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韓国文学界版“Me Too運動”の始まりか。ノーベル賞候補にも上がる詩人に“セクハラ疑惑”

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
写真はイメージ(ペイレスイメージズ/アフロ)

世界中で注目を集めている“Me Too(私も)運動”。韓国でも女性検事の告発により、法曹界でもセクハラ行為が横行している事実が明らかになったばかりだが、今度は文学界が揺れている。

韓国を代表する詩人で、ノーベル文学賞の候補としても取り上げられるコ・ウン(高銀)が“セクハラ疑惑”で苦境に立たされているのだ。

事の発端は、一編の詩だった。女性詩人チェ・ヨンミが発表した『怪物』という作品であるが、その詩の冒頭は以下のように書かれている。

「スーツの上着がしわくちゃになった」「Me too」

「En先生の横に座るなと/文壇初年生の私にK詩人が忠告した/若い女を見れば触ると/Kの忠告をうっかり忘れてEn先生の横に座ったら/Me too/トンセン(韓国語で「兄弟・姉妹」のこと)から借りたスーツの上着がしわくちゃになった」

つまるところ、「En先生」からセクハラを受けたという内容だ。読み方によっては「En先生」の悪行を告発するような詩にもなっている。

詩にも明記されているように、最近は韓国でも「Me too」運動が高い支持を受けているが、韓国文学界版“Me Too運動”の一端とも言えなくもないだろう。

(参考記事:ついに火がついた!? 根深いセクハラ問題を抱える韓国で“Me Too運動”が高い支持を受けている

見逃せないのは「En先生」という登場人物には、「100巻の詩集を出した」「ノートル賞(原文ママ)候補としてEnの名前が取り上げられるたび」といった経歴まで付与されていたことだ。日本ではまだそれほど知られていないかもしれないが、韓国人であれば誰もが“民族的詩人”コ・ウンを想像するに違いない。

チェ・ヨンミ本人はコ・ウンであると断言していないものの、2月17日にはフェイスブックに「私だけでなく彼によって苦しみを受けた多くの女性へ、怪物からのまともな謝罪、公式的な謝罪と反省を望む」と綴り、実在の人物であることを強調したのである。

他の詩人や作家も加勢

また、別の詩人リュ・グンは、自身のフェイスブックに「知らなかった? コ・ウン詩人のセクハラ問題が“ようやく”水面上に表れた模様」と断定。ユン・ダンウという作家もツイッターに「一体チェ・ヨンミ詩人の言葉のどこが驚くポイントなのか」と書き込み、長らくコ・ウンのセクハラが公然と行われていたことを強調した。

韓国文学界では以前にも、セクハラ問題が話題になっている。とある若手詩人が男性作家たちが女性作家を侮辱したり、性の対象として扱ったりした具体的な事例を告発していた。

(参考記事:「コップをズボンの前に持っていき…」若手詩人が暴露した韓国文学界の“女性嫌悪”

韓国メディアも断定こそしていないものの、「“セクハラ騒動”コ・ウン詩人、水原を離れる」(『東亜日報』)、「『怪物』のEnはコ・ウンなのか? チェ・ヨンミ詩人の暴露」(『韓国日報』)などと疑惑を報じている。

ノーベル賞の希望は絶望に…

韓国のネット民たちも怒りを隠せないようで、「なぜコ・ウンを放っておくのか。今すぐ捕まえてしまえ」「コ・ウンは被害者に謝罪して静かに去れ」「これ以上ノーベル賞云々するな。猥雑だ」などといった反応示している。

毎年ノーベル賞シーズンが訪れるたびに「コ・ウン、受賞なるか」と話題になっていたように、“ノーベル賞コンプレックス”に苦しむ韓国にとっては希望の存在だっただけに、期待を裏切った反動はすさまじいものがあるのだろう。

(参考記事:“ノーベル賞コンプレックス”に苦しむ韓国に世界的科学誌が突きつけた厳しい指摘とは?

韓国メディアによれば、コ・ウンはセクハラ疑惑に対して公式的な立場を表明していないという。

はたして今回の疑惑に弁明の余地は残されているのか。事態の進展をもう少し見守る必要があるだろうが、少なくても韓国でコ・ウンはすでに、誰もが尊敬する民族的詩人から疑惑の対象に成り下がっていることだけは間違いない。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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