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単なる「お笑いキャラ」に非ず。サンフレッチェ広島戦で福岡将太がクレバーに輝く

下薗昌記記者/通訳者/ブラジルサッカー専門家
(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

 片野坂知宏監督の就任後、J1リーグではワーストとなる4連敗中だったガンバ大阪。4連勝で勢いに乗っていたサンフレッチェ広島は「今、一番勢いがあるチーム」(片野坂監督)だったが、6月29日のJ1リーグでは2対0で快勝し、嫌な流れにピリオドを打った。高卒ルーキーの坂本一彩がプロ初ゴールを決めて、脚光を浴びたが、難敵相手に見違えるサッカーを見せたガンバ大阪を陰で支えていたのは、J3リーグから這い上がってきた経験を持つ福岡将太だった。

本来目指すパスワークを支えていた福岡将太の戦術眼

 試合後の記者会見で、片野坂監督は「今回、久しぶりで先発で出た福岡将太の(ボールの)動かしというのは非常にやっぱりチームにとって良かったところ」と福岡を名指しで称賛した。

 6月26日には、直近の3試合で連敗し、計15失点を許しているコンサドーレ札幌を相手に、攻撃陣が沈黙。無失点に終わっただけでなく、放ったシュートもわずかに3本という有り様だった。そんなガンバ大阪にとって、リーグ最小失点を誇るサンフレッチェ広島のゴールをこじ開けるのは、高すぎるハードルに思われたが前半36分に黒川圭介が先制点を叩き込むと、3分後にも坂本が2点目をゲットした。

 電光石火のゴールショー以上に評価されるべきは、坂本の2点目を生み出すまでに至ったボールの動きである。

 もはや死語になりつつある「ガンバらしいサッカー」とは西野朗監督が率いた当時のチームが見せたパスワークによる崩しだが、37分、ガンバ大阪は実に14本のパスをつなぎ、相手ゴールに迫ると齊藤未月がポスト直撃のシュート。そのこぼれ球を拾った攻撃の流れから、坂本が得点につなげたのだ。

 このプレーの起点となったのは37分過ぎに敵陣で相手のパスをカットした福岡だったが、中央にボールを持ち運んで、最後尾にバックパス。ビルドアップのきっかけになっていた。

 昨年まで所属した徳島ヴォルティスからガンバ大阪への移籍を決断。1月8日に行われた新体制会見のイベントの中では一発芸を披露したり、沖縄キャンプ中にはインスタライブでユーモア溢れる人柄を見せたりとチーム内で「お笑いキャラ」的な立ち位置を見せていた福岡ではあるが、実のところ、非常に戦術理解度の高いサッカーIQを持っているのも特徴である。

 「将太のところは、すごく(相手プレスの)逃げ道になっていたし、ボールの回りが円滑になったので良かった」と最後尾からチームを見守った東口順昭も福岡を称賛したが、単なる右CBの役割だけではなく、中央にボールを持ち運んだり、相手のプレスに慌てない左右両足のキックを繰り出したりと、後方から攻撃のアクセントになっていた福岡は、4連勝中のサンフレッチェ広島撃破の影の立役者だったのだ。

片野坂監督も舌を巻いた左足の精度。利き足ではないキックの原点とは

 6月22日に行われた天皇杯3回戦ではサブ組主体で構成されたメンバーの一人として福岡も先発。左SBでやはりクレバーな動きを見せ、得意のキックでパトリックの同点ゴールをアシストしていただが、キックの上手さは日韓の代表クラスが揃うガンバ大阪のCB 陣にあっても、群を抜く。

 「左利きと間違えるぐらい左が使えるね」。沖縄キャンプ中に行われた片野坂監督との面談で、こんな言葉をかけられていた福岡だったが、左右両方のポジションをこなせるマルチぶりと、局面に応じた適切なパスの選択を支えるのは利き足ではない左も遜色ないキックが出来るからこそ。

