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敵としては初、パナスタに遠藤保仁が戻って来る。ガンバ大阪とジュビロ磐田がJ1残留をかけて激突へ。

下薗昌記記者/通訳者/ブラジルサッカー専門家
ガンバ大阪史上最高のレジェンドが残留争いの大一番でパナスタのピッチに立つ(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

 「ここ以上のクラブはないと思いますので、期限付き移籍という形で一回離れますが、ガンバに戻ってきたいという気持ちは強く持っています」

 2020年10月5日、期限付きの移籍では異例となる記者会見を行った遠藤保仁は、ガンバ大阪への思いをこう語っていた。

 そして、2年の時を隔ててガンバ大阪史上最高のレジェンドは、パナソニックスタジアム吹田に初めて帰ってくる。ただし、残留争いのライバルの一員として。

「日程くん」がシーズン終盤に因縁の一戦を設定

 Jリーグの試合日程を自動作成するJリーグ・マッチスケジューラー、通称「日程くん」は毎年、シーズン終盤に神がかった対戦カードを設定しているが、今年もやはり、劇的なスケジュールが待っていた。

 10月29日にガンバ大阪のホーム、パナソニックスタジアム吹田で行われるジュビロ磐田戦は因縁と、特別な感情に満ちた一戦になることは間違いない。

 さかのぼること10年前。2012年12月1日は、ガンバ大阪のクラブ史上、最大の屈辱に塗れた瞬間だ。

 勝てば自力でのJ1残留を手にすることができたアウェイのジュビロ磐田戦でガンバ大阪は1対2で敗れ、クラブ史上初のJ2降格の憂き目を見た。

 いつもはポーカーフェイスを崩さない遠藤がタイムアップの瞬間、呆然とした表情を浮かべ、試合後のミックスゾーンにはやや目を赤くして姿を見せたのは今でも鮮明に記憶に残っている。

 そんな因縁を持つ両者にとって、今回の顔合わせは文字通りの「デスマッチ」である。引き分け以下でもジュビロ磐田は3度目の降格が決定するが、ガンバ大阪も敗れた場合には、即降格とはならないものの、他チームの結果次第ではJ1参入プレーオフ圏となる16位以下が決まる可能性があるのだ。

 直近の4試合は1勝3分でJ1残留に向けて執念を見せているジュビロ磐田だが、遠藤は直近の2試合で途中出場。固い戦いを志向する今のチーム状態で定位置を失っている格好ではあるが、ガンバ大阪戦ではレギュラーのボランチ、上原力也が出場停止。遠藤が5試合ぶりに先発する可能性はありそうだ。

 試合の流れを読む目と、一本のパスで局面を変えうる遠藤は、守備の強度に不安を抱えるもののやはり、ガンバ大阪にとって侮れない存在であるのは言うまでもない。

「老獪な選手もいる」。ガンバ大阪は遠藤をどう見ているのか

 松田浩監督は10月25日の公開練習後「老獪な選手もいる」と遠藤の存在に言及したがガンバ大阪サイドは、敵としてパナソニックスタジアム吹田に帰って来る42歳をどう見ているのだろうか。

 昌子源は「(意識は)特にない」と話したが、そのプレーに関してはやはりリスペクトを忘れない。

 「もちろんセットプレーの精度が一気に上がるのは怖さでもあるけど、逆に言うと、こちらも宇佐美(貴史)が戻ってきてキッカーの精度は上がっている。宇佐美と違う意味で、右足一振りで流れを変えられる選手」と名キッカーの一撃を警戒する。

 「元ガンバ勢」に対しての失点癖は今季も相変わらず。自陣ゴール近くで不用意なFKを与えることは禁物になりそうだ。

 一方、2020年のルーキーイヤーに遠藤から定位置を奪う格好になった山本悠樹も「遠藤選手とは1年目に少しだけ一緒にやったが、真似をするところもたくさんありました。ただ、今は選手同士の意識というよりは互いにチームとして勝たないといけない。そこに入れ込むことはなく勝つための準備をしていきたい」と過度に遠藤への意識を口にしなかったが、当然ながらその凄みは知っている。

 「あそこから前向きに出てくるパスは嫌らしいものがある。それは可能な限り出させてはいけないと源くんとも話したし、特にボランチの選手がそこに厳しく行くしかない」。山本の相方は出場停止から復帰する齊藤未月か、ダワンかは不透明だが松田監督も「遠藤選手が試合に出てきた場合で言えば、自由にやらせないということ。時間とスペースを与えないことが一番大事になる」と遠藤封じは意識済みである。

 「日程くん」の見えざる手で作り出された劇的な舞台。サポーター心理をよく理解する昌子は言う。「スタジアムの雰囲気もどうしてもやっぱり、ヤットさんが戻って来るとなれば、もしかしたら、少し歓迎ムードになるかもしれない」。

 倒すべき敵ではあるが、サポーターも含めて、誰もが抱くヤットへのリスペクトーー。プロフェッショナルとして遠藤はガンバ大阪の前に立ちはだかるが、ガンバ大阪もまた、遠慮なくジュビロ磐田に勝ちに行く。

記者/通訳者/ブラジルサッカー専門家

1971年、大阪市生まれ。大阪外国語大学(現大阪大学外国語学部)でポルトガル語を学ぶ。朝日新聞記者を経て、2002年にブラジルに移住し、永住権を取得。南米各国でワールドカップやコパ・リベルタドーレスなど700試合以上を取材。2005年からはガンバ大阪を追いつつ、ブラジルにも足を運ぶ。著書に「ジャポネス・ガランチードー日系ブラジル人、王国での闘い」(サッカー小僧新書)などがあり、「ラストピース』(KADAKAWA)は2015年のサッカー本大賞で大賞と読者賞。近著は「反骨心――ガンバ大阪の育成哲学――」(三栄書房)。日本テレビではコパ・リベルタドーレスの解説やクラブW杯の取材コーディネートも担当。

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