Yahoo!ニュース

ドゥテルテ大統領の戒厳令を受けて「特別旅行注意報」発令した韓国とフィリピンの“複雑な因縁”

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
戒厳令を出したフィリピンのドゥテルテ大統領(写真:ロイター/アフロ)

フィリピンのドゥテルテ大統領が南部ミンダナオ島などに60日間の戒厳令を出したことを受けて、韓国外交部は5月25日、同地域に「特別旅行注意報」を発令した。

韓国メディアの報道によると、韓国外交部関係者は「特別旅行注意報が発令した地域の旅行は、できるだけ取り消すか、延期して、緊急の用事がない限り撤退することを勧告する。ミンダナオ地域の治安の動向を注視し、特別旅行注意報を今後も維持していくかどうかを検討していく予定」と明かしているという。

夏の休暇シーズンを前に特別旅行注意報が出たことで、ボラカイ島など有名リゾート地の旅行を計画していた韓国人らは残念な思いをしている。旅行会社には「セブ島やボラカイ島の旅行をキャンセルしなければならないのか」との問い合わせが殺到しているそうだ。

韓国人にとってフィリピンは危険な国?

ただ今回の特別旅行注意報以前に、そもそもフィリピンは韓国人にとって“危険な国”とも言われている。

というのも、少なくない韓国人がフィリピンで殺人事件に巻き込まれているからだ。2013年~2015年にかけて、海外で殺害された韓国人は計79人に上るのだが、そのうちフィリピンで殺された韓国人は31人。全体の40%がフィリピンで被害に遭ったことになる。

(参考記事:ここ3年間で31人も!! フィリピンで韓国人の殺害事件が急増するワケ

去る5月20日にもセブ島で韓国人の殺人事件が発生しており、同23日に容疑者2人が現地警察に捕まったばかりだ。

事件を起こすフィリピンの犯罪者に問題があるのは明白だが、韓国人側にも対処すべきところは少なくないかもしれない。

夜遊び目的や犯罪者の逃走先に

例えば、韓国人旅行者の一部は、“夜遊び”を目的に同地を訪れているという実態が明らかになっている。2015年には、フィリピン人女性を買春したという韓国人男性207人が検挙されたという衝撃のニュースもあった。

(参考記事:“夜遊び”目的でフィリピンに訪れた韓国人男性207人が検挙の衝撃!!

とある韓国の大学生が関連書籍を発刊して話題になったが、韓国人男性とフィリピン人女性の間に生まれた混血児コピーノの問題も看過できるものではないだろう。

また韓国警察によると、韓国国内で犯罪に走りフィリピンに逃走する犯罪者は年々増加しているという。フィリピンで捕まった韓国人犯罪者は2014年33人、2015年47人、2016年84人となっている。84人という数字は、昨年韓国に送還された海外逃走犯297人の約30%を占める割合だ。

そのため首都マニラなどは、フィリピン警察庁初となるコリアンデスクが設置され、韓国の警察官が派遣されているほど。フィリピン人にとっては、良い印象ではないはずだ。

韓国を訪れるフィリピン人急増も遠因か

さらに、最近は韓国を訪れるフィリピン人観光客も増加。2015年の33万人から2016年は45万人と70%以上も急増しており、韓国を訪れたフィリピン人が悪い印象を持った可能性も否定できない。

それは、残念なことに韓国では外国人観光客、とりわけ女性観光客のトラブルが増えているからだ。オーストラリアでは、これまで「女性観光客にとって危ない国」ランキングのトップはインドだったが、最近は韓国の名が挙がるようになってしまったらしい。

(参考記事:外国人女性の被害続々…“女性観光客にとって危ない国”に落ちた韓国

いずれにしても、フィリピンには年間100万人の韓国人が訪れており、現地で暮らす韓国人も10万人に上る。何かと関係が深いだけに、フィリピンの情勢に注目している韓国人は少なくないようだ。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

慎武宏の最近の記事