 そんなマルチぶりの原点はサッカー少年だった小学生時代。文字通り「怪我の功名」だったのだ。

 「一回、右足を怪我した時期があって、そのタイミングで左も練習しようという僕の中で意識もあったんです。小さい時に、左利きって珍しいイメージだったので、じゃあ、両方できたら、更に武器にもなるし、プレーの範囲が広がると僕は思ったので」

 単なる「おちゃらけキャラ」でないことが、見て取れるエピソードである。

 もっとも、昌子源や三浦弦太、現役の韓国代表でもあるクォン・ギョンウォンでさえも、定位置が保証されているわけではないガンバ大阪の最終ラインはリーグ屈指の選手層。守備の耐久力が課題だった福岡は、J1リーグでは4月2日の名古屋グランパス戦以来、出番から遠ざかっていたが、持ち前のポジティブさで課題に取り組み「彼の課題である守備のところの部分というところも、すごくトライしてくれていた。このタイミングで将太が上手くハマってくれたらいい戦力になってくる」(片野坂監督)と実に3月12日のジュビロ磐田戦以来となるJ1リーグでの先発を掴み取った。

ボールを動かすサッカーで存在感。徳島ヴォルティス時代の経験も糧に

 もっとも、福岡の好プレーは中央に控える三浦の安定感や、小野瀬康介の献身的なプレーもあってのことだ。福岡も言う。「自分の良さを引き出す上で、今日だったら康介君とかボランチの(齊藤)未月との関係に自分も今日は手応えを感じていて、3人の関係に加えてダワンが入ってきたり、弦太君がいいポジションを取ってくれたことで自分がボールを持ち運べた」。

 主役ではないかもしれないが「脇役」としてボールを動かすことに長けた福岡だが、戦術理解度を深める上で大きかったのは奇しくも7月2日に対戦する浦和レッズを率いるリカルド・ロドリゲス監督と徳島ヴォルティス時代に過ごした時間だったという。

 「自分がCBの時に、ボランチにこういう動きをして欲しい、と感じるのは、僕が徳島時代に培ったものではある。(他の)CBの位置がこうだから、自分はこのポジションにいてあげようというのは自然にできるというか、徳島の時代があったから、こういうことが出来ると感じている」

 2017年の7月2日、J3リーグを戦う栃木SCの一員としてパナソニックスタジアム吹田でガンバ大阪U-23と対戦し、2対3で敗れた経験を持つ苦労人は5年の時を経て、同じピッチで輝きを見せた。

 ガンバ大阪に移籍後、先発したJ1リーグの試合で初めて勝利に貢献。「やっと自分の持ち味をリーグで出せたというのはあります」と安堵の表情を浮かべた一方で「課題もあったし、カタ(片野坂)さんが求めるモノを90分出さないといけないのは自分の課題でもあるし、守備の強度もそうです」と浮かれることなく自身の立ち位置を見つめていた。

 定位置が決して保証された訳ではない。ただ「うまくチームが循環するようにと言うか、チームが円滑に動くように自分のポジショニングを取りたい」と話すバイプレーヤーは、ボールを握るサッカーの構築では益々、存在感を放つはずだ。

記者/通訳者/ブラジルサッカー専門家

1971年、大阪市生まれ。大阪外国語大学(現大阪大学外国語学部)でポルトガル語を学ぶ。朝日新聞記者を経て、2002年にブラジルに移住し、永住権を取得。南米各国でワールドカップやコパ・リベルタドーレスなど700試合以上を取材。2005年からはガンバ大阪を追いつつ、ブラジルにも足を運ぶ。著書に「ジャポネス・ガランチードー日系ブラジル人、王国での闘い」(サッカー小僧新書)などがあり、「ラストピース』(KADAKAWA)は2015年のサッカー本大賞で大賞と読者賞。近著は「反骨心――ガンバ大阪の育成哲学――」(三栄書房)。日本テレビではコパ・リベルタドーレスの解説やクラブW杯の取材コーディネートも担当。

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