒョク監督がJリーグで最初に師事した指導者が、西野朗監督だった。最初に移籍したガンバ大阪は当時、西野監督が率いており、パク・ドンヒョク監督にとっては初めて日本人指導者のもとでのプレーでもあったので、その記憶は今も鮮明だという。

パク・ドンヒョク監督(写真協力=FA photos)
パク・ドンヒョク監督(写真協力=FA photos)

「西野監督とのことはよく覚えていますよ。Jリーグ1年目で、僕にとっては初めての日本人監督でしたから。日本に来て何もわからない僕にも良くしてくれて、とても良い印象を持っています」

だから今年4月に日本代表監督に就任したニュースを聞いたときも驚かなかったらしい。西野監督が柏レイソルを率いていた時代にレイソルのキャプテンを務めたホン・ミョンボも、かなり以前から「西野監督はいつか日本代表監督になる」と予言していたが、パク・ドンヒョク監督もそう感じていたという。

(参考記事:「将来、日本代表監督に必ずなる」ホン・ミョンボが明かしていた西野朗監督との交流と絆)

「一言で言うと、目には見えないけど、そばに近づくだけでとても強烈なカリスマ性を感じる監督でした。“見えないカリスマ”を放つ名将という感じです」

“見えないカリスマ”とは具体的にどういうことなのか。パク・ドンヒョク監督は振り返る。

「普段の西野監督は口数も多くなく、選手たちにあれこれ注文するタイプでなかったんですね。日本の指導者はもっと細かい指示が多いと思っていたので意外でした。

でも、決して放任主義ではない。選手をがんじがらめにするではなく、選手たちがチームの課題や問題点を自然と探し出し改善に向けたアクションを起こせるような雰囲気を作ってくれる指導者でした。

それに普段は口数が少ないせいか、ときおり放つ一言の重みというかインパクトがとても大きく、その言葉が選手たちに響くというか、ストーンと落ちて来る。意図したものかどうかは定かではありませんが、僕はそうしたところに目には見えないけど西野監督が持つカリスマ性のようなものを感じました」

ただ、普段は無口であってもピッチを離れると気さくで、選手たちのことを何かと気にかけてくれる監督でもあったという。

「“日本のキムチは美味しいか?”“口に合うか?”と何かと気にかけてくれましたし、“ドンヒョクは彼女いるのか?”など、冗談を振ってきてよく和ませてくれました(笑)。

僕のレイソル移籍をものすごく反対したのも西野監督でした。ただ、最後は西野監督も受け入れてくれて、“レイソルに行ったらガンバが悔しがるくらいの活躍を見せてくれ”と送り出してくれました。そういう人柄も含めて、いろいろと感謝している監督です」

サッカーに関しても影響を受けたという。

「DFだからといって守ることばかりを意識せず、奪ったボールをいかに中盤や前線につなげていくべきか、戦況に応じて守備ラインをどう上げ下げすべきかなど、西野監督から影響を受け、学んだことも多い。ガンバ時代に西野監督のもとで学んだことは、指導者となった今、確実に生かされています」

その若さから韓国では“兄貴分的リーダーシップ”とも。(写真協力=FA Photos)
その若さから韓国では“兄貴分的リーダーシップ”とも。(写真協力=FA Photos)

西野監督の指導スタイルとサッカー哲学は、日本代表にもポジティブな影響をもたらしたのではないかと感じているという。

セレッソ大阪のユン・ジョンファン監督は、韓国の『スポーツ・ソウル』に寄稿したほかの特別コラムの中で、「西野監督は選手たちの心を動かして信頼を得て、闘争心まで備えるようにした」と評価していたが、パク・ドンヒョク監督もそれに近いことを感じているという。

(参考記事:C大阪ユン・ジョンファン監督がコロンビア戦を分析。日本と韓国は何が違ったのか)

「日本代表の試合はハリルホジッチ前監督の頃からテレビなどを通じて観ていますが、明らかに変化を感じます。それは戦術的なことだったり、技術的なことではありません。なんて言えばいいのかなぁ。選手全員がひとつになってまとまり、チームとして強固になったように映ります。

そして、それが西野監督だけが持つ魅力でもある。先ほど言った“目に見えないカリスマ”ですよ。本田圭佑選手もきっと、西野監督の“目に見えないカリスマ”を感じ、そこに信頼を寄せているはず。

実際、スーパーサブであっても不平不満を言っていませんよね。そこが前任者との違いであると思うのですが、テレビで観ると西野監督も少し変わりましたよね。

あまり注文や指示が多いタイプではないはずだったのに、テクニカルエリアに出ずっぱりで選手たちにいろいろと声をかけているようでしたから(笑)。今度のポーランド戦もテレビで見守りますよ」

そう冗談を言いながら笑ったパク・ドンヒョク監督。韓国の元教え子も西野ジャパンに大きな注目を寄せていることは間違いなさそうだ。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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