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「イ・ボミに教えてきたゴルフ」を専属コーチに韓国で直撃取材してきた!!

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
チョ・ボムスコーチが育て指導するイ・ボミ(写真は2011年)(写真:アフロスポーツ)

昨季の日本女子ゴルフツアー賞金女王に輝き、日本でもバツグンの人気と実力を誇るイ・ボミ。もちろん、その名は韓国でも轟いている。それもただの人気ではない。韓国にも美女ゴルファーは大勢いるが、彼女はその外見だけではなく、影響力も大きい。以前、このコラムでもちらっと紹介したが、韓国のスポーツ新聞、ゴルフ専門誌の記者たちを対象にしたアンケート“2016年の韓国ゴルフを動かす10大人物”にも選ばれているらしいのだ。(関連記事:韓国女子プロが選んだ“禁断”の美女ゴルファーランキング。イ・ボミの順位は?

そんな彼女を支えるスタッフたちは“チーム・ボミ”の名で知られているが、そのスタッフたちの中でもイ・ボミが絶大な信頼を寄せる人物がいることをご存知だろうか。

名前はチョ・ボムス。イ・ボミが高校3年生の頃から師事しており、現在でもイ・ボミ専属コーチを務める人物だ。言わばプロゴルファー、イ・ボミの礎を築いた人物であり、彼女を頂点に押し上げた名伯楽なのだが、4月上旬、そのチョ・ボムスコーチにじっくりたっぷり取材できる機会を得た。

それも単純なインタビューではなく、名伯楽自らがクラブを握り、イ・ボミに施してきたレッスンの数々をきめ細かく実践。イ・ボミのスイングの変遷と分析までしてくれた。聞けば日本のメディアにその秘伝のレッスンを公開するのは初めてだという。同行したカメラマンによると、後日イ・ボミも「えっ!! チョ・コーチがレッスン取材を受けるなんて珍しい!!」と驚いていたらしい。本邦初公開となるチョ・ボムスコーチのレッスン大特集は『週刊ゴルフダイジェスト』に寄稿したので興味がある方はぜひともチェックしていただければと思うが、実際にチョ・コーチを取材して感嘆させられることが多かった。

例えば、多くのアマチュアゴルファーたちは スイングの“型”や“動作”に神経を使いがちだが、チョ・コーチは「インパクトさえ正確ならいいゴルフができる。ボミにもスイングで大事なのはインパクトだと教えてきた」というのだ。以前、イ・ボミにアイアン上達法を尋ねたとき「アマチュアはスイングでボールを飛ばそうとするけど、フルショットしなくても正確にボールをとらえれば自然と高く正しく飛んでいく。スイングで大事なのはインパクトの瞬間です」と語っていたが、その教えはチョ・コーチからのものだったわけだ。

(参考記事:イ・ボミのアイアン上達アドバイスと強いメンタルの秘訣

チョ・コーチの経歴にも驚いた。1953年生まれで63歳になるチョ・コーチは一見すると普通のナイスミドルだが、現役時代は韓国代表としても活躍し、1997年に指導者に転身すると数多くの選手を育て、アメリカの有名ゴルフ雑誌が選ぶ「世界の優秀コーチ50人」にも選ばれている。以前に行った長編ルポ『現地徹底ルポ!! 直撃取材でわかった!! 韓国ゴルフの強さと意外な真実』で取材したハン・ヨンヒ(元韓国代表総監督)なども「世界の優秀コーチ50人」に選ばれており、国家代表を頂点とする育成システムや独自のゴルフ理論を教えてくれたが、チョ・コーチも「メンタル、感覚、体力の調和」という独自のゴルフ哲学を持っていた。そういった独自哲学を持ち世界に認められたコーチが数多くいることが、韓国ゴルフの強さの一因なのだと改めて感じさせてくれた。

何よりも感銘を受けたのは、チョ・コーチとイ・ボミが確かな信頼関係で結ばれていることを確認できたことだ。「今日の成功の秘訣は?」と訊ねると、「ボミは私を信用し、私もボミを信じてきた。彼女が望み求めるゴルフと、私が理想とするゴルフが合致していることが大きい」という言葉が返ってきたのだ。そこに単なる師弟関係を超えた、確かな信頼関係を感じずにはいられなかった。

実際のところ、韓国女子ゴルフを取材すると、選手とコーチの良好な関係を目の当たりすることが多い。例えば“ゴルフ神童”と呼ばれる若きエースのキム・ヒョージュと、前出のハン・ヨンヒ総監督との小学校時代からの濃密師弟関係は有名であるし、昨季、日米韓でナショナルタイトルを制覇し一躍スター選手になったチョン・インジも「ゴルフは変数ではなく常数と戦うスポーツだ」という独特の思考をコーチから伝授されている。言い換えれば、コーチとの二人三脚が韓国女子ゴルフの強さを支えているとも言えなくもない。

そんな例に漏れず、確かな信頼関係で結ばれているイ・ボミとチョ・ボムス。「今のボミに私が教えることはないですよ」と謙遜気味に語っていたが、イ・ボミは韓国に戻るとかならずチョ・コーチのレッスンを受けるし、チョ・コーチが日本に駆けつけて朝から晩まで練習することも多いらしい。

「昔は私の練習が厳しく、ボミから“ホランイ(大虎)先生”と恐れられましたが、今は私も年をとったので怖くなれないんです(笑)。年寄り“ホランイ”ですよ」。そう言って柔和な笑顔を浮かべた名伯楽。人柄の良いイ・ボミの陰にこの人あり。そう思わせる笑顔だった。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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