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暴行事件に手続きミス、「スキーをやめる」という選手も出ている韓国・平昌五輪の不手際

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
シム・ソッキ(中央)はソチで3つのメダルを獲得したエースだ(写真:ロイター/アフロ)

平昌五輪の開幕が間近に迫る中、開催地の韓国で選手たちの士気を下げる競技連盟・協会の残念な不祥事・不手際が相次いでいる。

韓国スケート連盟の嘘

例えば、今月16日にはショートトラック女子の金メダル候補シム・ソッキがコーチから暴行を受ける事件が起こったが、この事件を巡る韓国スケート連盟の対応に批判が殺到している。

(参考記事:韓国に衝撃…ショートトラック金メダル候補シム・ソッキにコーチが暴行

というのも、事件の翌日は、文在寅大統領と選手たちの晩さん会が催されたのだが、シム・ソッキは暴行を受けたショックにより選手村を離れていたため欠席。

その際、スケート連盟が青瓦台に「シム・ソッキはインフルエンザにかかったため、晩さん会に参加できない」と嘘の報告をしていたというのだ。スケート連盟が暴行事件を隠蔽しようしたことは明らかだ。

しかもスケート連盟は、この虚偽報告に対する謝罪もしていない。そればかりか、暴行を加えたコーチに「永久除名」と厳罰を科したのに対し、連盟内部には何の処分も下さなかった。コーチ一人にすべての責任を押し付けたわけだ。

かねてから韓国スケート界では問題が絶えなかったが、連盟の対応の甘さは何も変わっていないのである。

(参考記事:セクハラ、飲酒に続き今度は違法スポーツ賭博が発覚!! それもコーチや未成年まで!!

スケート連盟の不祥事は、これだけではない。最近は、スピードスケート女子団体追い抜き韓国代表に選出されていたノ・ソンヨンに五輪出場資格がないことが判明し、物議を醸している。

本来は、個人種目の出場権を得なければ団体追い抜きの出場権は与えられないが、スケート連盟はその国際規定を正しく理解しておらず、ノ・ソンヨンは個人種目出場権獲得には本腰を入れてこなった。スケート連盟を信じ、五輪を目指して団体追い抜きの練習だけに力を注いできたのだ。

ところが開幕直前になってノ・ソンヨンに団体追い抜きの出場権がないことが発覚。ノ・ソンヨンの気持ちを考えると、やりきれない状況だ。

結果的には、ロシア選手の脱落によって、奇跡的にノ・ソンヨンは五輪出場権を獲得しているが、彼女が連盟に対する不信感から代表入りを拒絶しているため、平昌五輪の出場は本人の意向次第となる状態だという。

「もうスキーをやめる」

こうした不手際を起こしているのはスケート連盟だけではない。韓国スキー協会の不手際も発覚した。

前述のノ・ソンユンの騒動と同様、土壇場になってスキー種目の代表選手に五輪出場権がないことが明らかになったのだ。しかも、五輪への道を閉ざされた選手は、5人もいる。

これまで韓国代表として合同でトレーニングを行ってきた選手は9人。彼らは全員で平昌に行くと信じて練習を続けてきたが、ふたを開けてみれば、韓国が持っていたスキー種目の出場枠は4つ(男子2、女子2)しかなかったのだ。

見過ごせないのは、スキー協会がもともとその事実を認知していたことだ。

しかも、スキー協会は、9人全員に韓国代表選手団のユニホームを支給するなど、“思わせぶり”な行動もとってきた。平昌五輪に臨む全選手が参加した壮行会にも、9人全員を参加させた。

そんな中で、大会開幕2週間前の1月26日に突然、代表選手4人(チョン・ドンヒョン、キム・ドンウ、カン・ヨンソ、キム・ソフィ)を発表。当落にかかわらず、選手たちにとっては、まさに青天の霹靂だろう。

スキー協会関係者は、選手たちに出場枠のことを伝えていなかった理由について、こう説明している。

「一緒に練習を行う選手たちの士気が落ちると思い、五輪の出場基準を伝えられなかった。大会直前に選手たちがショックを受けると想像できなかった点は、私たちに落ち度がある」

それでも選手たちが受けた傷はあまりに大きい。代表団の結団式に参加しながら落選したキョン・ソンヒョンなどは、父親に「もうスキーをやめる」とこぼしているほどだという。

過去には韓国水泳協会の根深い不正が一因となり、金メダリストを“沈没”させてしまったこともあったが、今回、スケート連盟とスキー協会が起こした一連の不祥事・不手際の一番の被害者も、選手たちであることは間違いない。

(参考記事:賄賂、横領、選手選考にも不正があり逮捕者も…汚れすぎている韓国水泳業界

4年に一度のオリンピック出場を目標に、青春をかけてきた選手たちのことを思うとやりきれなくなる。まして平昌五輪開幕はもうすぐ目の前なのだ。韓国スケート連盟と韓国スキー協会は、今回の事実を重く受け止め、今一度、自らを省みるべきだろう。選手の士気を下げるようなことは、あってはならない。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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