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選手村で“冷や飯”を食べた者もいた! “メガネ先輩”を輩出した韓国のカーリング事情とは?

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
女子カーリング韓国代表(写真:ロイター/アフロ)

いよいよ迫ってきた女子カーリングの準決勝の日本対韓国戦。日本は史上初めて準決勝に進出しメダル獲得への期待が高まるが、カーリングへの関心と注目なら韓国も負けてはいない。

予選リーグを8勝1敗でトップ通過しただけに、韓国でもカーリング熱が俄然、高まっている。

「平昌五輪、カーリング人気が熱い」(『聯合ニュース』)、「“人気急上昇”カーリング代表、選手のファンサイトも登場」(『Newsen』)、「カーリングの人気が大爆発、観戦チケットを買えたら勝ち組」(『ジョイニュース24』)など、多くのメディアがカーリングを大々的に取り上げており、全国紙『中央日報』などは、「韓国を席巻するカーリング・シンドローム」と伝えているほどだ。

「韓国のメガネ先輩VS日本の“美顔”スキップ」

中でも注目されているのが、日韓のスキップだ。

日本のスキップを務める藤澤五月が韓国の人気女優パク・ボヨンに似ていることから、かの国でも話題を集めていることは多くの日本メディアで取り上げられている通りだが、韓国のスキップを務めるキム・ウンジョンの人気も負けてはいない。

日本でも“メガネ先輩”の愛称ですっかり有名になったキム・ウンジョンは、韓国では今やアイドル顔負けの人気者になっている。

彼女のSNSは一気に話題になっただけではなく、平昌五輪開催期間中に「キム・ウンジョン応援コーナー」も立ち上がり、フォロワー数が急増。瞬く間にフォロー数の上限を超えてしまい、第2、第3の「キム・ウンジョン応援コーナー」が立ち上がっている状態だという。

(参考記事:メガネを外した“メガネ先輩”が超絶かわいい!! 韓国カーリング女子キム・ウンジョンのSNSがスゴい!!

そんなふたりの人気者の対決として報じるメディアも多い。

「キム・ウンジョンVS藤澤…女子カーリング韓日戦、事実上のスキップ対決」(『OSEN』)、「注目される韓日戦、キム・ウンジョンと藤澤のプライド対決に関心」(『MKスポーツ』)、「韓国のメガネ先輩VS日本の“オルチャン(美顔という意味)藤澤五月の対決」(『毎日日報』)といった具合だ。

韓国カーリングの未熟な環境

もっとも、これまで韓国のさまざまなスポーツを取材してきた立場からすると、今の盛り上がりはまったく想像できなかったものだ。

そもそもこれまで韓国では、カーリングはマイナー種目の一つだった。

韓国にカーリング競技連盟ができたのは1994年と歴史は浅く、競技者人口も800人ほどに過ぎない。カーリングができる専用競技場も全国に5カ所しかない(4か所という説もある)。

また、女子の成人部は4チームしか存在しない。国内での競争にも限界があり、実戦で実力を伸ばすことも難しいわけだ。

ウィンタースポーツ不毛の地と言われてきた韓国では、実はフィギュアスケートなども環境面の遅れが指摘されてきたが、カーリングもその例に漏れないのである。

それゆえにカーリングの代表選手たちは韓国で冷遇されることもあったという。

過去には、あらゆる種目の代表選手たちがトレーニングを行なう泰陵(テルン)選手村でもカーリング代表選手たちには食事が提供されず、更衣室で椅子を並べて出前のキムチチゲを食べていたことが報じられ、物議を醸したこともあった。

平昌五輪に向けた対策

それもこれも、韓国ではカーリングがマイナースポーツだったこととも関係しているが、そうした辛酸をなめた選手たちがオリンピックとという檜舞台で活躍しているからこそ、韓国の人々も沸いているわけだ。

ただ、韓国スポーツ新聞記者たちに聞いた話を総合すると、韓国の代表チームは今大会に向けてさまざまな対策を実施してきたという。

例えば、海外遠征で場数を踏み、実力を磨いてきたことが挙げられる。代表チームの関係者によれば、年間におよそ12の国際大会に出場してきたというのだ。

前出のキム・ウンジョンも、韓国メディアの取材にこう話している。

「最近は、五輪で戦うチームとも試合を行ってきました。その経験によって自信を持つことができましたし、平昌五輪でもリラックスしてプレーできています」

また、2016年には、カナダやスコットランドで指導者として活躍したカナダ人のピーター・ギャラント氏をコーチとして招聘し、戦略面の強化に乗り出した。ギャラント氏も韓国メディアの取材にこう答えている。

「韓国チームに合流した当初から、戦略に焦点を合わせてきました。実際、技術的な部分は他の国と比べても遜色がありませんでしたから。彼女たちは、すばらしい選手たちですよ。指導の意図をすべて飲み込み、鋭い戦略を立てています」

もともと韓国代表は、出場する5人中4人が幼馴染であることもあって、チームワークには定評があったが、今大会に向けて経験と戦略にも自信をつけたわけだ。

(参考記事:藤澤五月と競う“メガネ先輩”の由来は日本の漫画だった? 韓国カー女たちの素顔

そんな女子代表の躍進を受け、韓国で高まるカーリング熱。

キム・ウンジョンをはじめ、いまや選手たちは平昌五輪を盛り上げる“7大美女アスリート”をも凌ぐ人気を集めているが、今日の日韓戦にも熱い視線が送られることだろう。

韓国のスポーツ新聞仲間たちの間では、2008年北京五輪の野球準決勝、2012年ロンドン五輪の男子サッカー3位決定戦に続く“日韓ビッグマッチ”になるという意見もある。

どちらも最高のパフォーマンスを発揮し、素晴らしい名勝負になることを期待したい。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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