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勝点3どころか1も難しい…韓国の“死の組”入りを現地記者たちはどう受け止めているのか

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
(写真:ロイター/アフロ)

ロシアW杯のグループリーグ組み合わせ抽選会が12月1日に行われ、韓国はF組に入った。同組で対戦するのは、前回王者のドイツ(FIFAランキング1位)、メキシコ(16位)、スウェーデン(18位)と強豪ぞろいだ。

それだけに、抽選結果には韓国メディアも悲鳴を上げている。

「なんてことだ…シン・テヨン号、ドイツ・メキシコ・スウェーデンとF組」(『スポーツソウル』)

「ロシアW杯組み合わせ抽選…“死の組”に入ったシン・テヨン号」(『JTBC』)

「2018ロシアW杯組み合わせ抽選、“ドイツ”が最後の相手でさらに大きくなった“負担”」(『OSEN』)

といった具合だが、韓国代表はアジア最終予選から苦戦を続けており、ほんの数カ月前までは息も絶え絶えだっただけに、韓国サッカー界にとってはなおさらショックが大きかったのかもしれない。

(参考記事:英雄パク・チソンも気に掛ける「韓国サッカーが今、直面している問題」とは?)

そんな韓国メディアの生の声を知りたくなり、韓国のサッカー専門メディア『FOOTBALLIST』のリュ・チョン記者に話を聞くと、「D、E、F組は、“死の組”と言えるでしょう」と切り出された。

「D組は、強豪のアルゼンチン、アイスランド、クロアチアに、ポット4でもっとも実力のあるナイジェリアまで入り、展開が読めない組み合わせとなりました。ブラジルはE組に属しましたが、スイス、セルビアはもちろん、ディフェンスに定評のあるコスタリカも難敵になります。そして、韓国が入ったF組には、絶対王者ドイツがいる。メキシコとスウェーデンも、16強を目指しているチームです。両国がドイツには勝てないと前提すれば、間違いなく、韓国は標的にされるでしょう。厳しい戦いになることは間違いありません」

韓国がF組に入ったことを悪条件として受け止めているわけだが、その一方で、F組に入ったことを“チャンス”ととらえているサッカージャーナリストもいた。韓国のサッカー専門誌『FourFourTwo』のホン・ジェミン編集長は、こう話す。

「W杯は、ベストコンディションの世界的強豪と戦える唯一の機会です。韓国をはじめ、アジアの国々が、W杯で好成績を残すことは現実的に難しい。それならば、トップクラスのチームと真剣勝負をするチャンスにした方が合理的ではないでしょうか」

もっとも、それは逆に言えば、今大会の成績には期待が持てないということでもあるだろう。実際、ホン・ジェミン編集長は、F組の順位を「1位からドイツ、メキシコ、スウェーデン、韓国」と予想する。

韓国がグループ最下位に終わると考えているのは、一般紙『中央日報』スポーツ部のサッカー班チーム長のソン・ジフン記者も同様だ。

「ドイツは優勝候補の筆頭。メキシコはW杯で6大会連続で16強以上の成績を挙げている。“守備サッカーの教科書”イタリアにも勝る強固な守備力を誇るスウェーデンも強敵です。予想は、スウェーデンに引き分け、メキシコとドイツに連敗。韓国は、勝ち点“3”どころか、“1”を得ることも難しいでしょう」

これほどに韓国代表が信用されていないのは、成績の不振だけが理由ではないだろう。

今年6月に“火消し役”として急きょ新指揮官の座に就いたシン・テヨン監督の采配にもその一因はあるはずだ。というのも、これまでも大胆な戦術や采配が裏目に出てきたのがシン・テヨン監督でもあるからだ。

(参考記事:“消防手(ソバンス)”シン・テヨン監督は、なぜ韓国で今一つ信用されないのか?)

11月のAマッチでは、ウィングでプレーすることの多かったソン・フンミンをFWに起用したことが奏功し、元スペイン代表コーチを招聘するなど変化は生まれているが、それでもまだ、シン・テヨン監督体制のチームはW杯では通用しないと考えられているようだ。

前出のリュ・チョン記者も言う。

「韓国は、南米よりも欧州のチームとの対戦を得意としますが、ドイツは手に負えませんし、スウェーデンは守備が固い。簡単には崩せないでしょう。また、メキシコは、韓国がもっとも苦手とする、ボール占有率と技術を兼ね備えたチームです。W杯予選で苦戦が続いたとはいえ、容易く攻略できる相手ではありません」

それでも韓国がロシアW杯で存在感を示すことができるのは、ドイツとのグループリーグ最終戦にあるらしい。前出の『FourFourTwo』ホン・ジェミン編集長は語る。

「ドイツがメキシコとスウェーデンに連勝すれば、韓国戦にはベストメンバーを用意しないでしょう。そのため、韓国はドイツ戦に決死の覚悟で臨むべきです。引き分けに持ち込めれば、十分な成果ではないでしょうか」

16強入りを目標に掲げる韓国。“死の組”に入ったことで、国内にはすっかり諦めムードが漂っているが、W杯本番までに希望を取り戻せるだろうか。

(参考記事:「W杯は延命処置に過ぎない」ロシア行き確定でも前途多難な韓国サッカーの“現在”)

(初出:『サッカーダイジェストWEB』2017年12月6日掲載)

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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