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昌子源の苦言が生かされなかったヴィッセル神戸戦。残り4試合でガンバ大阪に不可欠になるモノとは

下薗昌記記者/通訳者/ブラジルサッカー専門家
昌子源の懸念がヴィッセル神戸戦に生かされなかった(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

 「裏天王山」だったヴィッセル神戸との直接対決でガンバ大阪は先制しながらも、アディショナルタイムに痛恨の失点を許し、逆転負け。J1リーグで自動降格圏となる17位に転落した。下位の他チームより試合消化が1試合多いこともあって、文字通り崖っぷちに追い込まれた格好だが、一週間前となる9月10日に行われたFC東京戦のハーフタイムに、昌子源が発した苦言は、大一番で生かされていなかった。

FC東京戦のハーフタイムに昌子源があえて苦言を呈したワケ

 「ゲーム展開を考えればほぼ、うち(のモノ)だったと思う」とFC東京戦後、有利に試合を進めながらもドローに終わった90分をポジティブに振り返った昌子だったが、ハーフタイムには仲間に檄を飛ばしたという。

 きっかけは、前半終了間際に自陣のイージーミスで招いたカウンターでのピンチである。アダイウトンのシュートミスに救われたものの、昌子はあえて指摘した。

 「前半の最後の方かな、パスミスが2,3回続いて何てことのないホームランのシュートを打ってくれたから、OKとなっているけど、そうじゃないよね。『俺たちはそれで今まで勝ち点を失ってきた。相手が入れていないからOKじゃなくて、ああいうミスで何回自分たちが今年苦しめられたか』というのをハーフタイムに言った。何気ないプレーかもしれないけど、川崎(フロンターレ)なら仕留めていたかもしれない」

 そして、昌子の懸念は一週間後に的中する。

 後半38分、やや不運なPKで同点に追いつかれたガンバ大阪だったが、仮に1対1のドローだったとしても、勝点1を積み上げ、ヴィッセル神戸に順位で上回られることはなかった。

 しかし、後半48分、鈴木武蔵の痛恨のミスパスからカウンターを喰らうと、大迫勇也はゴール前で流石の勝負強さを発揮し、劇的な決勝点。昌子が引き合いに出した川崎フロンターレではなかったが、百戦錬磨の大迫は「仕留めてきた」のである。

 表面だけをなぞるならば、途中出場でピッチに立った鈴木のミスパスが原因だが齊藤未月は言った。

 「誰かのせいじゃない。今回はたまたま、武蔵君がミスをしたけど、これはチームの問題。チームの雰囲気だったり、今シーズンやってきたことがピッチに(結果として)落ちていくだけ。それは誰かのせいじゃなくて、自分たちがやっているものなので。どうにか、やっとチームが団結してやれているからこそ、粘り強く最後4試合戦えたらなと思う」

試合終了間際の悔やまれる失点の数々が招いた苦境

 残り4試合を残して17位という危険水域にどっぷり足を漬けているガンバ大阪だが、齊藤が語った通り「今シーズンやってきたこと」が順位に反映しているのである。

 今季、ガンバ大阪が試合終盤に決勝点や同点弾を喫した試合は実に7試合。失った勝点は実に11である。

 逆に終了間際に勝ち越したり、同点に追いついた試合はわずかに3。手にした勝点は5に過ぎない。

 下記に、今シーズンの終了間際の得点と失点をまとめてみた。

終了間際の失点

3月6日  第3節 川崎フロンターレ戦 2-2 △ 95分に失点

4月17日  第9節 湘南ベルマーレ戦 1-0 × 90分に失点

5月29日 第16節 サガン鳥栖戦 2-1 × 88分に失点

7月2日 第19節 浦和レッズ戦 1-1 △ 92分に失点

7月16日  第26節 セレッソ大阪戦 2-1 × 90分に失点

7月30日  第23節 京都サンガ戦 1-1 △ 97分に失点

9月18日  第30節 ヴィッセル神戸戦 2-1 × 93分に失点

終了間際の得点

3月14日 第4節 ジュビロ磐田戦 1-1 △ 88分に得点(レアンドロ・ペレイラ)

4月10日 第10節 清水エスパルス 1-1 △ 97分に得点(小野瀬康介)

8月31日 第24節 アビスパ福岡  0-1 ○ 94分に得点(パトリック)

まだ希望は残る残留争い。ただ、失点につながるミスは禁物だ

 片野坂知宏前監督のもとで、試行錯誤が続いたシーズンだったのは事実だが、終盤に喫した失点のいくつかは、指揮官の采配とは無縁の個人のミスによるものだったのも確かである。

 10月1日にホームで柏レイソルを迎え撃つガンバ大阪。引き分けでも限りなく苦しい立ち位置に追い込まれるのは間違いないが、ガンバ大阪にとって幸いなのは、最下位のジュビロ磐田を除けば、残留戦線は極めて僅差であるということだ。

 湘南ベルマーレ時代にも残留争いを経験している齊藤が、柏レイソル戦の前日のオンライン会見でメディア対応を行った。

 勝っても負けても歯切れのいい齊藤に、いかにイージーミスを防ぐか、を問うてみた。

 「もちろん、ミスは起きるもの。僕が個人的に思うのは1つのミスに対してチームがどういう反応ができるか。1人が起こしたミスに対して、誰かが助けてあげられるかが一番大事。サッカーはミスのあるスポーツだから」。

 残り4試合、ガンバ大阪にとって禁物となるのは、今季何度か繰り返してきた味方もフォローしきれないミスを犯すこと。

 今季わずか7勝のチームに残り4試合で4勝を求めるのはハードルの高いミッションだが、勝ちきれそうな試合を悔やまれるミスで取りこぼすことだけは、もはや許される状況でない。

 高すぎる授業料だったのは事実である。ただ、まだガンバ大阪のシーズンは終わっていないし、意地を見せうる力を持つ選手たちも揃っている。

記者/通訳者/ブラジルサッカー専門家

1971年、大阪市生まれ。大阪外国語大学(現大阪大学外国語学部)でポルトガル語を学ぶ。朝日新聞記者を経て、2002年にブラジルに移住し、永住権を取得。南米各国でワールドカップやコパ・リベルタドーレスなど700試合以上を取材。2005年からはガンバ大阪を追いつつ、ブラジルにも足を運ぶ。著書に「ジャポネス・ガランチードー日系ブラジル人、王国での闘い」(サッカー小僧新書)などがあり、「ラストピース』(KADAKAWA)は2015年のサッカー本大賞で大賞と読者賞。近著は「反骨心――ガンバ大阪の育成哲学――」(三栄書房)。日本テレビではコパ・リベルタドーレスの解説やクラブW杯の取材コーディネートも担当。

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