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アジアを制した全北現代はCWCで「不都合な真実」を払拭できるか

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
10年ぶりにACLを制した全北現代(写真提供:FA photos)

今季ACLを制したのは、韓国Kリーグの全北現代(チョンプク・ヒュンダイ)だった。全北はUAEのアル・アインと決勝で激突。ホームで行われた1stレグで2-1の勝利を飾り、11月26日に敵地で臨んだ2ndレグでは1-1のドロー。合計3-2とし2006年以来10年ぶりのアジア王者の座に戴冠した。

Kリーグ勢の優勝は2012年の蔚山現代(ウルサン・ヒュンダイ)以来4年ぶり。まして近年のKリーグは資金面では中国に圧倒され、人気や環境面ではJリーグにも到底及ばず、韓国国内でもその存在意義を問われていただけに、ACL優勝でその面目が保たれというべきだろうか。

(参考記事:企業からも地方自治体からも愛されていないKリーグの知られざる実情

それをKリーグのなかでもここ数年、最もACLタイトル獲得に意欲を燃やしてきた全北現代が果たしたという点も見逃せない。

全世界150カ国に自動車を輸出しているヒュンダイ- キア自動車グループを母体企業とする全北は、Kリーグのなかでも特に資金力のあるクラブとして知られ、その年間予算は毎年300億ウォン(約30億円)以上になるとも言われている。

旧知の全北担当記者によると、その豊富な資金力を使って今季開幕前はロビン・ファンペルシーやフェルナンド・トーレスの獲得にも興味を持ったらしい。年俸550万ユーロ以上という条件で折り合いがつかず、結局は頓挫したものの、「もはやKリーグはセーリングリーグに落ちぶれた」と言われるなかで、全北は常に選手補強に積極的で挑戦的だった。

こうした投資と補強は韓国メディアでも評価されており、韓国のサッカー専門誌『ベストイレブン』も「全北天下、大きな絵のもとで継続してきた投資が結実を結んだ」としている。

実際、今季は元Jリーガーのキム・ボギョン、キム・チャンス、全南ドラゴンズからFWイ・ジョンホとDFイム・ジョンウン、済州ユナイテッドからブラジル人FWロペス、さらには蔚山現代から韓国代表の長身FWキム・シンウクも獲得。連覇を目指した今季Kリーグでも開幕早々から首位の座を守り続け、シーズン途中には中国に渡っていた元FC東京のブラジル人FWエドゥーを呼び戻す入念ぶりだった。

だが、今季の全北は「汚れた王者」というレッテルもついて回った。

5月下旬に全北現代のスカウトがKリーグの審判を買収していたことが発覚。3年前のこととはいえ、Kリーグの絶対王者たるクラブが裏で審判を買収していたという事実に、メディアやファンもショックを隠せなかった。Kリーグの過去の不祥事が次々と明るみになったほどだった。

しかも、一部のファンたちの間では「イタリアのユベントスのように優勝カップ剥奪に2部降格すべきではないか」という意見があるなか、Kリーグの賞罰委員会が全北現代に下した処罰は、「勝ち点9の剥奪と制裁金1億ウォン」のみ。

この制裁によって、全北は純粋な星取り勘定では今季もKリーグで圧倒的な強さを誇ったものの(20勝2敗16分け)、勝ち点9の剥奪処分を受けたため、Kリーグ連覇を逃している(優勝は21勝10敗7分けのFCソウル)。

それで十分制裁を受けたという意見もある一方で、サッカーファンたちのなかには(特に全北現代のライバルである水原三星やFCソウルのサポーター)、「ACL制覇も金で買収か」と皮肉る声もある。

(参考記事:ACL常連の全北現代に審判買収の処罰が下るも、身内に甘すぎるKリーグ

もっとも、韓国メディアの反応は概ね好意的だ。「通算2度目のACL制覇の全北、アジアをリードするクラブに君臨」(『スポータルコリア』)、「立て続けにあった悪材のなかでも最大の目標を達成したチェ・ガンヒ監督のリーダーシップ」(『OSEN』)など、審判買収スキャンダルも「試練を乗り越えた美談」として扱われている。

逮捕者まで出した審判買収問題にクラブがどう関与していたのかということをうやむやにしたままで「終わりよければすべてよし」的な論調には同調できないが、だからといって今回のACL制覇のために選手や監督が流した汗は否定できず…。

どう評価すへぎか今は判断に迷うところでもあるが、アジアを制した全北現代に“不都合な真実”があるのも、また事実なのだ。

だからこそ来月のクラブワールドカップで全北現代にはその真価を示する必要があるだろう。

すでにACL制覇で優勝賞金300万ドルを手にした。クラブワールドカップではたとえ準々決勝で敗れても150万ドルの賞金が入ることから、「アジアの頂点に立った全北、富と名声の両方を手にした」(『イーデイリー』)と報じる韓国メディアもある。ACL制覇がKリーグ優勝よりも格段に価値があることを裏付ける内容であったが、ACLやクラブワールドカップは単に賞金だけが魅力的なわけではない。

(参考記事:Jリーグに比べると、Kリーグの優勝賞金が「ショボすぎる!!」との嘆き

アジアを代表して世界に挑むのだ。自慢の“タッコンサッカー”をとことん貫き、その存在感を世界のサッカーファンに示してほしい。

はたしてアジアを制した全北現代は“不都合な真実“を吹き飛ばしてしまうほどの戦いぶりを披露できるか。来月のクラブワールドカップが今から楽しみだ。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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