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日本の高校野球への「名残」と「羨望」と「対抗」と。甲子園と韓国の“浅からぬ縁”

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
花咲徳栄の優勝で幕を閉じた今年の“夏の甲子園”(写真:岡沢克郎/アフロ)

“夏の甲子園”が終わった。第99回全国高校野球選手権は花咲徳栄の優勝で幕を閉じた。

埼玉県勢初の全国制覇は大きな話題を呼んでおり、今なお大会の熱気が余韻を残しているこの頃だが、お隣・韓国でも、甲子園大会が話題に上ることは少なくない。

かつては朝鮮半島からも甲子園出場校が!?

韓国で甲子園は“カプチャウォン(“甲子園”の韓国語読み)”の名で広く浸透しており、今年の大会についても「日本の高校野球の聖地“甲子園”の熱い夏」(『韓国経済』)、「年間80万人が訪れる日本の甲子園大会、経済効果は3500億ウォン」(『連合ニュース』)など、複数のメディアが試合結果や日本での盛り上がりについて報じている。

スポーツ新聞の『スポーツ京郷』などは韓国プロ野球界の名将とされるキム・ソングン監督による「キム・ソングン、甲子園観戦記」という短期連載まで掲載していたほどだ。

それだけ日本の“甲子園”は韓国でも有名である証と言えるが、実は韓国と甲子園には、浅からぬ縁がある。

振り返れば、まだ韓国が日本の統治下にあった戦前には、甲子園の前身大会である全国中等学校野球優勝大会に、当時の朝鮮半島の高校がいくつか参加していた。その中には、日本人との混合チームのみならず、朝鮮人だけで構成されたチームもあった。

(参考記事:朝鮮代表が前身大会に参加していた!? 甲子園大会と韓国の関係

ミス・コリアにプロのチアリーダーが来ても…

それだけに韓国でも甲子園は、“単なる隣国の野球大会”では収まらない特別な存在であるわけだが、興味深いのはかつての名残もあってか韓国でも夏の甲子園と同じ時期に、高校野球の全国大会が開かれている。

鳳凰大旗(ポンファンテギ)全国野球大会がそれで、ここには韓国中の高校野球チームがすべて参加している。高校野球の頂点を決める、まさに“韓国版甲子園”とも言える大会だ。 

実際、『韓国日報』は8月24日付の記事で「鳳凰大旗VS甲子園」と見出しを打ち、「8月に開かれる鳳凰大旗は、日本の高校野球における最高のイベントである甲子園に比肩する韓国高校野球の最高大会である」と伝えている。

ただ、正直なところ、甲子園と鳳凰大旗は比較にもならない。

日本の甲子園大会は地区予選を含め全国3839の高校が参加したが、鳳凰大旗の参加数は74校。韓国の高校野球部の数は、三桁にも届かないのだ。

それに鳳凰大旗には甲子園のような“熱さ”はない。

かつては韓国に高校野球ブームが巻き起こった時代もあった。

“春のセンバツ”出場経験もある在日球児たちのチームが、わざわざ韓国まで出向いて鳳凰大旗に出場していた時代もあったほどで、2014年には当時の熱戦の様子が『海峡を越えた野球少年』のタイトルでドキュメンタリー映画にもなっている。

ただ、最近はサッパリだ。もともと鳳凰大旗は韓国日報主催ということもあって始球式にミス・コリアの受賞者たちが登場するなど(韓国日報はミス・コリアの主催者でもある)、大会を盛り上げるためにさまざまな趣向を凝らした演出が行われてきたが、なかなか盛り上がらない。

8月12日に開幕した今年の大会(第45回大会)では今年は韓国で芸能人なみの活躍を見せているチアリーダーたちも開幕式に登場するなど、さまざまな話題作りに勤しんだが、それでも観客席には空席が目立っていた。

(参考記事:【画報】日本でも話題だが隣国ではさらに存在感がある!?韓国の“美女チアリーダー”事情

大谷翔平との日韓戦を想起させる大会になるか

その一方で、韓国でも近年、高校野球のあり方がいろいろと議論の的になっている。

韓国では高校生の時に注目された投手が、故障で投げられず、なかなか若手投手が育たず、そのことが近年の韓国プロ野球の打高投低現象の要因にもなっていると指摘されている。

そうした状況を打破しようと、2014年から“高校生投手酷使対策”が導入されているが、それ以外にも問題が多く決め手を欠いている状態なのだ。

だからこそ韓国が甲子園に向ける視線には、“羨望”の感情も込められているだろうし、また一方では“対抗心”もあるのだろう。

特に9月1日からカナダで開催される『第28回 WBSC U18ベースボールワールドカップ」間近に控えた現在、日本の選手たちの動向を無視することもできないのだろう。

高校野球の盛り上がりでは大きな差が生まれてしまっている日本と韓国だが、実際に両者が対戦したとき、どのような結果が出るだろうか。

ちなみに2012年にソウルで開かれたU-18世界野球選手権大会では、当時高校生だった日本ハムの大谷翔平らが2度にわたって韓国と対戦し、1勝1敗の熱戦を繰り広げている。

(参考記事:大谷翔平の高校時代を知る韓国の“大谷世代”たちは今、何をしているのか)

日本と韓国はカナダ大会では日本と韓国は別グループに入ったものの、互いに勝ち上がっていけば高校球児日韓戦として注目を集めそうだが……。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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