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スポーツに純血主義を求めた韓国がなりふり構わず帰化政策に乗り出したワケ

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
特別帰化選手の補強が進むアイスホッケー韓国代表(写真:アフロスポーツ)

リオデジャネイロ五輪が終わった今、韓国で大きな関心を集めるスポーツ・イベントは2年後に自国で開催される平昌(ピョンチャン)冬季五輪だ。大会閉幕後、韓国メディアでは「さよならリオ、今度は平昌だ」(『国民日報』)、「リオの熱気を今度は平昌で」(『京畿日報』)といった特集記事も多く登場した。

ただ、その平昌冬季五輪は競技場や宿泊施設の建設や国内スポンサー確保など、問題が山積でもあるし、肝心の競技面においても課題が多い。

というのも、3度の立候補を通じて冬季五輪の誘致に成功した韓国だが、アルペンスキー、スキージャンプ、モーグル、ノルディックといた雪上競技はもちろん、ボブスレー、リュジュ、スケルトンも弱い。それは日本とのメダル獲得数比較でも明らかである。

オリンピックでメダルが確実視される競技や種目は「(国に)孝行している」という意味を込めて“ヒョジャ(孝子)種目”と呼ぶが、冬季五輪で韓国の“孝子種目”となっているのはショートトラックスケートとスピードスケ-トくらいなのだ。キム・ヨナが引退してからはフィギュアスケートでも深刻なタレント不足に悩まされている。

(参考記事:2年後の平昌は大丈夫? キム・ヨナ不在の韓国フィギュアの悩み)

こうした状況に危機感を募らせた韓国がひそかに着手している特効薬バツグンの強化策がある。

それは「特別帰化」の量産だ。アイスホッケーやバイアスロンなど、さまざまな種目で特別帰化による韓国代表が誕生している。それも韓国とは血縁もゆかりもない選手が、かなりの量で続々と帰化しているらしい。

(参考記事:平昌五輪のために外国人の特別帰化を続々と許可せざるを得ない韓国の実情)

長く韓国スポーツを取材してきた立場から言わせてもらえば、これは異例の出来事とも言える。というのも、例えば韓国サッカー界では「外国人選手を帰化させてまで国の代表に迎える必要があるのか」という風潮があった。

2000年にKリーグで活躍したタジキスタン人GKサリチェフが韓国名シン・ウィソン(=神の手という意味)の名で韓国初の帰化選手となり、その後もロシアのデニス(イ・ソンナム)などが帰化してKリーグでプレーしているが、サンドロやモッタなど韓国代表入りを前提に本人が帰化を希望しても実現しなかったケースが多い。

2011年に当時の韓国代表を率いていたチェ・ガンヒ監督が強く望んだブラジル人MFエディーニョの特別帰化申請も、大韓体育協会が「サッカーという種目の特別性を加味するとき安易な認可はできない」と、法務部への特別帰化申請推薦を棄却しているのだ。

だが、アイスホッケーやバイアスロンといった競技では特別帰化が次々と容認されている。このままでは開催国の威厳が保てないという心理が働いているためだろうが、その量産には賛否両論もあるようだ。

リオ五輪でも中国出身ながら卓球の韓国代表として出場したチョン・ジヒに対してはさまざまな誹謗中傷があったが、その比ではないほどの激論が交わされている。その中には日本では考えられないような辛辣な意見もあるようだが、これからも帰化選手は増えていく予定らしい。

(参考記事:薬となるか、毒となるか。韓国で急増する帰化選手に賛否両論)

韓国には“国籍変更ドーピング”という言葉がある。実力のある外国人選手を帰化させ、自国の代表強化を計ることを指す言葉だ。ドーピングという言葉は行き過ぎた感もあるが、韓国の強化策は果たして吉と出るか、凶と出るのか。

カンボジア代表として男子マラソンに出場した猫ひろしを賞賛した韓国で今後、特別帰化選手への“目”がどう変わっていくか注目したい。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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