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韓国対メキシコ……不吉さ漂う「20年前の悲劇」と「64年のジンクス」

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
スウェーデン戦後キム・ミヌを励ますソン・フンミン(写真:ロイター/アフロ)

ロシア・ワールドカップを戦う韓国代表が背水の陣を迎える。スウェーデンとのグループリーグ初戦を0-1で落としてしまっただけに、さらに黒星を増やすことになれば、最終戦を待たずして目標とする決勝トーナンメント進出が失敗に終わる。

それだけに本日行われるグループリーグ第2戦が韓国ロシア戦記の生死を賭けた戦いになる。

決戦の地となるロストフ・ナ・ドヌは首都モスクワから900km強離れているが、大事な一戦に挑む選手たちを激励しようと、ソン・フンミンの父やファン・ヒチャンの母に姉など、選手たちの家族もスタジアムに駆けつけるという。

スウェーデン戦の敗北を受けて一部の選手がネット上での人格攻撃にさらされる一方で、傷心の選手たちを支え激励する家族の存在も韓国ではクローズアップされているようだが、家族や人生のパートナーたちが傍らで見守ってくれることほど、心強いことはないだろう。

(参考記事:【画像】ソン・フンミンの「恋人」は? 韓国代表の「美女パートナー」たちがかわいすぎる!!)

ただ、これから戦うメキシコは韓国にとって分が悪い相手だ。

過去の対戦成績は12戦4勝6敗2分け。

2002年1月にアメリカで行われたゴールドカップでの対戦(0-0ながら韓国がPK戦の末に準決勝進出)や、フース・ヒディンク監督が率いて挑んだ2001年コンフェデレーションズカップでの対戦(2-1で韓国が勝利)など、韓国の勝利を現場で見届けることもあったが、メキシコ戦と聞くと、筆者の脳裏にも苦い思い出のほうが先に過る。

特に忘れられないのが1998年フランス・ワールドカップでの対戦だ。

このとき、韓国は当時ヴィッセル神戸に所属していたハ・ソッチュのFKで前半28分に先制するも、その2分後にはハ・ソッチュがラフなタックルで一発退場。数的不利に立たされ、1-3の大逆転負けを喫している。

パリ郊外の宿舎で終始うつむいて沈んでいたハ・ソッチュの後ろ姿と、のちに彼が明かしてくれた「人生でもっとも苦しかった時期」という言葉に、ワールドカップの怖さを痛感させられたものだった。まさに天国から地獄に突き落とされたような悲劇だった。

(参考記事:Jリーグ25周年の今だからこそ知りたい!! 韓国人Jリーガー、あの人は“いま”

そんな苦い思い出が付いて回るメキシコに、韓国はふたたびワールドカップの舞台で対峙することになった。それもグループリーグ2戦目というところに、さらなる縁起の悪さを感じてしまう。

というのも、かれこれ20年近く韓国のワールドカップを取材してきたがグループリーグ2戦目に良い記憶はないのだ。

98年大会ではオランダに0-5の惨敗を喫しているし、2002年大会ではアメリカ相手に先制を許し、終盤にアン・ジョンファンのヘッドで辛くも追いつくのが精一杯だった。

06年大会でパク・チソンのゴールでフランス相手にドローに持ち込むが、2010年大会ではアルゼンチンに1-4の大敗。前回14年ブラジル大会では、ヴァビド・ハリルホジッチ率いたアルジェリアに2-4で苦杯を舐めた。

さらに時代を遡っても、94年大会ではボリビアに0-0、90年大会ではスペインに1-3、86年大会ではブルガリアに1-1。韓国がワールドカップ初出場した54年大会ではトルコに0-7の大敗に塗れている。

つまり、韓国はグループリーグ2戦目で一度も勝ったことがなく、それは “2次戦ジンクス”とさえ言われているほどなのだ。

分が悪い過去の対戦成績に、苦い思い出。さらには韓国にとって鬼門となるグループリーグ第2戦で、韓国の前に立ちはだかるメキシコ。

メキシコはグループリーグ初戦で、前回王者にしてFIFAランク1位のドイツに0-1の勝利を飾っており、波に乗っている状態だ。現場で取材する韓国記者のひとりは「もしも韓国がメキシコに勝てば韓国が世界最強になるけど、さすがにそれは期待できないでしょう」ともこぼしていた。

前回王者にしてFIFAランク1位のドイツを下したのだから、今やメキシコは暫定的な世界最強。そのメキシコに勝てば、韓国がさらに暫定的に世界最強となるが、それは天地がひっくり返っても難しいという皮肉と自虐が込められていることは言うまでもない。

韓国記者たちが自国代表に寄せる期待は大会前から決して高くはなかったが、初戦を落とした上に“負のジンクス”がある2戦目で、分が悪く勢いに乗るメキシコと対峙することになっただけに、半ば諦め気味なところがあるのも事実なのだ。

グループリーグ初戦を終えた直後に報じられたセレッソ大阪ユン・ジョンファン監督の日韓比較でも、「試合に集中して献身するマインドは韓日両国ともに同じだったが、自信と積極性が違った」と、韓国の自信のなさが指摘されている。

(参考記事:C大阪ユン・ジョンファン監督がコロンビア戦を分析。日本と韓国は何が違ったのか

果たして韓国はそんな“三重苦”を跳ね返して、グループリーグ突破に望みをつなげることができるだろうか。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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