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「W杯は延命処置に過ぎない」ロシア行き確定でも前途多難な韓国サッカーの“現在”

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
イラン戦翌日の韓国スポーツ新聞(著者撮影)

サッカー韓国代表がなんとかロシア・ワールドカップ行きを決めた。韓国代表は9月6日(現地時間9月5日)、タシケントでウズベキスタン代表とロシア・ワールドカップ・アジア最終予選を行ない、0-0のドロー。同時刻にグループA2位でロシア・ワールドカップ出場を決めた。

緊急登板の新監督は役目を果たしたが…

6月にドイツ人監督ウリ・シュティーリケ監督を更迭し、その後任候補を巡ってはさまざまな論争が起きるも、最終的には“ソバンス(消防手=火消し役)”の異名を持つシン・テヨン監督に任せることになったが、とりあえずその務めを果たしたことになる。

シン・テヨン監督を推した元Jリーガーの技術委員たちもホッっと肩をなでおろしていることだろう。

(参考記事:迷走する韓国サッカー界でついに始まった「不惑の猛者たち決起」)

これによって韓国は1986年メキシコ大会から続いていたワールドカップ連続出場記録を「9回」に伸ばした。一見すると結果オーライとすることもできるだろうが、なんともスッキリしない。

韓国メディア『マイデイリー』などは「ワールドカップ出場を決めても笑うことができない、カラーなき韓国サッカー」とどこか自嘲気味ですらある。

筆者も韓国サッカーの取材を始めてかれこれ20年になるが、今回ほど苦戦を強いられた予選はなかった。前回ブラジル大会も最終節で出場を決めたが、韓国がここまで追い詰められたのは初めてではないだろうか。

シン・テヨン監督になって挑んだ初陣のイラン戦は0-0と勝ちきれず、ウズベギスタン戦でも決定機を外しまくった。「予選突破」という実利を追求せねばならなかったとはいえ、普段から攻撃サッカーを提唱してきたシン・テヨン監督になっても2試合でノーゴールだっただけに拍子抜けといった感も否めないだろう。

「韓国はアジアBクラス。日本がうらやましい」

しかも、今回の最終戦予選で韓国はシリア(0-0)、イラン(0-1)、中国(0-1)、カタール(2-3)と、敵地で一度も勝利できなかった。3敗でも予選突破できたのだから、かなり運に恵まれたとしか言いようがないだろう。

「もはや韓国はアジアの強国ではない。アジアのBクラスに成り下がってしまった」とは旧知の韓国サッカー記者たちがこぞって口にする嘆きだ。先週のイラン戦直後には、ハリル・ジャパンがワールカップ出場を決めたこともあって、「日本がうらやましい」とこぼす記者たちも多かった。

就任時はどういうわけかハリルホジッチ監督を「クィシン(鬼神)」と呼び、何かと対抗心や厳しい指摘を繰り返してきた韓国メディアだが、最近はその手腕を高く評価しているほどなのだ。

(参考記事:「鬼神」「日本の良さを置き去りに」韓国が報じてきたハリル・ジャパンへの“無慈悲”な指摘の数々)

韓国のサッカー関係者たちが羨むのは、ハリル・ジャパンだけではない。日本は今季のACLで、浦和レッズ、川崎フロンターレがベスト8に駒を進めたが、Kリーグ勢は済州ユナイテッドだけしかグループリーグを突破できず、その済州も浦和戦で前代未聞の醜態をさらして姿を消している。

Kリーグ勢が1チームもACLベスト8に進出できなかったのは2008年以来9年ぶりのことだけに、関係者たちもショックを隠せない。「中国には資本で、日本にはシステムと環境で敵わないが、実力ならKリーグ」というのが韓国のサッカー関係者たちの心の拠り所であったが、もはや実力面においても韓国サッカーの地位失墜は明らかなのだ。

深刻すぎるKリーグの実態

何よりも深刻なのは、Kリーグの低迷ぶりだろう。Kリーグの不人気ぶりは以前から指摘されてきたが、近年は特に酷い。

1部リーグに相当するクラシックの平均観客数は1万人どころか、7000人も割り込む状態で、クラシック下位グループの江原FCの1試合平均は2000人前後しかならない。2部リーグに相当するチャレンジに至っては、1000人にも届かない試合すらある。

(参考記事:転げ落ちるようにKリーグの観客動員数がさらに激減…その原因はどこにあるか)

こうしたKリーグの人気低迷ぶりに関しては、有力選手たちの海外流失などによるスター不在や目の肥えたサッカーファンたちを満足させられないサッカーの質の低さなどがその原因として挙げられているが、それだけが人気低迷の原因ではない。

八百長問題や審判買収、さらにはその関与者であったスカウトが謎の自殺を遂げるなど、スキャンダラスな不祥事が続いていることも関係している。今やKリーグは自国民たちも愛想を尽かす状態なのだ。

振り返れば、そうした危機的状況に追い込まれるたびに韓国サッカーは「ワールドカップ」という名の刺激剤に助けられて、絶体絶命の命を取り留めてきた。極端に言えば、ワールドカップ出場切符が、韓国サッカーの延命処置になってきたとも言えなくもない。

今回も辛うじてその延命装置を手にすることができたわけだが、それが果たして韓国サッカーにとって本当に良いことなのだろうか。韓国のサッカー専門誌『FourFourTwo KOREA』編集長のホ・ジェミン氏も言っていた。

「これまでも韓国サッカーが窮地に立たされたことはありましたが、現在はこれ以上後退したら二度と立ち直れないのではないかと危惧するほどの状況。人の身体に例えていえば、どれだけ激しく転んだとしても体力が残っていれば立ち上がれますし回復もできますが、今の韓国サッカーにはその体力すら残っていないようなもの。もはや自ら治癒できる力すら残っていないのです」

ロシアには行ける。ただ、決まったのはそれだけのことだ。延命処置が施されることになったに過ぎないのかもしない。筆者もそう思えてくるのである。

ひとまずロシア行きを決めた韓国代表は今後、チームの立て直しを図る。先日取材したKFA(韓国サッカー協会)関係者によると、10月のAマッチ期間には欧州遠征に出て現地でアフリカ勢やヨーロッパ勢とAマッチを行なう計画があるという。

11月にも2度のテストマッチを予定しており、12月には日本で行われる東アジアカップに出場することになっているが、そこでも不甲斐ない姿を露呈することになるではないかと、少々憂鬱になってくる。

韓国サッカーの行く先はいまだ五里霧中にして前途多難だ。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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